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第39話 エマと合流

喉がまだ痛い…熱は無くなったからだいぶラクになった

 アルジェンとアーミンが迎えに来ているとはこれっぽっちも考えていないエマは、急いで昼食をとると慌てた様子で居住地を後にする。


 キリアスから来た者の中で主要なメンバーは、昼間は外で仮や伐採に精を出している。

 居住地の名物的存在の樹のミハルと、巨大カブトムシのゲラーナも荷物運びに駆り出されている。


 鶏小屋が町の中から外に移動されていたのをエマは見落としていたが、数がドンドン増えて騒音問題の発生と、朝夕の日課の行進が住民の邪魔になったからである。


「勢いだけで来ちゃったけど、今日中に着けるかな?」


 歩くように軽やかな足取りなのに、一歩で進む距離が二メトルを軽く越えているので、前回世界樹の元から馬車で移動した時より遥かに早く到着出来るだろう。

 街道沿いはセーフティゾーンとして設定されているので、夜営でも眠ることは可能だと分かっている。

 それでも一人だと心細い。


「黒龍が飛び立つ前にお迎えに来てもらえるように、話を付けておけば良かったのに。

 何事も慌てて決めたらダメって分かってるけど、いざって時はおっちょこちょいになるのよね」


 一刻を争う状況だからこそ、後でこうすれば良かったと反省する前に、頭を整理してから行動するべきである、そんな理屈は大人なら誰でも分かる。


 これが魔力に溢れていた頃のクレストなら、どんな障害でも笑って乗り越えただろう…言葉には出さないけど、そう思いながらひたすら歩き続けていると、前方から何やら飛んでいるような音が聞こえてきた。


『あ、、アーミンとアルジェンが来てくれたようですよ』


 アーミンの発する魔力に上乗せするようにしてアルジェンの念話がドランに届いたのだ。


『やっぱり黒の龍だけあって、アーミンは便利です』

「普通はね…ドラゴンを便利かどうかで評価しないと思うわよ」

『僕だってドラゴンですし、便利だと言われたら普通喜びません?』

「人は違うと思うけど」


 物じゃないんだから、と内心だけで愚痴りながら歩みを止めてアルジェン達を待つ。

 それから一分程で、エマの目の前にアーミンが黒い藤籠を提げて現れた。


「ママー! 迎えに来たのです!」


 アーミンから離れたアルジェンが嬉しそうにパタパタと羽ばたきながらやってきた。


「迎えに来てくれて助かったわ。

 アーミン、ありがとうね」

『我らは特にやることも無いからな』

「パパの治療は世界樹の神がやってくれてるのです。

 アーミンが燃やすと脅したら、快く引き受けてくれたのです!」

『人聞きが悪い。

 確か…もし失敗したらアーミン黒焦げの消し炭に変えさせるので、暇のついでに私のフォローをしなければならないと良く理解しておくべき…と言ったのはアルジェンではないか』

「二人とも、そこはどうでも良いから、アーミン、早くその藤籠を地面に置いて」


 至近距離なのでドラゴンのバッサバッサっの羽ばたきで起きる風圧が物凄い。

 エマは飛ばされないよう、不恰好に踏ん張り耐えていたのだからその要求は当然だ。


 むしろ体の小さなアルジェンがどうして飛ばされないのか疑問だが、恐らく魔力的な何かがあるのだろう。


 ポフンっ!、のような擬音で藤籠が降ろされてから、エマがなんとか乗り込んだ。

 ドランがここでエマの中から出る。


「ドランも役に立ったのです!

 私はドランの評価をヒヨコの涙ぐらい、上方修正しようと思うのです」

『それ、殆ど変わってないよね。ヒヨコって泣くとは思えないし』

『出るなら目やにぐらいだな』


 仲の良い子達だと微笑ましそうにアルジェンとドランさんを眺め、それから上を見るとドラゴンの灰色の腹が天井のように聳えている。


 バサバサと何度か大きく羽ばたくとふわりと藤籠が浮かび上がる。


『では出発だ。落ちないようにしっかり捕まっておれ』

「落ちないように安全運転するべきよねっ!」


 アーミンがエマの言葉を無視して急加速を始め、籠の縁をしっかり握りしめて落ちないよう必死なエマだ。

 それでも慣れれば意外と空の旅は快適で、王妃達の移動にアーミンを使うのは悪くないのでは?と思うようになる。


 だが慣れた頃には目的地の世界樹がエマの視界に入っていた。

 道なりに進めばもっと掛かるが、飛んでしまえば直線で移動出来るのだからなんともラクなものものである。


「ドランさんも早く大きくなって飛べたらよいね」

『千年経ってこのサイズですから、僕は大きくならない個体だと思いますよ』

『好き嫌いせず、何でもバリバリ食わんと大きくなれん。

 ドランは美食家すぎる』

「私は美味しいものだけ食べたいのです!

 そもそもドラゴンに味覚があると言うことに納得が行かないのです!」

「言われてみればそうかも」


 土の中で暮らす魔界蟲から生まれたアルジェンだって、人と同じ味覚を持つのはおかしい。

 でもアルジェンちゃんもよね?とはクチに出さないエマである。


 それでも食べ物のおかげで強力かつ有益な魔物を人間サイドに留めておけるのだから、味覚を持つのはありがたいことなのだ。

 

『着地するぞ』


 世界樹の手前まで飛んできたアーミンがそう宣言し、滑空体勢に入る。


「着陸が一番難しいと思うのです。

 もしママに怖い思いをさせれば、明日のオヤツは抜きだと手紙を書いて渡すのです!」

『そんな物、見せねば済むではないか。

 それに我がオヤツを食わねば、アレクも食わぬぞ。

 可愛そうだと思わぬか?』

「アレク坊やを盾にするとは、ドラゴンの風上にも置けないのです!」


 オヤツの話はいいから、今は着地に専念して欲しいとエマが願っていると、翼をブレーキにして減速したアーミンが慎重にエマの乗った籠を着地させた。


「おーっ! 百点満点のランディングなのです!」

『当然であろう。我を誰だと心得る?』

「お調子者もので食い意地が張ってる黒龍で、実は甘えん坊なところもあって可愛いのです。

 でも背中が痒くても掻けなくてイライラしてそうなのです」

『そんな時は地面にゴロゴロすれば良いだろ?

 鱗が剥がれるのはその時だ』


 ドラゴンでも痒いことがあるんだと知ると、急に親近感が湧いて来そうになるのは所謂ギャップ萌えか?とエマが悩む。

 でも痒い時に鱗が剥がれるなんて情報は欲しくなかったかも。


「アーミンはこれで役目は終了なのです。

 オリビアも迎えに行かせたいけど、長時間王都を離れるのは良くないのですね?」

『そうであるな。

 王城を出ぬ方が抑えとなるからな』

「抑えって?」


 アーミンの言う意味が分からずエマが聞き返す。

 アーミンが王城に居着くことになった経緯を実はクレストも知らないのだ。


『内憂外患、色々とある。我が王城に居ればマスター・クレストの敵に睨みを効かせることが出来るし、外交カードとしても使えるだろ』

「アレク坊やは関係無いのです?」

『そこはプライバシーの関係で黙秘する』


 王族には言えない秘密の一つ二つは有るだろうから、きっとそれに関係するものなのだとエマは思うことにした。


『それならマジックバッグ経由で戻るのが良いよね。

 居住地にマジックバッグが置いてあるから、そこに行こう』

『そうだな。

 なるべく早く戻れるようにそれで帰るか。

 おっと、世界樹の神よ、マスター・クレストの治療費に我が出せるのは鱗か血かフンしかないが、どれが良い?』


 糞は絶対ないよねっ!


『それならフンの一択しかあるまい。分かって聞いておるな?』

「フンっ? 嘘でしょ!」


 思わずエマが叫んだが、普通に考えてエマは悪く無いだろう。


『娘よ、万を数える年月を生きたドラゴンのフンは世界樹にとって貴重な肥料になるのじゃ。

 それにそこらの動物の物とも全く違うから心配いらん』

「匂いはないのよね?」

『高温高圧で処理された炭化物のようなものじゃ。滅多に見られる物ではないぞ』


 出来れば見たくないのだけど、世界樹本人?が、それでと言っているのだからエマにはどうしようもない。

 そして人類史上初となるドラゴンのウ○チのシーンをエマは目撃することになったのだ… 


 コツン、コツンと固い物同士がぶつかるような音を立てながら、キラキラと輝く黒い小石の小山が完成さる。


「…それがドラゴンのフン?

 黒い宝石みたい」


 黒い人工ダイヤと言っても良さそうな物体であり、フンだと言われなければ間違いなくエマもその小山に手を突っ込んだことだろう。


「これがウンチなのです?

 カッチコチで便秘のようなのです」

『馬鹿を申せ。食ったものを完全に魔力エネルギー化出来るお主やドラゴン属が便秘になどなるものか』

「良く知っているのです!

 私はアイドルなので、おトイレには行かないのです!」


 アイドルでもおトイレには行くから!

 クレストさんも温泉旅館で働かせるアイドル達に、おトイレ行くななんて強要しないわよ!


 世界樹の葉で全身を覆われ、顔だけ出した状態のクレストをチラリと見て、

『では、我は王城に帰還する。

 神よ、マスター・クレストのことは頼んだぞ』

と少し偉そうな喋り方をしてこの場を立ち去ろうとして途中でやめる。


『そうである、スケイルフォーミングを掛けた鱗を何枚か渡しておこう。

 魔道具にしても良し、武具にしても良し。だが今回は御守り代わりのつもりだ』


 御守りの中身って霊水とかで清めた何かじゃないの?

 痒い時に剥がれた鱗が御守りで良いのかな…?


 エマの悩みに気付くことなく、クレストの『格納庫』スキルやエマの『タンスにドンドン』と同じ系列のスキルで三枚の鱗を取り出して、一枚ずつ器用にクレストの上に乗せていく。


 それで満足したのか、ヨシと頷くと、

『それでは神よ、アルジェンよ、エマよ。今度こそおさらばだ。

 ドラン、行くぞ』

と別れの挨拶をし、ドランを乗せて飛び立っていくのだった。

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