それで動機は?
※とあるミステリーの真相について触れています。未読の方は先に進まないでください。
それで動機は?
「それで……」神は探偵を促す。「動機は?」
しかし探偵は何も答えない。ただ笑っている。
「ふーむ、それで、ではなくて、ということは、ですかね? ということは……。祝福された死、ということは、殺人の動機はとてつもない怨恨なんでしょうね?」
さあ、どうなんでしょうね?
探偵はやはり明確には答えない。
「ふーむ、探偵は動機については推理しない?」
いや、寧ろ神はどうなんです? 神はすべてを知っているんでしょう?
「いや! 神と言っても神の視点を持っている、というだけですよ。映像ですべてを見てはいるけれども……。その顔でそれが誰かはわかるけれども……。その誰かが何をしたか、つまり密室の謎もわかってはいるけれども……。その誰かの心の中まではわからない」
つまり、神にも動機まではわからない?
「ええ、で、探偵はどうなんです?」
動機については……
探偵は考え込む。
整理しましょうか? 被害者とその殺され方について――
まず最初の被害者は――
姉良美。
そうそう、どこかに戸籍謄本がありましたね。
旧姓尾崎良美。佐藤稔と結婚して佐藤良美になった。
ここでの佐藤稔は小説内では水沼と呼ばれていますね。ミステリー作家でペンネームは坂東善。最初の被害者はその佐藤稔の妻の良美で、勝男の姉でもある。その姉良美は……
「自宅で殺された」神が笑って「殺したのはあなたではないんですよね?」
さあ、どうなんでしょうね? まあ、こうして探偵が復活したのですから、殺したのは私ではなく、尾崎諒馬=鹿野信吾、ということで……
殺害方法は……
そして動機は……
まあ、いいでしょう。次は……
旧姓祐天寺良美。こちらも戸籍謄本がありましたよね。尾崎勝男と結婚して尾崎良美となった。
ああ、尾崎姓は小説内では近藤です。尾崎グループは近藤グループ。グループ内の子会社、尾崎メディボーグは近藤メディボーグです。
旧姓祐天寺良美は別荘母屋二階で瀉血処理にて殺害された――いや、それは事故だったかもしれないし、瀉血による出血だけでは死ななかったのかもしれない。
とにかく、その後、心臓を抉られ、斬首された。
犯人は勝男ですが、尾崎諒馬=鹿野信吾は「自分が殺したようなものだ」とも思っているのかもしれません。
そして最後の被害者は……
尾崎勝男!
これも戸籍謄本が出てきましたよね。会長の息子で旧姓祐天寺良美の夫、いや、一言で言うならサイコパス!
彼は別荘の離れに自分の妻の生首を持ち込んで籠城したあと、尾崎諒馬=鹿野信吾によって殺された!
いきなり斬首されて!
その後、心臓を抉られて!
やはりいきなり斬首というのはあまりにも残酷です!
それで、その動機は?
「なるほど!」神が嬉しそうに言った。「このミステリーは小説上の名前とか、実際の名前とか――固有名詞がややこしい。それで戸籍謄本まで持ち出してきて――それを探偵はちゃんと理解している!」
いやいや……
とにかく今の話題は動機です。殺人の動機は……
いや、やはりそれは……
「どうしました? 動機は何だと推理されます?」
いや、やはり、そこは本人に譲りましょう!
「本人とは?」
尾崎諒馬=鹿野信吾!
犯人にして作者!




