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第25話 倒れました

 王妃達と商業ギルドでバッタリ鉢

合わせした後、執務室に入ると机の上に置かれた書類の山にウンザリだ。


「俺って正式な職員でもないのに。

 でも給料は出してくれると言ってたし、サインだけで済むなら…胸ゼリー対尻プリンの言い争いが勃発って…それを俺にどうしろと?

 …胸プリンと尻ゼリーを作らせるか」


 一枚目が何故かそんな内容でいきなりやる気を失った。


「ナタデココが完成したら、触感のバリエーションが増えてもっとヤバイことになりそうだな。

 と言うか…このギルド、マジで頭おかしくないか?」


 二枚目は献上式用に作ったスーツの明細書、三枚目は王都での宿泊費費、四枚目は護衛費用、五枚目は王都での飲食費の明細書だった

 これはサインするだけで済んだが、それを俺に見せてどうするつもりだ?

 どれだけ税金を浪費したかを教えたいのか?

 それなら献上式なんてやめちまえと思う。


 GDPの上昇には貢献しているかも知れないが、こんなのは国内で金銭を回しているだけ。

 金持ちが余計に金持ちになるに過ぎない。

 マーメイドの四人には護衛費が振り込まれているので、そこだけは評価してやろうか。


 六枚目からには俺が教えた商品の売り上げ記録で、その中から数パーセントが俺の口座に振り込まれている…らしい。

 その契約を結んだ覚えはない。


 次の資料は昨年の収支報告書だ。そんな物を俺に見せるなよと思うが、パラパラとページをめくって半時間が過ぎ、去年までの状態が今年も続けばリミエンは赤字になっていたことがはっきりした。


「道理で急ピッチで貯水池リゾート計画を押し進めたり、洗浄剤の販売の前倒しする訳だよ。

 貯水池ダンジョンの魔石産出での利益が丸々そのまま開発費に充てられてる感じか。

 森のダンジョン開発でかなり借金したみたいだけど、投資する側にはメリットしかないもんな」


 リミエンの経済状況は綱渡り感が否めないが、投資先として魅力的らしく外部からかなりの資金が流入してきている。

 ぶっちゃけ、王城の期待がそれだけ多いと言うことだ。


 王都にアンテナショップを出してリミエンの宣伝をして、もっと稼げる体質に変わって行けば綱渡りをせずに済むと思う。

 木材を他の領から購入していれば、試算上は今年は赤字になるのだが、森のダンジョンのお陰で赤字は免れそうだ。


 ノラ何とかと言うバンパイアを倒せて良かったと心底思うが、何で俺がリミエンの財政を心配してんだろうね?


 資料にはレイドルさんに押し付けられたアパートの契約書と、入居者の資料も添付されていた。


「冒険者カーツが三部屋も? 誰だっけ?

 まさかゴベンチャーじゃないよね?

 …見なかったことにしよう…」


 残念ながらゴベンチャーで…。

 でも彼らのお陰で十八部屋全て利用予定となっていて、家賃収入とギルドへの借用費が相殺できていたので、嬉しいような悲しいような、複雑な気持ちになる。


 ちなみに利用者は…

 ・キリアス三人衆のリリー、アイリス、トッド

 ・キリアス人だが体育会系社会に馴染めず出て来たアルバス

 ・音楽家のガルディ

 ・楽器職人のバリス

 ・セキネさんから逃げて来て、領主館に就職したラードン小隊長

 キリアス出身者が七名で六部屋。(ラードン小隊長を除き家賃免除中)


 ・王都の劇場に勤めていたバッシロ、シアスタ夫妻

 ・王都で見付けた俳優志望のアリア

 王都からは舞台関係者の三名で二部屋。(家賃免除中)


 ・冒険者ギルドが斡旋したゴベンチャー

 ・いつの間にか決まっていた紅のマーメイド

 ・ベルビアーシュ…つまりベルさん

 冒険者ギルドの陰謀としか思えない人達の十名で八部屋。


 ・カミュウ魔道具店に勤めるリューター

 ・ラファクト鋼材店に勤めるユート

 転生者の職人二人で二部屋。これで十八部屋が満室になっている。


 冒険者の関係は全然話を知らないのだが、大家である俺に相談無しで勝手に決めないでもらいたい。

 あの四人はいつ引っ越して来るのだろう?

 マジックバッグを使わず、普通の引っ越し業者を使ってリミエンの経済活動を少しでも活発にしてもらいたいと切に願うよ。


 俺が集めていた舞台関係者達も仕事を始めているようで、生活が軌道に乗るのはそう遠くないように思える。

 ただ、音楽家と楽器職人の元に来ている依頼が王城からのものだと言うのはどう言うことだ?

 アイドル用の楽曲とそれ用の楽器を作ってもらう予定だったのだが。

 今後の活動資金が手に入ると思えば悪くないが、そのせいで本来の役目が果たせなくなっては本末転倒。


 リミエンの経済に俺の適当な思い付きに領地の命運を懸けた伯爵と、それを完全にバックアップしている二つのギルドの本気度を見せ付けられて、やっぱり下手に意見すべきじゃなかったかなと思う反面、タイミング良くこの地に来たもんだと改めて思い直す。


 領主館を出て最初にガバルドシオンに立ち寄ったのだが、献上の品と言う特大の広告に貴族や大手商会などから発注が相次ぎ、スタッフ一同が泣きそうな顔をしていた。

 そこに皇太子から依頼のあった、チェス大会で壁に貼って使うチェスセットを新たに追加したのだから、珍しくレイドルさんが皆に同情してたっけ。


 エメルダ雑貨店にピーラーとスライサーを作ってもらった時には、ここまで大事になるとは正直思っていなかった。

 もし最初に行った大型の雑貨店に製作を頼んでいたら、あのお店が利益を独占していただけで無く、ブロックも作ることは出来なかっただろう。


 ルケイドとは冒険者ギルドで会うことになっていただろうが、その時にはまだ洗浄剤作りに着手出来ていなかっただろうから、今でも二人で何処かの倉庫を借りて地味な実験を繰り返しているかも。

 ただ一つの選択が、その後の俺の人生を大きく変えた訳だよ。


 王都での報告書を纏めていると、何故かリミエンに来てから今までやってきたことが頭に浮かんでくる。

 少し記憶が曖昧な所も出てくるし、急に全然知らない筈の景色が脳裡に浮かんでくる。

 まるで別の誰かの記憶を共有しているような感覚に戸惑い、知らない内に疲れていたのかも知れないと思うことにする。


 まさか骸骨さんが生きていた頃の記憶が俺に流れ込んできた、なんてことはないよね?

 人の記憶がどこに残るのかと言えば、間違いなく脳味噌だろう。

 だけど骸骨さんにはその脳味噌が無かったんだから、記憶なんて無い筈だよね。


 でも記憶は脳味噌説だと、召喚でやって来た人は記憶を残しているのは当然として、転生した人が記憶を持っているのは説明ができない。

 それに『火山噴火ボルカニックイラプション』で焼け死んだ筈の俺や、ダンジョン管理者達に記憶があるのもおかしな話になる。


 特に俺の体なんて跡形も無く消えた筈なんだよね。

 骸骨さんより酷い目に遭ったのに、水晶の体になって生きていたのはまるで理屈では説明が出来ない不可思議現象だ。


 そう言えば、あのダンジョンの中には世界樹があって、それに俺の遺伝子情報が保存されてたんだっけ?

 それなら、あのダンジョンに限って言えば俺はまた死んでも復活可能なのか?


 アルジェンが居ない状態で三段階目の警告のエリアに入れば、恐らく今の俺より強い魔物しか居ない筈。

 アテモヤを取り合った横っ跳び猿だって、群れで来られたら俺に勝ち目は無いもんね。


 森のダンジョンには移築した工場が消費する酸素の問題があるから、早いとこダンジョンの外に移築しないとイケないのを忘れてた。

 今は週に三回、つまり一日おきに冒険者ギルドが様子を見に行かせてるので、異変があればそれほどタイムラグなく知ることが出来る。


 意外としっかり換気されていて空気の問題は無いのかも知れないが、それでも一度気になったことは放置すると気持ち悪いと思う。


 少し考えが纏まらないが、何とか報告書を書き上げてレイドルさんのいる対策本部を訪ねようと廊下を歩いていると、貧血で頭に血が回らなくなったのか、視界が徐々に暗くなって行き、壁に手を付こうとしたがその前に意識を失ってしまった。



『オイオイ、ここはお前が来る場所じゃねえぞ』


 俺の意識が戻った瞬間にそんな声が聞こえてきた。

 意識は戻ったのに視界は真っ暗だ。

 真夜中でももっと明るいと思えるぐらい漆黒の空間に俺は漂っている。


「ここはどこだ?」


 声は出るが自分の姿が見えないとは、一体どう言うことだ?


『ここは生と死の狭間のような場所だ。

 それがどこにあるかと言われても、物理的には表現は出来んよ』

「それって…俺は死にかけてるのか?」

『お前は一度死んで復活してるんだ。その体に何が起きてもおかしくないだろ。突然死も含めてな』


 突然死も?


 まさか、本当に俺は死んだのか?


『残念だが、死んじゃいねえよ。

 本当に死んだら人間なんて塵にしかならん。

 こうやって誰かと対話することなんて出来ねえ』


 それなら俺はどうしてここに居る?


『そうそう、ここは声を出さなくても対話が出来る。

 逆に隠し事は出来ねえから、便利なのか不便なのか分からねえ』


 それはどうでも良い。どうして俺がここに居るのか教えろよ。


『お前、自分の魔力を余所に預けて再々出したり入れたりしてるだろ。

 人間がそんなことやったら、体がおかしくなって当然だ。

 まぁ、俺がコントロールしてやってるから、今まで影響が出なくて俺も気が付かなかったけどな』


 じゃあ、アンタは骸骨さんか。

 それで、俺は今は死にかけてるのか?


『いや、ちょっと体調が悪くなっただけでそう気にする必要は無い。

 朝礼で倒れる小学生みたいなもんだよ』


 でも廊下で倒れたら頭を打ったら死ぬこともあるし。起きたら頭が痛いかも。


『もう一人のお前の魔石だがな。

 アルジェンに持たせるのはやめた方が良い。

 放置するとアルジェン経由でお前を絞め殺しに来るかも知れん。

 意識を持つ魔石は本体を復活させる可能性もある…が、そうか、今のお前を治療するにはあの魔石を使うのが一番かもな』


 ろくに説明せずに勝手に納得すんなよ。


『元のお前から分かれたスライムの魔石だぞ。魔力パターンはお前と同じだろ。

 あの魔石を取り込めば、お前が無くした魔力を元通りに戻せるんじゃないか?』


 それ、質問形はやめてくれよ。

 それに俺は魔力回路が破損してるんだぞ。そう簡単に取り込める訳が無いだろ。


『アホか。なら何でアルジェンがお前の体に入った時に魔法が使えるんだよ?』


 アルジェンが入ってる時は俺の魔力回路が修復してる訳か。


『そう言うこと。

 これから新婚生活を楽しむつもりがあるなら、あの魔石を取り込め。

 元はお前の一部だ。同情はいらんだろ』


 分かった。それなら帰ってからやってみる…で、ここから出るのはどうやれば?


『…さぁ?

 俺が呼んだ訳じゃねえし。

 お前の意識が戻れば帰れるだろ』


 そんなものなのか。

 でもアルジェンのゲノム何とかでエマさんに変身するときにも気絶してたけど、あの時にはここに来なかったぞ。


『来てたぞ。俺が無視を決めてただけだ。

 特に用事も無かったしな』


 そうなんだ。

 で、骸骨さんは普段ここで何をしてるの?


『イメージトレーニングで迷走とか』


 瞑想じゃなくてか。

 暇してるなら、たまには…て、お前さ、神狼が出て来た時に何で出て来なかったんだよ?


『俺は勝てねえ喧嘩はしない主義なんでね』


 やっぱりあの狼は強かったのか。

 じゃあ、ゴブリラは弱かったんだ。


『いや、あれはアイツが油断してただけだからな。

 壁を吹き飛ばした時にパラライズ効果のある必殺技を飛ばして手脚の動きを鈍らせてたから、お前には楽勝に見えたかもな』


 俺が闇討ちのエンガニの仲間を無力化した技のことか。

 視線で人が殺せるような技に近いが、そう言う使い方もあったのか。


『掌底でヤツの心臓に俺の魔力を全部叩き込んで俺の魔力はカラッケツになってたから、ケンが剣になってて助かったぞ』


 てことは、岩を飛ばしての登場シーンで小細工してて、それが失敗してたら苦戦した?


『寝起きにあんな化け物をまともに相手に出来るかよ。

 ゴブリラだって間違いなくマジもんの魔王クラスだったぞ』


 てっきりゴブリラって魔王としては雑魚クラスだと思ってた。


『アーミン、魔熊もまともにやって勝てる相手じゃねえ。

 ダンジョンでノラにぶつけた量産型ドラゴンとアーミンとは格が違うからな』


 おい、その魔熊に悪魔の欠片がはいってんだ。勝てねえ相手にどうすりゃ良いんだ?


『そんなの自分で考えろ。

 あ、そろそろ時間みたいだな』


 骸骨さんの意識が薄れていくような感じと、俺が温かさを感じ始めたのは同じようにタイミングだったのだろう。

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