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第53話 ドランの冒険 (中編)

 ドランさんがミニッチュさんと合体した銀色の龍の姿で領主館の前に出来たダンジョンに入ることに成功した。


 汚水の臭いなど全く気にならないドランさんはひたすら地下水路ダンジョンを進み、四体の像が並ぶ怪しい広間を通過するる。

 そして大した盛り上がりも無いままに、ダンジョン管理者の居る場所へとやって来たのだ。


 真っ暗闇の中、全く方向も何もわからないダンジョン管理者の産み出した空間を平然と進むドランの周囲が急に上方からのライトによって照らされた。


『これはスットコどっこい、ではなくスコップバイトと言うやつですかね?』


 恐らく言いたいのはスポットライトだろうが、周囲に誰もおらず突っ込まれることはない。


 と思われたのだが、

《アハハハハっ! スコップバイトって何よ!

 どんなバイト? ドカチンだよねっ!

 おもしれー! 超ウケるぅっ!》

とどこからか念話による笑い声がドランに届いた。


『あれ? 間違って覚えていたのですか?

 ストックないと、でしたっけ?

 それとも…』

《アハハハハハハッ! やべぇ!

 笑い死にするって!

 チビッ子の癖して見所あるじゃん! 俺の仲間になるか?》

『いえ、こう見えて実は大人なんですかね?』

《俺に聞くなよ、本当面白いやつ!》


 そう笑いながら姿を現したのは、緑色の十字が入った黄色いヘルメットを被り、背中にツルハシとシャベル?を斜掛けにした骸骨だった。

 手には丈夫そうな革の手袋、脚には安全靴を履いているが、肉が無いのに落ちないのは何故か不明だ。


《よく俺の張った結界を突破出来たな》

『そんなものがあったんですか?

 全然分かりませんでしたが』


 人には見分けが付かないが、そうでしたっけ?と本気で悩む顔を見せるドランである。


《無自覚の天才か。まさかお前、転生者か?》『いや、正真正銘この世界生まれのドラゴンですよ。

 よくトカゲに間違われますけど、羽を出せば納得してもらえます』

《そりゃそうだ、飛べるトカゲなんて居ないもんな。

 それでさ、一体何しにこんなところに来たんだ? 悪いがここじゃ茶の一杯も出せやしないぞ》


 土木工事の作業員のような装備の骸骨だが、どこからか椅子とテーブルを出してどかっと座る。


《まぁ、座ってくれ。

 初めての客だからな。俺が死んだのは今から…何年前だっけ?》

『私に聞かないでください。

 あの、話が長いようなら帰りますよ。

 お昼ごはんまでには屋敷に帰りたいので』


《おいおい、茶を出さないからってそんなに怒るなよ。

 ここじゃ茶は手に入れるのも一苦労なんだぜ》

『どうやって入手するのか気になりますが』

《それは企業秘密だぜ》


 わざとらしく両手を上に向けてお手上げのジェスチャーをする管理者だ。


『ここに来たのはお茶を飲みにではなく、ましてやパンケーキを食べに来たのでもありませんから』

《じゃあ、なんでわざわざ来たんだ?

 人間には来られないよう、悪臭をわざと撒き散らしているんだが》

『人の住む町の中で明らかに魔力異常が発生すれば、誰だって原因が知りたくなりますよ。

 しかも場所が町の一番偉い人の住む場所の目の前なんですから』


 これがまだ人の寄り付かない場所なら、クレスト達も急いでドランさんを派遣することはなかったのだ。


《怪しい連中がさ、毎日毎日続けて地面の同じ場所に怪しげな魔法を打ち続けたことがあってな。

 それはどうやら工事魔法らしかったが、このダンジョンにまで蓄積魔力が届いてしまってな。

 ダンジョンの防衛機能が攻撃と判断して迎撃に出る選択をしたってわけさ》

『つまり管理者である、あなた自身は関与していないと言うことですね?』

《防衛機能を作ったのは俺だが、やろうとしてやった訳じゃないから無罪だぜ》


 つまりプログラムが予想外の動作を起こしても、作ったプログラマーには罪はないと言う理屈である。


『迎撃に出るとは、具体的にはどんなことを?

 わざわざ地上に昇降装置を作って人を招き入れようとしたのは何故か分かりますか?』

《この町の地下には下水道が通っていてな。

 俺の管理するスライム達が汚物を食べて浄化しているんだが、それをストライキさせるつもりだ》


 直接的な攻撃ではないが、ストライキが長期に渡り続けば市民生活に大きな影響を与えるのは間違いない。


『それは大変困ります。

 私が美味しい物を遠慮なく食べられるのは、上下水道がきちんと機能しているからです。

 それが急に機能停止になれば、人はパニックを起こして美味しい物どころではなくなります』


《お前、見た目以上に食い意地張ってるな。

 ここは基本的にゴミしかないから、お前が暮らすことは出来ないぞ》

『だから最初に断っています』

《そうだったっけ?》

『随分適当ですね』

《それが俺の取り柄だからな》

『そんなことは取り柄になりませんから』


 コイツとの交渉は少々骨が折れるかも知れないぞ、と骨格もない水晶龍のクセに思うドランである。


《そう言えば、お前はキリアスのダンジョンに居た管理者のサポーターだろ?

 ダンジョンネットワークに出てたから知ってるぞ》

『ご存知でしたか。

 私はそちらのことは知りませんが』

《そりゃそうだ、いつも会議には鎧を着て出てるからな。鎧の中が骸骨なんて、おとぎ話みたいだろ?》

『なんとなく、パクってる気がしますが気のせいでしょう』

《パクり言うなよ。リスペクトって言って欲しいもんだぜ》


 そんなことはどうでも良いので、防衛機能によるスライムのストライキをお願いしたいドランさんである。

 ただ空気を読めるチビッ子なので、相手の雰囲気を見て交渉しようとしているのだが、如何せん骸骨なので表情はない。


『管理者さんは、スライムを自由に操れるので?』

《まぁな。

 ここに居ながら町の様子を同時に二ヶ所まで見ることも可能だぜ。お前も見てみるか?》

『えぇ、是非』

《スパイムワン、スパイムツー!

 映像リンク頼む!》


 管理者がそう言うと、数秒後に骸骨の目から光が放射され始め、空中に丸い形の映像が投影されるようになった。


『これは…串焼き屋台の近くですか。

 もうひとつは…どこかのお屋敷の中ですね?』

《そうだ。地上に放っているスパイスライム、略してスパイム達が百は居る》

『覗きは犯罪です』

《ばれなきゃ犯罪は成立しないさ》

『それは…見解の相違でしょう。

 これ、音は拾えないのですか?』


 ドランがそう言うと、骸骨の左右の耳から人々の会話が流れ始めた。


『盗聴まで出来るとは、さすがに驚きましたね。

 これならクレストさんの悪い噂の出所がわかるかも知れませわね』


《クレストは黒龍にさらわれたんだよな?

 普通は王女や姫だと思うが》

『あなたの普通が些か気になりますが』

《おとぎ話でも男が龍にさらわれるなんて、ねえもんな。どこのびーえるだか》

『びーえるは存じませんが、あまり健全では無いことが分かりました』

《印刷機がないからラノベのオネダリは難しいか』


 転生者であることをばらした管理者であるが、ドランは知らない単語なので気に止めなかった。

 それよりスパイムが居ればと本気で欲しがるドランだった。

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