黒川からのメール あの夜別荘で
※とあるミステリーの真相について触れています。未読の方は先に進まないでください。
黒川からのメール あの夜別荘で
佐藤さん、次の章を自分で書きますので、よろしく。
会長室勤務の黒服というのが、私黒川で、双子の弟青服が青山――
そういうことだ。
アンチ・ミステリーとして、完全に謎が解かれずに終わったあの……
「そのアンチ・ミステリーを読んだ後にこの前衛小説を読めば、トータルとしてミステリーになりそうですね。本格ミステリーに……」
私が佐藤さんにそう言った時に――
「誰が探偵役ですか?」
佐藤さんはそう返した。探偵役を必要としているなら、やはり本格ミステリーでしょう?
あれがアンチ・ミステリーで終わった――即ち謎が解かれずに終わったのは情報が完全ではなかったせいかもしれません。
「私じゃ駄目ですか?」黒川が笑った。「私もあの事件の現場にいたんでね」
そう続いてますね。確かにあの惨劇のあった別荘に私もいた。その情報をここで書けば、本格ミステリーになるかもしれない。そう思いませんか?
私は探偵役――いや、探偵役はやはり読者だな。
なるべくフェアに正しく情報だけを伝える、それがこの章の役割だ。
あのミステリーは嘘に塗れている。確かに――
あの時現場にいた私がその嘘を正す。
〇〇〇お茶会 4
〇〇〇お茶会 5
に生成AIが作り出したアバターが私の行動を喋っているし、
別荘に到着
しばらく経った頃、外にいた
に藤沢と名乗る首猛夫が書いた章にも私が登場する。
そこにある嘘を当の本人が正すとすれば……
黒服「さあ、私はすっかり怯えておりまして……面目ない。首猛夫と会長はあとでコピーを見たと思いますが……リアルタイムでは本当に怖くて……」
と、恐怖でリアルタイムでカメラ映像を見ていない、と書いているが……
リアルタイムで見ていない理由は恐怖ではなくて、サーバーのある、あの部屋には入らなかったからなのだ。
首猛夫と同じく、私も外にいたのだ。
黒服「離れの前が無人になった時にちらりと映像に現れたサングラスとマスクの人物がいましたので、それが首猛夫かと」
そう言っているが、映像にちらりと現れたサングラスとマスクの人物は私、黒川――黒服なのだ。
麓のホテルから別荘に駆け付けた時、既に外にサングラスとマスクの首猛夫が到着していた。
彼が私に「離れのドアを少しだけ開けて中を覗け」と指示をしたのだ。
首猛夫は勝男の顔を写真でしか見ていない。なので、よりハッキリ勝男の顔がわかる私に覗くように命じたのだ。
そのシーンの少し前、
黒服「はい、ウェディングドレス姿の勝男がやってきて――」
尾崎凌駕「顔には鬼の面?」
黒服「いえ、離れに入る直前に外して、手に持ったバケツに被せておりました。なのでしっかりと顔を見ております」
これも首猛夫と並んで、外で直接見たのだ。カメラ越しではなく、直接ハッキリと!
勝男の顔を忘れるはずはない!
弟の小指を切断し、私の……
勝男――あの野郎の顔を忘れるはずはない!
そして、
間違いなく勝男が離れの中に入っていきました。
誰かの生首らしいものを持って……
ドアにはチェーンが……
それを首猛夫に報告し、私はその場を離れ、別荘の駐車場に待機した。
私の仕事は隠しカメラの映像データをリムーバブルディスクにコピーして持ち帰ることだったが、それは首猛夫に任せることにしたのだ。
私が神の視点を持っているかの判断は読者次第だが、少なくともカメラを通じてではなく、直接見ているシーンについては間違いはない。
確かに私は怯えてはいた。
青服がカメラ越しに見たという母屋二階の殺人斬首の件は会長から聞いていたし、その犯人たる勝男を処分するために殺し屋首猛夫が別荘に来ている。
本当に恐ろしくて仕方なかった。
それでも――
やはり自分も見届けるべきではないか?
そう思い直し、別荘の離れの前に戻ってみたのだ。
顔はわからないが、ちょうど誰かがナタで離れのドア・チェーンを破壊し、中に入っていくところを見たのだ。
そして――
それをライラックの茂みの陰からじっと見ているサングラスとマスクの……
そうなのだ。殺し屋首猛夫は密室の外にいたのだ。
しばらく経った頃、外にいた
に首猛夫が書いたことに嘘はないように思われる。
少なくとも、密室が破られた時に首猛夫は密室の外にいたのだ。
私の見たのはそれだけだ。密室が破られた後、私は再び別荘の駐車場に戻って待機した。
会長の命令は知っていた。首猛夫が命令を実行した場合、彼は勝男の生首を持って戻ってくるはずだった。




