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求めよ、さらば与えられん  作者: 尾崎諒馬
神と探偵の対決?、いや、対話?
31/71

私と彼と殺し屋と……

 ※とあるミステリーの真相について触れています。未読の方は先に進まないでください。   



   私と彼と殺し屋と……

   

 あの小説の……

 

  第二部 太陽が眩しかったから

    七章 に

    

 このあとどうなったかは少しぼかさなければならない。

水沼を詰問する鹿野信吾。手にはナタを持って非常に興奮している。懸命に何やら説明する水沼。


 (中略)

 

 とにかく身を守る必要があった。水沼は裏の物置に急ぎ、護身用の武器が何かないか物色した。

 ――あった!

 両手で持つような大きめなハンマーがあった。ナタに勝てるかはわからぬが、多少の防御にはなる。

 ハンマーを手に振り向くと、鹿野信吾がナタを持って息を切らせて立っていた。

「待て! 落ち着け! 俺は何も――」水沼は懸命に説明しようとする。

 鹿野信吾は粗い息をしながら聞いている。とにかく説明を聞くつもりではあるらしい。

 ある程度説明をし終えたが、鹿野は首を横に振った。


 (中略)


「待てよ!」水沼が外に出てくる。「ここは嵐の山荘でも海上の孤島でも――つまりクローズドサークルじゃないんだ。そうだ、あの変装した――サングラスとマスクで変装したあの――」

「あれはお前の変装だろう?」鹿野がはっきりそう言い切った。

「いや、確かに……」水沼は狼狽する。「しかし、密室はどうなる? 俺には犯行は不可能だ。勿論、信吾、お前にも――」

 水沼は懸命に何かを考えているように見えた。そして結論が出たのか、こう呟く、

「いずれにしても、やるか、やられるかだ!」

 

 そう書かれている。

 ここにも嘘がある。

「いずれにしても、やるか、やられるかだ!」

 誰も、そう呟いてはいない。

 我々は戦闘民族ではない。お互い、ナタとハンマーという武器を手にしてはいたが、話の中で少し落ち着いてきていた。

 

    *   *   *

 

 私は懸命に考えていたが、その結論を彼にぶつけてみることにした。

「俺にもお前にも犯行は不可能だ。だとしたら、やはり犯人はサングラスとマスクで変装したあいつ――確かに俺もその変装をしてお前をからかったが、あれは遊びだったんだ。それはわかるだろう? 社長夫妻と俺とでお前に対するちょっとしたドッキリを……」

「しかし、実際に凄惨な殺戮が!」

 彼の大声を制するように私は小声になった。

「しっ、いいから聞いてくれ。だからその犯人は別にいるんだ。恐らく、どこかに隠れて俺たちの決闘の様子を窺っているに違いない。だから――」

「だから?」彼も少し落ち着いた口調でそう促す。

「俺たちが決闘しているフリをして、相撃ちで倒れれば、きっと真犯人が出てくるに違いない。そう思わないか?」

「なるほど」

 私の提案を彼は少し考えていたが、理解してくれたようだった。

「二つの武器を思い切りぶつけて、相撃ちで気絶したふりをするんだな?」

「ああ」


   *   *   * 


 第五部 アンチ・ミステリーに読者への挑戦状は付くか否か?

   しばらく経った頃、外にいた に


 外で尾崎諒馬と何やら怒鳴り合っていたが、最後鈍い音がして静かになった。

 ベッドの下から這い出し、外に出てみると尾崎諒馬と顔を知らない男が二人とも倒れていた。ハンマーとナタが転がっていることから、二人で殴り合い、相打ちになったようだ。

 二人の手首に手を当ててみるが、両者とも脈はあった。

 

 そうあるが、この時二人は気絶したフリをしていたのだ。少なくとも私は意識はあった。

 

   すべてを燃やし尽くせ! に

   

 殺し屋首猛夫と尾崎諒馬のやり取りが書かれているが、私はそれを聴いていた。

 驚いたことに尾崎諒馬は自殺するつもりだったようだ。殺し屋と彼との会話で私もそれを悟っていた。

 

 続く、

 

   生首が三つ に

   

 会長宅に生首三つを持ち込んだ。

 

 からその後のことが書かれているが、そこには嘘がある。

 考えてみたまえ、これらの章は

 

  〇〇〇お茶会 6 で

 

 藤沢が殺し屋首猛夫であることを白状し、その首猛夫が書いているのだ。そして、SEの佐藤なる私が、藤沢であり、小説上の水沼=坂東善であることを白状している。

 これはつまり――

 

 私、水沼はあの時、殺し屋首猛夫と入れ替わったのだ!

 

 そうなのだ。殺し屋首猛夫が、気絶しているフリをしている私、水沼を運ぼうとした際に私は彼にとびかかった。

 殺し屋と彼の話は聞いている。殺し屋首猛夫は私も彼も殺す気だった。彼は自殺するのがわかったから見逃したが、私は自殺する気など微塵もない。

 私は善良な市民でただ惨劇に巻き込まれただけだ。この世界の悪意のすべてを引き受けるつもりはないし、責任もない。

 とにかく、そのまま気絶しているフリをしていても、この殺し屋首猛夫に殺されるだけだ。だから――

 殺し屋に飛び掛かり、武器を奪った。ナタだったか? ハンマーだったかは記憶にないが、とにかく殺し屋を打ちのめすことに成功したのだ。

 

 それで――

 

 警察に連絡を……

 

 できるはずもなかった。

 別荘に斬首死体が二つ。殺し屋は自分が始末した。まだ息はあったが、この状況で警察に何を説明すれば理解してもらえるか? 見当もつかなかった。

 

 そして彼はやはり自殺する気だった。

 

 世界の【悪意】のすべてを一身に引き受けないと……

 

 虚ろな目付きで、ブツブツとそれだけを繰り返していた。

 

 その時、私の頭にあったのは……

 

 会長への怒り!

 

 それだけだった。



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