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(閑話 骸骨さんは…)

『…クレストは治ったか…』

《何とかなるもんじゃな》

『げっ! 神さん、急に出てくんなよっ!』


 クレストの魔力欠乏症の治療の為にクレールを血液の濾過装置として利用したのは良いのだが…


『俺、今度はスライムの中で生きていないか?』

と骸骨さんが体を動かし、そうぼやく。


《どうやら、お主の魂は血液の流れに乗ってクレールに入り込んでしまったらしいの》

『それ困るだろ。

 クレストには俺のサポートがまだ必要なんだぜ』

《しかし、クレストに戻すにはまた血液の循環が必要じゃ…めんどくさくて、かなわんわぃ》


 神様の心底イヤそうな様子がセラドリックなマジマジと伝わってくる。余程クレストの治療に手間取ったと思われるが、神様ならそれぐらいちょちょいのちょいじゃないのか?と普通に思う元魔王だ。


《それで、お主はクレストに戻りたいのかの?》

『そうだなぁ…ここでスライムとして暮らして行くよりは戻りたいが…どうせ出来ないんだろ?

 神様って、案外大したこと無いんだな』


 めんどくさいと言ってたんだし、戻りたいと言っても無理な物は無理なののだと諦めている元魔王である。


《お前みたいなイレギュラーに言われたくないわぃ。

 人間がどうして何度も転生を繰り返したり、魔王になったり骸骨になったりスライムになったり出来るんじゃ?

 もう少し人間らしく生きて欲しいと思われて当然じゃろ?》

『どれも俺の意思でやったことじゃねぇよ。

 どうしてそんなことになったのかは、転生なんて仕組みを作った神様に聞いてくれ。

 それに俺は骸骨になってダンジョン管理者やってた時にクレストになって俺の魂が戻って来たんだ。そんなの俺に狙って出来る訳が無い。

 どうせどこかの暇神が、何かの娯楽に俺を使ってんだろうさ』


 前世では魔王セラドリックと呼ばれた俺だが、身に付けたスキルは残っているが、記憶の大半を失っている。

 恐らくクレストと魔力融合を行ったことが記憶を無くす原因になったのだろう。


 しかも今度は魂がスライムに転移してしまったのだ。波乱万丈の人生を送ってきたつもりだが、まさか死んでからもこんな楽しい目に遭うとは。


『まぁ、暫くはこのスライムの体で遊んで見るつもりだ。

 クレール自身もかなりレベルアップしてる感じだし、どんなことが出来るのかちょっと興味が湧いてきた』

《そうか…スライムに飽きたら言ってくれんか。

 なるべく早くクレストに戻れるように方法を考えておいてやろう》

『期待してるさ。

 …魔界蟲本体さんとの連絡は…あぁ…なるほど、魔界蟲通信機能とダンジョン管理者ネットワークの融合で…ほぉほぉ、なるほど…よし、まずはゴブリンキング狩りから初めてみますか』


 ポヨンポヨンと跳ねながら進むセラドスライムだが、途中で歩くのを止まる。


『せっかくだし…変化の術っ!』


 セラドがそう叫ぶ…ちなみにクレールに発生器官は無いため声は出ていない。

 ドロリと溶けて水溜まりのように広がったクレールから湯気のようなものが立ち上り始め、辺りを真っ白に染めると白くピカピカと何度か明滅を繰り返す。


 やがて湯気がその場から消えると、そこには透明な体の人間のような姿の何かが立っていた。


『スライムから人間の体を作ってみたんだが…うまくいったか?』


 試しに少し歩いてみると、人間には無いところに無数の間接があるような気持ち悪い動きを見せる。


『…うむ、これだとキモい生き物だな…やはり骨格を形成しないと人の動きは再現出来ないか。

 内骨格の形成は…案外ムズい…が、骸骨時代の記憶を元に…変形の術!』


 不気味な人形のドロドロから白い煙が吹き出し初め、その噴出が終わると…


『…えーと…今度は骨が白くて他が透明な人体模型か…』


 白と言うにはかなり色が薄く、半透明と言っても良いぐらいの色が付いた骸骨がスライムの中に姿を見せた。

 それで試しに歩いてみると、今度はスムーズに人のように歩くことが出来たのだ。


『よしよし、これなら人と同じように活動も出来るし、スライムに戻ることも出来るし、なかなか良いんじゃ?』


 それから軽く走ったり跳んだりしてみて調子を確かめる。


『オリンピックに出れば、全種目優勝出来そうなスペックじゃねえか?

 出ないけどさ…』


 百メトル走で五秒を切り、垂直跳びで五メトルに達する能力…軽く人間を超えてどこの漫画の登場人物かと聞きたくなる。


 問題は半透明な白い骨が透けて見える、グロテスクな見た目ってことだ。

 深海に居たならまだ納得が出来そうだが、さすがに陸地で遭遇すると出くわした相手はまず間違いなく叫びながら逃げ出すだろう。


『クレストの遺伝子を少し分けてもらうか…』


 特に人に会う予定は無いが、もし今後もクレストに何かあってここに来ることが無いとも限らない。

 その時にエマやオリビアを驚かさないように、人間に見える姿を取れるようになっておくべきだとセラドリックは思ったのだ。


『あ…クレールに遺伝子情報が残りまくってら…

 これを使ってゲノムリコンポジショナーを発動すれば…』


 ぶつぶつと呟きながら、遺伝子入れ替え魔法を発動させたセラドリックは実は魔法の天才だった…訳ではなく、クレールと魔界蟲本体さんとのリンクを辿ってリコンポジショナーの情報を読み取ったのである。


 本体さんはクレールには基本的にセキュリティを掛けずに操っていたため、セラドリックもその知識を利用することが可能となっているのだ。

 現存する人間種の生物として見れば、恐らく最高レベルの魔力知識を有するだろうが、本人にはまだその自覚は無い。


 無意識に大地から魔力を吸い上げ、クレストの血液から得た遺伝子情報を元にクレールの体を人間のものに変えていく…そして僅か数分の魔法整形作業によって、そこには真っ裸のクレストそっくりさんが一人、胯間の物をブラブラさせながら立ち尽くすことになった。


「ほぉ…これはまた…見事なクレストの出来上がりだな。

 声も出る。

 心臓も動いて…」


 腕を取って脈を取り、ドクン、ドクンと脈打つ心臓の動きを感じ取る。


「体温は…さすがに体温だけはスライムのまんまか…トイレは普通に出るんだよな?

 味覚はあるんだろうし」


 自分の体をあちこち触り、体温以外は人間と同じだと改めて確認出来たことにほっとする。


「こうなったら服も欲しくなるな。

 クレストにおねだりするか。俺のコレクションは全部あいつに渡したしな」


 クレストがアイテムボックスから放出した物品のうち、どう考えてもクレストが着ない服などはまだ出したままになっている。

 その中には成金スーツ一式が揃っているので、それを着ればセラドリックも裸で過ごす必要はなくなるのだが、残念ながらセラドリックにもそんな服を着る趣味は無い。


 だが、クレストの前に出るためには一度はその成金スーツを着る必要があるだろう。エマとオリビアの前に、裸で出て行くような度胸はないからだ。


 幸い荷物の山の周りには誰も居ない。

 自分が持っていたものだが、何故こんな成金スーツがあるのか全く記憶には無い。


 それでも袖を通してから落ち着いて考えてみると、

「これ…ひょっとしたら剣の勇者の持ち物かもな」

と一つの仮説が思い浮かぶ。


「それと、過激な下着は魔法の勇者の…確か…死ぬ前に奴らと行動をしてて…」


 その仮説が呼び水となったのか、それとも人の姿になった影響なのかは分からないが、セラドリックは少しずつ死ぬ前の記憶を思い出し始めたのだった。

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