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第51話 地下へ進行

 領主館前の空き地に突如出現した怪しい魔法陣と東屋の前に、冒険者ギルドからライエルと大銀貨級パーティーの『丘の鯨団』、魔法士ギルドのギルドマスターと幹部達、それと領主館から領兵の中でも腕利きと呼ばれる者が三名集まっていた。


「この魔法陣自体には危険性は無いようだ」


 魔法士ギルドのギルドマスターが仲間達とアレコレと調査をした結果、光の柱を立ち上らせていた魔法陣の解析結果をそう伝える。


「となると、いかにもここに来いと誘っているようなあの東屋みたいな建物が怪しいか。

 こんな場所にわざわざ休憩施設を作る者が居たとは思えないからね。

 何かの仕掛けがあると見た方が良いだろう」


 そう言うライエルの視線が東屋にしては随分無骨な作りの建物をじっと捉える。


「金貨級もマーメイドもクレストも居らん今、誰があの東屋に最初に入るかだが…領兵の皆には折角だが」

と丘の鯨団のリーダーのバレイアが兵士達は邪魔だと追い払うようなジェスチャーをする。


「我々では役不足だと申すか!」

と領兵達が気色ばむがバレイアはそんなものはどこ吹く風で、

「こう言う良く分からん物は、昔から冒険者の領分だと決まっておる。

 だから警備が儂らを呼んだんじゃろ?

 儂らが先遣隊として先に出るのが筋と言うもの。邪魔はせんでくれ」

と軽くあしらい、メンバーに手で進むぞと合図を送る。


「隊長さん、ここは彼らに花を持たせてやってください。

 活躍の場が無くて少し腐っていましてね」


 丘の鯨団を見送るライエルが領兵達にウィンクすると、

「彼らなら多少のトラブルにも対応出来ますから。

 どうなるか、ドンと構えて見守るのが心の広さと言うものです」

と、悪く取ればお前ら、心が狭いぞと貶してたような言葉で黙って見ていろと説得する。


 丘の鯨団が慎重に魔法陣の中に歩を進めて東屋に到達する。


「そこはどうなっている?」

「丸い石の上に柱が四本立って、天井を支えている!

 他には何も無いぞ!」

「リーダー! この柱に上向きの三角と下向きの三角が掘られてる!

 森のダンジョンに入る仕掛けと同じやつかも!」


 メンバーの一人がそう言って下向きの三角に触ると、足元の円形の石の中心部に白い光の柱が立って天井にぶつかった。

 それが合図になったのか、丸い石が丘の鯨団を乗せたままゆっくりと地中に向かって沈み始めたのだ。


「親切な仕掛けじゃないか」

と腕を組んでライエルがパーティーを見送る。


 森のダンジョンに入る為のエレベーターを使ったことのある冒険者ギルド関係者なら、下に向かって移動する小部屋を経験しているのでライエルと同じような反応を見せる。

 それは丘の鯨団の面々も同じこと。


「コイツは楽チンだ」

「さすがに王城にもこんな施設は無いだろうな」

「そのうちクレストが作らせるんじゃないか?

 あいつはこう言う動く物が好きだろ」


 地下に埋もれるように動く東屋擬きのエレベーターの中でもこの余裕である。

 逆に森のダンジョンに入ったことの無い魔法士ギルド幹部と領兵達は、突然埋まり始めた東屋擬きに驚き、慌てふためきライエルを笑わせた。


 そんな地上のことは知る訳もない丘の鯨団が、ゆっくりと動くエレベーターから見ているのは綺麗な円形に組まれた石組みの壁である。

 壁の所々に灯りの魔道具が埋め込まれているのか、地下だと言うのに真っ暗ではない。

 それに東屋の天井にもシーリングライトのような灯りが淡く灯っている。


「悪意のある仕掛けとは違うだろうな」

「まだそう決め付けるには早いだろ。

 一見優しそうに見えて、実はとんでもない女に騙されることもあるからな」

「それはリーダーの実体験で?」

「お前な…一般論だろ」

「騙されたんだな」


 実に仲の良い男性五人の仲良しパーティーである。


 そんな彼らを乗せたエレベーターがゴトンと音を立てて停止する。

 そこはレンガを並べて作った地下通路の突き当たりで、森のダンジョンのように天井に灯り石が埋め込まれているのか外のように明るくなっていた。


「結構降りてきたな」

「恐らく町の下にある地下水路と同じ高さにあるんだろう。

 それか、そもそもここも地下水路の一部かも知れんぞ」


 彼らは地下水路の清掃依頼を受けたことが無いので内部がどうなっているのか全く知らないのだ。


 それでもゆっくりと流れて行く水の音が聞こえ、圧迫感のある人工の通路と言えばそれしか思い付かないのだ。

 それに、

「エレベーターのあった辺りはまだ良かったが、進んで来ると臭いがきついな」

と言うように、先に進むに連れて悪臭によって鼻にダメージを受けるようになってきた。


「これは撤退するしかあるまい」

「この匂いが敵じゃあなぁ…せめて敵の一匹でも見付けておきたかったが、仕方ないか」


 まさかの悪臭による撤退を余儀なくされた一行であった。



 クレストがアーミンによって運ばれたことでリミエン中にパニックを起こした日のことだ。

 巨大な黒龍をクレストが王都で迎え撃ち、結果的に王都に住み着くこととなった経緯やアルジェン達チビッ子組の保護令が出たことを、リミエン伯爵は予定を前倒しにして発表することにしたのだ。


 黒龍のインパクトに比べれば、アルジェン達など大した話題にもならない今がチャンスだと、伯爵が思いきった行動に出たのである。

 王都の広場よりかなり狭い町の中央通りに急遽設置されたのは、政治家が選挙演説を行う 時の舞台と似たようなものであった。


 そこに立ち、プラチナバットで運ばれた短い文章の手紙とドラ猫便で届いた詳細の手紙を元に作った原稿を手にした伯爵が押し掛けた民衆の中に居る王妃を見付けたのは本当に偶然であった。


 顔を知るブリュナーが護衛のように付いていたのが王妃を見付けた切っ掛けだが、最初に見た時はまさかそんな筈は無いだろう、そう結論付けようと思ったのだ。


 だが、領主館にそのような連絡も報告も一切上がって来ていない。

 それであればお忍びでリミエンに来たと考えるべきであり、クレストが王都から連れて来た女性二人を自宅に招いたと言うのも警備上の事を考えれば理解できる。


 理解はしたが納得は出来ない。

 そんな状況に置かれながら、黒龍の件と妖精等希少魔物保護令についてその場で説明を行っていく。

 あの黒龍が危険ではないと午前中に町に出てパニックを納めた伯爵の言葉に聴衆は聞き入った。

 ある意味、アーミンの出現によって人々の関心が一気に高まったのだから、思い付きでの緊急発表であったが失敗ではない。


 説明を終え、手元の原稿を短時間に大量に印刷出来る機械があれば、印刷したものを配布出来るのになとクレストが印刷機に拘っていたことを思い出す。


 そして舞台上から降りた伯爵はブリュナーと王妃を捕まえるよう警備員に指示を出した。

 捕まえると言うのは誤りであるが、事前の連絡無しにリミエンに来ていた王妃に一言二言の文句は言っても構わない、そう思ったのだ。


 その二人が仕方ない、と言った様子で舞台横にある仕切られたスペースにやってきた。


「相変わらず良い目をしておる。

 まさかあの中から我を見付けるとはのぉ」


 まるで悪いと思っていないような様子で笑う王妃に溜め息しか出ない伯爵であった。



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