私は――
※とあるミステリーの真相について触れています。未読の方は先に進まないでください。
私は――
私「ヴァンです。ヴァン・ドゥーゼン――つまり、坂東善、水沼です」
茶番だったかもしれない。しかし、尾崎凌駕も黒川も何も言わない。
そのまま沈黙が続いた。
黒川「本物の首猛夫は?」
私「首は死んでいます」
黒川「あなたが殺した?」
私「いえ、黒川さん、あなたが殺そうとしたんですがね」
黒川「私と弟が佐藤稔宅に放り込んで火を付けたのは、首猛夫だった?」
私「ええ。今は一万本の電極が脳髄に突き刺さって標本になってますよ」
尾崎凌駕「つまり、首猛夫と水沼――坂東善は入れ替わった?」
私「ええ」
黒川「なるほど! 小説内で青服が『ただ、佐藤稔なる人物が泊っている、という認識がその時はあり、ああ、佐藤稔が映像に映っているな、という記憶が……』そう言っていますが、佐藤稔の名前と顔の認識があったのは、別荘にカメラを設置に来ていたあなたの顔と名前がぼんやりと頭にあったのかもしれませんね。あなたとはエンジニア同士、いろいろ会話があったようですからね。あなたはマスクとサングラスで顔を隠していたが、青服――私の弟の前で素顔を見せたのかもしれませんね」
私「そうかもしれません」
私はそれ以上何も言えなかった。
しばらく沈黙が続く。
私「今日はこれでお開きにしてもらえませんか。二回目のお茶会が開かれるかはわかりませんが……」
尾崎凌駕「いいでしょう。ただ最後に一つだけ……」
黒川「何でしょう?」
尾崎凌駕「密室の謎は依然として残っています」
黒川「そうですね。余計にわからなくなってきてるかもしれません」
尾崎凌駕「このミステリーは嘘で塗れていますからね。でも……」
私「離れが密室だったのは確かです」
尾崎凌駕「そうですね」
黒川「探偵はその謎を解いている?」
尾崎凌駕「さあ、どうでしょう。ただ、あの創作漢字、国構え、合呂、左右にチョンチョン、に秘密が隠されているかもしれません」
黒川「なるほど」
尾崎凌駕「あと……。三島由紀夫は嫌いでしてね」
黒川「はて? 意味がわかりませんが――。とにかく、離れの殺人の下手人が水沼=坂東善だとすると、ますます、密室の謎は深まりませんか? 彼はずっと密室の外にいた――まあ、小説内での話なのかもしれませんが」
尾崎凌駕「密室に侵入さえできれば、犯行は数分で可能でしょう?」
黒川「数分? 短すぎませんか?」
尾崎凌駕「いや、逆です。長すぎる。数分は長すぎるでしょう」
黒川「まあ、凶器はよく切れる牛刀でしたけど」
犯人の私を放置して神と探偵が楽しそうに対話している。
私「とにかく、今日はこれでお開きにしましょう。次の章は私が書きます。私の本名は佐藤稔――小説内では水沼=坂東善です。神の視点を持つ黒川さんの指摘通り、私が離れで勝男を斬首して殺したんです。それは映像の通りです」
尾崎凌駕「勝男はあなたが殺した、と。では良美ちゃんを殺したのは? 尾崎諒馬=鹿野信吾の幼馴染の良美ちゃんを殺したのは?」
私「自明でしょう。何なら神に訊いてください」
黒川「さあ、誰なんでしょうか?」
私「逆に訊きます。姉良美、佐藤良美、旧姓尾崎良美を殺したのは、本当に尾崎凌駕さん、あなたなんですか?」
尾崎凌駕は何も返事をしなかった。
黒川「そうだ! 仮にですが……。佐藤稔宅は小説内で平屋だとなってますが……。佐藤稔宅に放火したのは私なんで私もその家を知っておりますがね。で、仮にですが……、佐藤稔宅は二階建てで階段があった、と私が証言すると、どうなりますかね?」
尾崎凌駕「ふーむ。階段はあった? 神と探偵とどちらが正しいか? なるほど、答えは佐藤稔が知っているんじゃないですか? 今、この部屋にいるSEの佐藤さん、あなたなら真実がわかるでしょう? ご自宅なんだから――」
私「勘弁してください。とにかく、今日はお引き取りください」
それでお茶会は終わった。
尾崎凌駕「これはフィクション。それでいいんじゃないでしょうか?」
最後、彼はそれだけ言った。




