耳の形と首に残るチョーカーの痕
※とあるミステリーの真相について触れています。未読の方は先に進まないでください。
耳の形と首に残るチョーカーの痕
黒川「さて、まずは耳の形ですが……」
尾崎凌駕「妻良美――つまり尾崎良美、旧姓祐天寺良美と勝男の耳の形は似ていませんでしたね。祐天寺良美は福耳だった」
黒川「そうですね。姉良美――佐藤良美、旧姓尾崎良美は映像にはないですが、勝男と姉良美の耳の形は似ていたように思いますよ」
尾崎凌駕「すると変ですね。黒川さんの話が本当だとすると、妻良美と姉良美の耳の形は違わないといけないんですが……」
黒川「尾崎凌駕さん、あなたの記憶だと二人の良美の耳の形は似ていた?」
尾崎凌駕「ええ。しかし、二十年以上前の話だし、記憶違いかもしれない」
黒川が私をじっと見る。
黒川「首猛夫が感じた違和感というのも?」
私「よくは憶えてはいないですが、確かに耳の形で違和感を覚えたのかもしれません。ただ、二十数年前なので……」
黒川「一応、神の視点を持つ私が正しいと認めるわけですね? 二人とも」
尾崎凌駕「そのようですね。この動画がディープ・フェイクでないとしたら」
私「やはり神が絶対でしょう」
黒川「よろしい。次は勝男と妻良美の首のチョーカーの痕ですが……」
尾崎凌駕「照明が暗いのでハッキリとはしませんが、勝男も、良美も首にぐるりと痕がありましたよね。ハッキリとはしませんが」
黒川「ええ、チョーカーの痕なのか? 日焼けの痕なのか? はわかりませんが、微かに……」
私「首のその痕で二人を見分けるのは困難ですよね?」
尾崎凌駕「まあ、多少位置が違ったようですが……」
黒川「斬首位置の目印?」
尾崎凌駕「さあ」
私「社長の首の日焼けの痕は、チョーカーではなく、チョーカーのようなものでは?」
尾崎凌駕「ある種のプローブ――皮膚の電位を計る精密なセンサーを仕込んだプローブを首に巻いていた、とか何とか――」
私「ええ。首に巻いたプローブで頚髄に流れる脳からの電気信号を記録したとすれば――。その記録した電気信号をそっくりそのまま首のない胴体の――止血、及び輸血してまだ生きている胴体の頚髄に電極を刺して記録したその電気信号を流したとしたら……」
尾崎凌駕「階段に現れた勝男は実は既に斬首されていた? 頭のバケツには精密な電子回路が仕組まれていて、頚髄に電気信号を――」
黒川「それを認めると、本格ミステリーで無くなってしまいませんか?」
尾崎凌駕「ヴァンダイン――、えっと十四則かな? 殺人の方法と、それを探偵する手段は合理的で、しかも科学的であること。空想科学的であってはいけない」
私「動画に階段の踊り場もありますよね。そこにバケツを被る直前の勝男が映っているはず」
黒川「まあ、くどくなるので見る必要性はないでしょう。それより重要なのは――」
尾崎凌駕「何です?」
黒川「映像には継ぎ目みたいな不自然なところは全くない。勿論、ディープ・フェイクもあり得ない」
尾崎凌駕「そのようですね。あと少し気になるのは……」
黒川「何でしょう?」
尾崎凌駕「母屋二階の妻良美の殺害と、離れでの勝男の殺害。どちらも凶器は牛刀で斬首と心臓を抉られて……。でも順番が違う。母屋二階は心臓を抉ったあと、斬首。しかし、離れは斬首して殺害したあとに心臓を抉った……。順番が違う」
黒川「母屋二階は更に斬首の前にうつ伏せにしていますが、離れは仰向けのまま……。まあ、母屋二階の方が自然な――殺人に自然もクソもないですが――」
尾崎凌駕「まあ、そうですよね。瀉血処理でほとんど死んでいると思うが、念のため心臓を抉ってトドメを刺してから斬首」
黒川「頸椎の隙間を狙うなら後ろから、つまりうつ伏せの方がやりやすいと」
尾崎凌駕「そうですよね。母屋二階の方は自然だが、離れの方は不自然ですよね?」
黒川「本人に訊いてみたら?」
二人が私を見る。
黒川「離れの下手人はあなたですよね? 佐藤さん。殺し屋首猛夫」
私は何も答えられない。
黒川「黙秘ですか?」
私「ええ」
尾崎凌駕「まあ、いいでしょう。他に何かありますか?」
黒川「そうですね。一つ重要なことが……。尾崎凌駕さんは失顔症なので気付けないことなんですが」
私は覚悟を決めた。




