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第43話 復活 

 クレストが森のダンジョン最奥に運ばれ、翌日にオリビアが合流してから三日が過ぎる。


 世界樹の周りには、ジェットコースターのコースのようなものが無秩序に張り巡らされて魔界鉄道トリプルナインと化したミニッチュさんがカオリとドランさんを乗せて走っている。


 見た感じで全く変化を感じさせないクレストに付きっきりと言うのは、アルジェンだけでなく、エマもオリビアもかなり退屈をもて余している。

 だからと言って、くるくると曲がりくねっている線路を走るトリプルナインに乗りたいとは思わないようだが。


 地上からの二人の視線に構うことなく、アルジェン達が世界樹の周りをぐるぐる何周も回っていると、

《もうそろそろ良くなったと思うのじゃが》

と、世界樹の神の声がこの場に居る皆の耳に聞こえてきた。


「ほんとっ?!」


 エマとオリビアが椅子から立ってクレストに近寄ると、それを待っていたかのように彼の体を覆っていた世界樹の葉がまるでそこに無かったかのように消えていった。


《クレストの体内に散っていた魔石は完全にクレールの方に移動させて再結合し、クレストの体に戻してある。

 魔力を全て失ったクアッドコアスライムの魔石は魔粒子となって体内を巡った後、そのうち少しずつトイレにでも出るじゃろ》


 トイレの話は今しなくても良いでしょ?と、エマとオリビアは思う。

 それよりも、

「あの…まだ目も開けないんだけど?」

と、エマが不審げな声を出す。


《誰かが長い眠りから覚める時には、ある儀式が必要じゃと昔から決まっておる。

 二人で試してみるが良い…》


 クレストの寝ているマットレス代わりのスライムベッドが、まるでダンプカーの荷台が積まれた土砂を排出するために持ち上がるように少しずつ傾き始める。


 クレールが触手で支えているのでズズズッと滑ることもなく、約直角にまでクレストの体が起き上がる。


「いよいよパパが目覚める時なのです!

 目覚めのチューは私の役目だと思うのです!」

「チューで起きると決まった訳では無いのよ?」

「それならエマは黙って見てなさい、アルジェンちゃんの次は私が」

「トップバッターはやっぱり私よっ!」


 クレストの前で女同士の争いが起きたところで、神が一言。


《残念、遅かったようじゃな》


 その声を聞いて二人がクレストの方を見ると、いつの間にか彼の目が開いていたのだ。


「クレストさんっ!!」


 エマとオリビアが同時にそう叫び、ぶつかりながら二人がスライムベッドから下ろされたクレストの体を抱き締める。


「パパっが復活したのです!」


 アルジェンが嬉しそうにクレストの頭にπルダーオン。

 すると不安そうに、

「少し体温が低いと思うのです。

 いつものパパはもっと温かいのです」」

と不満げに漏らす。


 それを聞いてエマがクレストの頬に手の甲を当てると、

「そうね、少し暖まった方が良さそうね」

とアルジェンに同意を示す。


 しかし、まだクレストからは何も声が出てこず、三人が不安そうな顔になる。



『クレスト、生きてるか?』

と頭の中に骸骨さんの声が響く。


「珍しいな、寝てる時に骸骨さんから話し掛けてくるとは」

『実は何気に緊急事態だからな。

 …驚かずに聞け、お前の体は死にかけてるぞ』

「ごじょうだん?」


 確かに昼間に一度意識を失ったが、すぐに回復したし、晩飯も普通に食べてルケイドと薔薇回廊の打ち合わせもしたし、急に死にかけるような要素は無いと思うのだが。


『魔石が無い状態で何度もアルジェンやドランさんと合体した影響か、それともそもそもそう言う症状なのかは俺も知らん。

 が、このまま放置するとお前は…と言うか俺も一蓮托生だが…今夜死ぬ。

 今は俺が体を仮死状態にコントロールして悪化を送らせるので精一杯だ』


 いつもの偉そうな態度ではなく、ただ淡々と述べるのは実は取って置きの冗談を笑わずに言おうとしているからでは?

 そう疑いたくなるのだが、そんな嘘を付いても骸骨さんに何のメリットがある?


「もし、仮死状態にしていなかったら、どうなってたんだ?」

『心臓麻痺で急死だろうな。

 魔力欠乏症は正直に言って普通ならもって数ヶ月レベルの危険な症状なんだぜ。

 世界樹の神がお前の寿命の半分を代償に復活させてくれたが、神が予想した以上にお前の体は損傷していたってことだ』

「…KOS化の影響でか…?

 アルジェンにもそれは分からなかったんだな?」

『あのな…そもそも魔界蟲なんだぜ。

 人間の体に精通していると考える方がおかしいだろ。

 本人には悪気も無いし、あれでお前の健康のことは気に掛けているんだが、それでも限度はあるってことだ』


 まだ死ぬ訳には行かない…元々世界樹のもとで治療する予定を考えていたのだから、それが早まっただけだと考えるしかないか。


「それなら手紙を書かせてくれないか?」

『遺書のつもりか?

 悪いが、下手に解除するとリバウンドで悪化を早めるだけだ。素直に寝てろ。

 お前の周りには人も魔物も、優れた面々が揃ってんだ。

 大将のお前が信じなくてどうするんだ?』

「けどさ…起きたら俺が死にかけたてら、エマさんビックリするぞ」

『当然だな。

 もてる男のサダメだと思って諦めてもらえ。腹上死に比べりゃ遥かにマシってもんだ』


 そんな遣り取りがあって、俺は仕方なく仮死状態となることを選ぶしかなかったのだ。


 世界樹の神様の治療の間も俺の意識はシャットダウンされていて、実はどんな治療が行われたのか分かっていない。


 だが寒気を感じる体が勝手に立ち上がり、自然と瞼が開く。


 目は開いたはずだが、何も見えない…いや、濃い魔力の粒子が視界を塞いでいると言うべきか?

 すぐそばに人の気配を感じる。エマさんとオリビアさん、浮いているのはアルジェンだな。


 だが今の目ではダメだ。

 モードを魔力監視モードから元の裸眼モードに変えなければ…眩しいっ! 今のは赤外線カメラモードか?

 視力を戻すのも一苦労だよ…骸骨さん、どうすりや良い?


 …返事が無い。

 骸骨さんっ!


 おかしい、俺の中に骸骨さんが居る気配が全く無い。

 俺の中から出ていったのか?


 

「…トさん! クレストさん!」


 急に肩を掴まれ、前後に体を揺さぶられて頭がガクガク…ちょっと気分が悪くなる。

 視力はまだ元に戻っていないが、手を退けないと吐くかも知れない…


「いたぃっ!」


 エマさんの声だ。

 俺が手をどけようとしたから?


 何がどうなってる?

 悪いが全く何も分からない。

 

「パパ! 目が見えて無いのです?

 何か変なのです!」


 アルジェンの声がはっきり聞こえるので、耳は正常らしい。


「アルジェン…視界に魔粒子しか写ってないんだが、どうすれば良い?」

「見える人になったのです?

 恐らく視神経に魔力を流し過ぎているのです…目から魔力を抜けば、見えるようになると思うのです」


 目に魔力ねぇ…ある意味霊視?


「魔力の無くなった体に魔力を通した影響で、少々厄介な感覚になってると自覚して欲しいのです。

 今のパパはまさに覚醒した魔王状態なのです!」


 さっきからエマさんとオリビアさんが何も喋らないのは、俺にビビってるからか…けど、コントロール出来ないんだょ…困ったな。

 

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