表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
求めよ、さらば与えられん  作者: 尾崎諒馬
介錯を期待するのはやめて真相を語ろう……
59/71

神を尋問する探偵

 ※とあるミステリーの真相について触れています。未読の方は先に進まないでください。 




   神を尋問する探偵

   

「つまり、姉良美を殺害したのも尾崎諒馬=鹿野信吾ということですか?」神が訊く。

「さあ、どうなんでしょう?」探偵はとぼける。「しかし、やはりミステリーとしての謎の中心は離れの密室でしょう?」

「そうですが……」神は一呼吸置いた。「もし神が坂東善=水沼=佐藤稔の自宅は平屋ではなく……、実は階段があったと証言したら?」

「なるほど――神の証言は絶対的事実!」

「尾崎諒馬=鹿野信吾を守る探偵尾崎凌駕、そういうことなんでしょう? 本当は隠れていたクローゼットから出たあなたは階段から突き落とされ死んでいる姉良美を発見したのでは? 現場から去る時にカルディナを見たことで犯人がわかった――そういうことなんでしょう? あなたの車はカルディナではないんでしょう?」

 探偵は否定も肯定もせず、ただ、

「ということで神を尋問していいですか? 神は嘘を吐かない――真実のみを証言する」

「はて? こちらの質問は無視ですか?」

「繰り返しになりますが、やはりミステリーとしての謎の中心は離れの密室でしょう? 密室トリックの解明のために神を尋問したいと探偵は言っている」

「なるほどね。ええ、構いませんが」


 探偵は尋問を始める。

 

 では訊きます。神の視点を持つ黒川さん、あなたはこの「求めよ~」でこう書いている。


 やはり自分も見届けるべきではないか?


 そう思い直し、別荘の離れの前に戻ってみたのだ。


 顔はわからないが、ちょうど誰かがナタで離れのドア・チェーンを破壊し、中に入っていくところを見たのだ。   

 

 そう、離れのドア・チェーンを尾崎諒馬=鹿野信吾がナタで壊して中に踏み込むシーンを神であるあなたが見てそう書いている。

 

 顔はわからないが、ちょうど誰かが――

 

 そう書いている。

 

「なるほど、それは私も書いたあとちょっと気にしました」神が笑う。


 顔がわからない誰か――ということは尾崎諒馬=鹿野信吾ではない可能性もあった?

 

「いえ、あの時――事件のあったあの時、私は尾崎諒馬の顔を知りませんでしたしね。だから顔のわからない誰か、そう書くしかないでしょう?」


 しかし、あなたはその後すぐに彼の顔をもう一度、見ている――ゴミ袋に生首を入れて出てきた彼の顔を一瞬だけ見ている。すぐにマスクとサングラスで顔を隠したみたいですが、一瞬だけ顔を見ている。そしてその彼を殺し屋首猛夫と認識した。そうであれば――

 

「おっしゃる意味はわかります。顔がわからないが、ちょうど誰かが――の顔がわからない、の意味には二つある。一つは顔は見えているが知らない顔。もう一つは――例えば暗くて顔がわからない――つまり顔が見えていない、そういう意味です。知っている顔かもしれないが、見えなかったのでわからない、その二つです」


 で、どっちの意味です?

 

「顔は見えていました。しかし知らない顔でした。その彼が生首をゴミ袋に入れて出てきたので殺し屋首猛夫だとその時は思った。しかし実際は違った――そういうことです」


 なるほど尾崎諒馬の顔を知ったのはだいぶ後?

 

「ええ、今はあのインタビュー記事も見ているし、SEの佐藤さんの顔も見ている。二十年以上の年月の経過はありますが、ナタで密室を破ったのは尾崎諒馬=鹿野信吾で間違いありません。ただあの時は顔を知らなかった。だからああ書くでしょう? 普通」


 探偵はまだ納得しない。

 

「殺し屋首猛夫の顔を私は知らない。しかし、ゴミ袋に生首を入れて出てくれば、その時はそいつが殺し屋だと信じる。まだ納得できませんか?」


 でも、その顔はナタで密室を破っていた男の顔なんでしょう? そうであれば、密室を破ったのは殺し屋首猛夫と思うのが普通でしょう?

 

「あなたは失顔症ですが、こう言いましたよね? 人を認識するのは顔だけではない、とね。ゴミ袋に生首を入れて出てきた男は殺し屋首猛夫の服を着ていた。あの状況だとこう思ってしまう――殺し屋首猛夫が生首を持って出てきた、ああ任務を遂行したのだな、そうね」


 なるほど……

 

「その後、会長宅での首実検のあたりで、やはり、オカシイな、とは少しは思いましたよ。しかし、あなたと同じですよ」神は笑った。「オカシイな、そう思うけど、信じる――不合理ゆえに我信ず。そういうことです。とにかく、勝男が殺されて首を撥ねられたのは確かです。勝男の死は祝福されている! 生首を持ってきたのが誰だろうと関係はない!」


 あなたは勝男に恨みを持っている。だから「祝福された死」そう言える。しかし、()()()()()()の本当の意味はそうじゃないでしょう?

 

「ええ、それはわかります。ミステリー、特にホラー要素の強い本格ミステリーに於いて、作者と読者が祝福しているわけです。残酷であればあるほどワクワクする、そういうことでしょう。それはあくまでメタ視点であって、殺人事件の内部に於いては……」


 それを突き詰めていけば、アンチ・ミステリーになるわけですね。虚無への供物……

 

「ですが、我々は内部にいる! 決してメタ視点は持っていない!」


 それを無理やりメタ視点で見てみませんか?

 

 密室トリックを暴くために!

 

「どうすればいいですか?」


 あなたの見たものは絶対的な真実!

 

 密室をナタで破ったのは尾崎凌駕=鹿野信吾!

 

 殺し屋首猛夫はマスクとサングラスで顔を隠して、それをライラックの茂みの陰からじっと見ていた!

 

 それで間違いないですね?

 

「ええ、間違いありません!」


 つまり密室が破られた時、尾崎諒馬=鹿野信吾は密室の外にいた。

 

「ええ、確かに」


 更に訊きますが……

 

 ウェディングドレスで女装して離れに飛び込んだのは勝男だった!

 

 しばらくして、ドアを開けるとドアチェーンで少ししか開かなかった!

 

 離れの中で勝男がウェディングドレスを床に広げていた!

 

 そして何やら半透明のポリ袋に生首らしきものが入っているのが見えた!

 

 以上で間違いありませんか?

 

「ええ、私は失顔症ではないのでね」神は笑った。「名探偵に謎が解けますか?」


 勿論、顔を認識できる神が私の眼になってくれたわけですからね。


 探偵はただ微笑んでいた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ