第50話 領主館前の騒ぎ
リミエンで魔力異常が発生したとミニッチュさんから報告があったらしい。
だが、ミニッチュさんがいつリミエンに行って、いつ戻って来たのか俺は知らない。
恐らく夜中に往復したのだろうが、森のダンジョンに戻って来てから時間がそれなりに経っているよね?
それにさっきまで楽しそうに遊んでいたけど、出来れば遊ぶ前に方向して欲しかったよ。
ミニッチュさんと合体して、プラチナルチルクォーツのような綺麗な姿に変身したドランさんがマジックバッグ経由でリミエンに戻って行った。
恐らくこの移動方法がこの世界では最速だろう。
今のところ、この移動方法を利用出来るのはドランさんとアーミンの二人だけだ。
アーミンはまだ自力では試していないそうだが、方法は理解しているのでいつか利用することがあるかも知れない。
ミニッチュさんとドランさんが居なくなって、残ったチビッ子はアルジェンとカオリの二人だけ。
「カオリが俺に懐いたのは、骸骨さんのテイムスキルのお陰か?」
ウドルの町でずっとバラおばさんことロジエさんの花壇に居た時は動くことがなかったカオリが、俺が町に入ったタイミングで動いたと言うことは、恐らく…いや、間違いなく俺を認識してのことだろう。
「そんなのは本人に聞け。
スキルがあろうがなかろうが、懐かん魔物は一生懐かん。
スキルはあくまで魔物に自分を認識させるブースター程度の役割しか持たんと思え。
ゴブリンどもがお前に懐かないのもそう言うことだ」
「魔物と一度戦って、勝たないと仲間にならない仕様は無いんだな?」
「半殺しにした相手の仲間になるわけ無いだろ。
それで従うのは仲間じゃなくて奴隷も同じだ」
大抵のゲームでは戦闘が必須だけど、そこの部分はゲーム仕様になってないのか。
ステータスオープンで少しステータスがみられるようなゲーム的なシステムがある割りには、他の部分が作り込まれていないんだよね。
大雑把に方向性だけ決めて、細部は後回しにしたままって感じの世界だと思う。
「カオリの話はどうでも良いのです。
パパは早くリミエンに戻ってダンジョン管理者に詫びを入れに行かないとイケないのです」
「まだ管理者が怒ってるって決まった訳じゃないだろ。
それより魔力異常って、具体的にどんな感じなんだ?」
「ミニッチュさんの話だと…」
◇
「おい! あそこ! 何かおかしくないかっ!?」
領主館前の空き地に異変を察知したのは、壁にある見張り台から監視をしていた警備兵の一人だった。
その声にもう一人の警備兵が見張り台にやってきて、仲間が指差す場所を見る。
「光ってる?」
時刻は真夜中、日付けが変わった頃である。
起きているのは彼ら警備関係者か、夜間にしか行動出来ない訳ありの者だけかも知れない時間帯で、広場に灯りを点けて何かやらかそうとするものはそうは居ない。
「あの辺りは、道路工事の訓練してたところだな。
ははぁ、アイツらが何かやらかしたに違いない」
「キリアスのハーフエルフか。
そうだならアイツらなら何かおかしなことをやって当然だな。
壁の外だし、こっちに影響が無いなら無視で構わんよな?」
キリアスからやって来た三十人のハーフエルフ集団に対する彼らの評価はそんなレベルであった。
クレストに脅されて毎日魔法の訓練を行った結果、今ではリミエンで一番の土木建築集団に成り上がったハーフエルフ集団だが、今のところ衣食住と仕事は与えられているが、現金はまだである。
下手に金を渡しても、すぐに使いきってしまうのではないかと懸念されているのもその理由の一つで、いずれ彼らには金融面の教育が施されることになる。
その教育は森のダンジョンの移住者達にも予定されており、それが終わってから仕事の対価として現金を支払うことになる。
ただ、木材不足の危機は脱したと言ってもまだリミエンに金銭的な余裕は無いので、現物支給と現金支払いの両方からスタートすることになると思われる。
一時期は領地館に滞在していたハーフエルフ集団は、現在町の外れのアパートを宛がわれている。
荷物は殆ど無かったので引っ越しは簡単におわり、処分予定の家具などを集めて彼らに配布されたそうだ。
手先の器用なメンバーが家具の補修を行い、布団や衣服も中古品が渡されて繕いながら着用している。
キリアスでも同じことをしていたので、質が悪いからと怒ることもなく受け入れられ、彼らを担当した役人も実はかなりホッとしていたそうだ。
そんな余談はともかく、その集団が毎日工事魔法を放っていた地面が淡く光り出したが、アイツらのやることにいちいち反応するのは時間の無駄だと悟っていた警備兵だが、一度その場を離れて時間を置いてから再び見張り台に立つと、明らかに地面の輝きが強くなっていたのだ。
「アイツらの嫌がらせか?
それにしちゃ、随分ての込んだ嫌がらせだな」
見張り台からは怪しい光が楕円形に見えており、そこに立てば丸い形であることは容易に想像が付く。
ただ、それから夜が開けるまではそれ以上の変化は見られず、明るくなってから警備兵が光る地面のそばにやって来た。
「魔法陣だ…よな?」
「俺に聞くなよ、魔法陣の専門家じゃねえんだぞ」
その日の最後の仕事で現場を確かめる夜勤組がそんなことをクチにする。
「中に入っても大丈夫か?」
「石でも投げてみるか」
誰かがそう言って魔法陣の中に小石を拾って投げ入れた。
何かに妨害されることもなく小石は中央部に落下し、ポトッと小さな音を立てた。
「何も変わらんな」
「石だからじゃないのか?」
「人が入るのは危険だぞ、そう言うのは冒険者の仕事だ!
よし、俺らの仕事はこれで終わりにして引き継ぎに行くぞ」
「だな。隊長に報告だ」
そう結論付け、四人が踵を返してその場から立ち去り始めて数秒後、彼らは背後から突然響いた轟音と衝撃に慌てて振り返った。
そして目にしたのは、魔法陣だった場所から天に向かって立ち上る光の柱と、その中に建つ東屋のような物だった。
「至急隊長に報告だ!
こいつはヤバい緊急事態かも知れん!」
この四人の中で小隊長の役職を持つ者がそう叫び、全員が急いで領主館へと帰還する。
警備室では報告を待つ警備隊長が檻の中の熊のように行ったり来たりしながら報告を待っていた。
「た、隊長! 緊急事態です!」
警備室に入るなり、小隊長が慌てて色々すっ飛ばしてそう言うと、
「そう言う時こそ落ち着けっ!」
とさっき迄の自分を棚に上げた隊長がそう叱る。
「はいっ! で、城門外に魔法陣が出来ておりました!
それが爆発したかと思うと、光の柱が立ってそこに怪しい東屋が出現しました!
調査のため、冒険者ギルドに至急連絡を入れるべきであると思われます!」
少しだけ冷静さを取り戻した小隊長が、それでもまだ慌てて報告すると、
「あの光は魔法陣だったのか…冒険者ギルドはまだ金貨級以上の冒険者が貯水池ダンジョンに掛かりっきりだ。
頼みのクレスト殿も不在…となるとライエル殿に頼むしか手はないか」
と警備隊長が腕を組んで考える。
「どちらにせよ、まずは伯爵様に至急報告を頼む。
まだ執務前の時間だが、致し方あるまい。
一人は至急冒険者ギルドに応援要請を頼む」
まだクレストがアルジェンから話を聞く前に、既に事態は動き出していたようだ。




