第55話 アーミン便
マジックバッグを利用した移動方法は王家にしか明かされていない極秘事項であった。
だが、クレストの急病を知らせる為にアーミンを呼びに行ったドランさんを見た王城内のものは多数。
極秘を続けるのは非常に難しい状況にあるが、それでも王城内にその事を追及する者は今のところ幸いにして出ていない。
現在は海運業ギルドと魔法士ギルドに対する調査が行われており、長年に渡る闇の部分が少しずつ明らかになり始めたので、そちらの方に大きな関心が寄せられているからである。
それに黒龍アーミンに比べれば、チビッ子のドランさんはまだマシ…と言うか、クレストのペットには特種な能力があり、決して敵対してはならないと殆どの者が理解しているのだ。
丁度今、そのドランが王城にやって来て国王達にクレスト復活の報告を終わらせたところだ。
ルシウム国王、エリック皇太子、そしてガースト宰相がこれからの予定変更をしなくてもすむことに安堵すると、山のようにお菓子をドランさんに渡すようにメイドに指示を出す。
お菓子を貰ってホクホク顔のドランさんだが、国王達にその表情の変化は分からない。
念話の感じから機嫌が良さそうだと判断したのだが、実は犬と同じで尻尾を見ればすぐに分かる。
「それでドラン殿、サリアス王妃はどんな様子かの?」
国王が一番気にしていたのは王妃がいつ王都に戻って来るかだ。
シャーリン王女が代行しているとは言えど、やはり経験の差は遺憾ともし難く、傍目にもストレスが溜まっているのが分かるようになってきているのだ。
『ブリュナーから聞いた話では、リミエンは実にけしからん、我を太らせるつもりかと笑って言たそうです』
「食べ過ぎには気を付けさせてくれ…いや、そんなことではなく、王都にいつ戻る予定か知りたいのじゃ」
『それなら、クレストさんがリミエンに戻ってくれば戻ると言っています。
その代わり、定期的に来られるように道路整備をハーフエルフ集団に任せる予定だとも』
リミエンと貯水池の間では馬車鉄道専用道路の工事が急ピッチで進められており、王妃はあの集団を王都に招くことは出来ないものかと真剣に考えている。
既に実際に会って会話も交わしており、性格についてはある種の国民性の違いのようなものだと認識している。
リミエン伯爵も全員をリミエンで面倒を見続けることは不可能なことから、王妃の考えに賛同しているのだ。
その件に関してはブリュナーがドランさんに手紙を託しており、王都から工事部門の責任者達を派遣して面談することがこの後に決まる。
『アーミンを借りられるなら、森のダンジョンから一日掛からずリミエンに連れてくることが』
「それなら!今すぐアーミンを呼んで来るぞ!」
『ですが、黒龍化には一週間のクールタイムが発生するそうなので、いつですかね?』
アーミンがクレストを森のダンジョンに運んだ日から今日が丁度一週間だ。
「クレスト殿を乗せた籠はまだあるのか?
それに王妃を乗せて、アーミンに飛ばせることは出来ぬかの?」
『それは本人に聞いてください』
相手が国王だろうが、ドランさんには一切お構い無しである。
そして一ヶ月間オヤツ増量という餌に釣られたアーミンが、喜び勇んでマジックバッグ経由で森のダンジョンへと移動したのだった。
そして森のダンジョンでは、ドランさん専用のマジックバッグから白いオコジョが出てきた現場を、運悪く目撃した冒険者ギルドの受付嬢はしばし呆然としたものの、
『我は黒龍アーミンである。
これからマスター・クレストを迎えに行くぞ』
と初めての念話でパニックを起こしてキャーっと大声を上げる。
何事かと他の職員達が駆け付けると、
『マスター・クレストを迎えに来たのだ!
邪魔はせんでくれ!』
と怒鳴ると職員達の間を縫って素早くチョコチョコと走って建物を出ていった。
広場に出たものの、自分が黒龍の姿に戻ると建物を破壊するだろうと見当を付けたアーミンは小さな羽を背中に生やすと走るのをやめて出入口の方へ向かいながら高度をゆっくりと上げて行く。
地下空間とは思えないこの巨大なダンジョンは、アーミンが黒龍になってもまだまだ余裕がある。
が、念のために天井近くまで上昇したアーミンが『黒龍降臨』のキーワードを唱えると、白い体を一瞬で黒く染め、黒い魔力の粒子となって拡散する。
地面にドラゴンの形の影が出来たかと思えば、強烈な魔力を撒き散らす黒龍アーミンが姿を表したのである。
ゴツンっ!
目測を誤り頭と羽を天井にぶつけて瓦礫をパラパラと落とすが、アーミンにはノーダメージ。
『世界樹までひとっ飛びだ』
と呟き、他の物には一切目もくれずにまっすぐ世界樹を目指して飛び始めた。
彼が突然空に黒龍が現れてパニックを起こした移住者達の事など知る筈もない。
一時間ほどの飛行でダンジョン最奥に到着したアーミンだが、さすがに時速二百キロメトル近い速さでダンジョンの中を巨体が飛べば、気流は乱れアーミンの飛び去った後は激しい風に煽られ木々が激しく揺れていた。
それに独特の飛行音が騒音となって広範囲に響くのだが、それもアーミンにはお構いなしだ。
それだけ速く移動すれば、人間ならゴーグルを装着しないと目が開けられないが、ドラゴンは作りが違うのでそんなものは必要性無い。
アーミン本人は帰りもこの速度を維持すれば、オヤツの時間迄には王都に到着するだろうと算段しているのだが、クレストが耐えられるかだ。
アーミンの飛来は飛行音によって何かが来るとクレスト達人間にも分かっていたが、アルジェンが魔力を感知してアーミンだと特定した。
まさかこんなに速くやってくるとは思っていなかったクレストだが、早くリミエンに戻れるのだから問題は無いだろうとアーミンによって起きたアレコレは考えないことにした。
『マスター・クレスト、迎えに来たぞ』
「思ったよりメチャクチャ早く来たな。人に迷惑かけてないよな?」
『当たり前だ』
ドヤ顔を見せるアーミンだが、龍の表情は人間には分からない。
「それなら良かった。
ドランさんと一緒じゃないのか?
『あやつが居なくとも、一人でマジックバッグの移動は無理だ』
そう言うと、自力でマジックバッグの中に飛び込むオマケをみせる。
『マスター・クレスト、最速でリミエンに戻るぞ』
「もう少しゆっくりしていっても大丈夫でだろ?」
『我のオヤツが増量されるのだ。
それに見合う働きをするまでよ』
コイツは元々食い意地張ってたからな、と初めてアーミンと会った時のことをクレストが思い出す。
目の前に巨大な龍が現れ、スオーリーもマーメイドの四人も内心はびびっているのだかクチに出すことはない。
「このドラゴンはクレストの飼いドラか?」
骸骨さんだけは初対面のアーミンにびびることなく近寄り、ペタペタとアーミンに触れて喜こぶのだった。




