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第24話 リミエン散策日記(Part.3)

 エメルダ雑貨店では爪と手のケアをした王妃とフィリーがキャプテンクッシュに向かうと、アヤノ達と鉢合わせた。


 アルジェンを見ても驚かない店員に逆に驚かされたが、リミエンっ子達はクレストのやることには寛容なのだと知ることになる。


 食事風景はすっ飛ばし、女性達がキャプテンクッシュを出て向かったのは商業ギルドだ。

 ここには新商品の展示ブースがあり、ピーラーや保温バッグ、各種文房具を試すことが出来るのだ。


 お試しコーナーで王妃が上手に描いた猫の絵を、惜しげもなく消しゴムでゴシゴシ。


「話には聞いていたが、本当に書いても消せる筆記具があるとは驚くの。アンテナショップで売りに出されれば、行列は必至じゃな。

 それに紙や洗浄剤の製法も確率するとは、リミエンの開発能力はたいしたもんじゃ」


 お試しコーナーのブースの壁には、デカデカと『王都にアンテナショップがオープン予定! 売り切れ必至の新商品コーナー』と書かれた垂れ幕が掲げられているのだ。


 そしてその隣には、『リミエン競馬場オープン!』と書かれた広告がある。


「競馬場? なんじゃそれは?

 広場で馬を走らせるのかのぉ?」


 その広告に書かれた小さな文字を読む為に近寄ったのは、アヤノとセリカだ。この二人は基本的に真面目なので、このような役目は大抵彼女らが担うことになっている。


「馬を走らせて順位を賭けるようね。

 ははぁ、これは輸送業ギルドがラクーンの購入資金稼ぎに思い付いたものよね」

「プレオープンが三週間後?

 町の南東の空き地に出来たみたいだけど、私達が王都に行ってた二週間と、その三週でグラウンドを作るってことかしら?」

「クレストさんなら一人で整地が出来たもんね。

 代わりに誰かやったのかな?」

「クレたんみたいに魔王並の魔力がないと、一ヶ月ぐらいじゃ施設は作れない出来ないわよ。

 魔法士ギルドに人海戦術を頼んだとしても無理ぽいし、そもそもケチなギルドがそんなに出したとは思えないし。

 私らの知らないクレたんの部下が居るのかも」


 王妃の呟きのような質問に、マーメイドの四人がそれぞれ回答を述べていく。

 最後のカーラは正解にかなり近いと言っても良いだろう。


 クレストは拒否するだろうが、リミエン上層部は本気でハーフエルフ達の面倒をクレストに見させるつもりなのだ。

 その足がかりとしてクレストに市民権とキリアス方面対策局長の役職を与えたのだから。


「あっ! パパがこっちに来てるのです」


 お腹一杯になってバッグの中で寝ていたアルジェンが、小麦の粒程度のクレストの魔力を感じとって起きだした。


「領主館から向かって来たのかの?」

「クレストさんは商業ギルドに執務室があるから、もう今日からお仕事なのね」

「お主らも任務報告があるじゃろ?」

「それは後で大丈夫…かな?」

「今はサリーさんの護衛中と言うことでダメですか?」

「そうそう、初めてのリミエンだから迷子になっちゃうよ。

 それにセリカの防御力には定評あるからドンと来いだし」

「セリカは防御力だけじゃなくて、胸には破壊力もあるもんね」


 昨夜、リミエンに帰還した後にサウザスが報告は翌日にと言っていたが、出来ればもう少しノンビリしてからにしようと考えていたアヤノ達である。

 午前中はライエルがクレスト達と領主館に居たので確かに急ぐ必要は無かったのだが、報告を後延ばしにしてもメリットは無い。


「パパが頑張れば美味しい物が増えるので、どんどん頑張って欲しいのです!」

「それは言えてるね」

「あの人、楽したいと言いながら結局自分から苦労を背負い込むのよ。

 珍しいわね、『紅のマーメイド』の四人が揃って商業ギルドに来るなんて」


 アルジェンの言葉にアヤノが相槌を打つと、急に横から誰かが声を掛けて来た。


「えーと、あなたは人材派遣部の部長の…」

「メイベルよ。噂に名高い貴女達とお会いできて光栄だわ」

「対して活躍していないですよ」


 貴族流の少し皮肉のこもった挨拶に、農村出身者のアヤノが気が付かなかったのは仕方の無いことだろう。

 それを気にする素振りを見せずメイベルは掲示板の空きスペースを確認する。手に持った羊皮紙を壁の掲示板に貼るつもりらしい。


「新しい求人ですか?」

「そうよ。温泉旅館で働くスタッフ、歌、踊り、何か芸能の出来る人、調理人、それと競馬場スタッフもね。

 人が足らないのよ。適正も見ないとイケないし。

 クレストさんがアレコ思い付いてくれて、伯爵様もゴーを出してくれるのは有難いんだけどね」


 部下に求人情報を貼る位置を指示したメイベルがアヤノ達の方を向く。


「貴女達、王都で何かやらかしたんだって?

 リミエンなら笑い話で済む話なのにね」

「えっ? そんなんで済みます?

 お陰で死にそうな目に合ったんですけど」


 クレストから目を離した時にアルジェンが事件を起こしたのだから、護衛の任務を果たしたいないと言われるかも知れないが、マーメイドの四人の請けた依頼はクレストが王都に着く道中の護衛であった。

 契約上は王都内では行動を共にしなかったとしても、なんらペナルティを科せられることは無い。


 その事を強く訴えず、甘んじて戦女神からのシゴキを受けたのは、アヤノ達が自分の興味を優先させてクレストを野放した負い目があったからである。


「まぁ、運が良かったのか悪かったのか分からないけど、結果的に無事にクレストさんが戻って来てくれて良かったわ」

「はぁ…出来ればもう王都には行きたくない気がします」


 アルジェンが居るので普通の旅行に比べるとはるかにラクで快適な道中であったが、王妃のような取扱注意の荷物用も運んで来たのだから気分的には余計に疲れたのだ。


「そんな悲しいことを言うでない。

 クレスト殿は再々王都に来ることになるはずじゃ。その時は一緒に遊びに来て欲しいものじゃ」

「こちらの方はお連れ様で?」

「えぇ…偶々一緒に来ることになって」


 何で王妃様がしゃしゃり出てくるのよ!と泣きたい気持ちになったアヤノである。


「落ちぶれ貴族の末の者じゃ。

 噂のリミエンを見物にと思うてな。運良くクレスト殿に拾ってもろうて同行をお願いした次第じゃ。

 二、三日の滞在で帰らんといかん故、お薦めスポットを回っておったとこじゃ。」

「あら、そうだったんですね。

 明日、時間が取れるようなら貯水池リゾートを覗かれてはいかがですかね?

 本格始動前のテスト運用中ですが、冒険者ギルドで一日体験の依頼を出すと利用可能ですよ。

 競馬場も輸送業ギルドで馬を借りれば走らせられますよ」


 これ、貴族から少しでもふんだくる為に今朝がた決まったばかりなのよね、とナイスタイミングな来客に内心でガッツポーズするメイベルだ。


 残念ながら彼女はに王妃との面識が無く、クレストなら押しに強い女性に頼まれれば同行させたかも知れないわ、と特に疑うこともしなかった。

 疚しいことがあれば、わざわざギルド幹部に話し掛けて来ることは無い筈と、そんな先入観がメイベルの中にあったのは否めない。


「そうであるか。

 ならばアヤノ、明日はそのリゾートに遊びに行こうではないか。

 依頼は明日朝に出してもかまわんのだな?」

「大丈夫ですよ。

 しっかり楽しんで、王都でしっかり宣伝してくれたら有難いですわ。ではこれで実例致します」


 貴族相手にも臆することなく対応して見せたメイベルは、全ての求人情報が貼られたのを確認すると、笑顔を見せて去って行った。


 その直後にクレストとレイドル副部長が商業ギルドに戻って来た。


「ワーイ、パパが来たのです!」


 いつも通りにバッグから出てパタパタと飛んで行く。

 その声が聞こえて振り返ったメイベルや、そのタイミングでその場に居合わせた職員達が何事かとアルジェンに注目を集める。


 そんなことはお構いなしにパタパタと羽ばたき、いつものようにクレストの顔にへばり付く。


「この子が噂のアルジェンか。

 随分と好かれたものだな」


 これまたいつものように顔からアルジェンを剥がして手の上に乗せ、クレストがアルジェンと向かい合う。


「お仕事は終わったのです?」

「いや、これから商業ギルドで報告会だよ。

 アルジェンはどうする?」

「みんなと遊びに行くのです!

 明日は貯水池リゾートに行くので、今日はガバルドシオンと競馬場に行くつもりなのです!」

「そうか、それならみんなに迷惑掛けないように、お利口さんにしてるんだぞ」


 クレストが仕事だと知ってあっさりサリーの頭に飛んで行くのは、サリーの餌付けが成功しているせいでる。

 そんなこととは知らず、聞き分けよくみんなの所に戻ってくれて安心したクレストだ。


「とても丸焦げ事件を起こすようには見えんな」

「俺に危害を与えた者には容赦ないので。  

 レイドル副部長も気を付けた方が良いですよ」

「暴力に屈するようでは副部長の座には就けんよ」

「可愛げが無いですね」

「お互い様だろ」


 二人が同時に溜息を付き、仕事に行くかとこの場を後にする。


「リミエンのレイドル副部長はかなりの曲者じゃと聞いておったが、あの二人は仲良しじゃな」

「事ある毎に冒険者ギルドに来ていますし、王都に行く時は見送りにも来てくれたからね」


 冒険者ギルドの責任者にクレストへのクレームを付けに行っているのだと推測する王妃だが、不動産部の副部長が何故冒険者ギルド対応をしているのか不思議に思った。

 ギルドマスターの指示でレイドルは動いているのだが、選定理由は図太さと筋力が商業ギルドの中で一番だったからである。


 文化系ギルドである商業ギルドには、体育会系である冒険者ギルドと馬の合わない者が多い。

 そんな中で過去に冒険者ギルドに在籍しようとしたレイドルは異質の存在であり、お上品な総務部の面々では真正面から遣り合えない冒険者にも臆することのないレイドルがマル冒に選ばれたと聞けば、大抵の者はなるほどと納得する。


 その裏事情を王妃が知る機会は今のところ無いが、クレストの相手をして胃に穴が開かない人物はそう居ないので、きっと適材適所の人事なのだろうと思うことにした。


 レイドルに連行されるようにトボトボと歩くクレストを見送った王妃が一言、

「森のダンジョンで収穫出来る果物の試食コーナーは無いのかのぉ?」

と不満を王妃が漏らす。


「確かに食べれないのは残念ですよ」

と相槌を打ったフィリーに、

「さすがフィリーじゃ。

 担当に文句を行ってきてくれんか」

と言ってニヤリと笑う。


「冗談はヨシワラです、私パンピーですよ、そんなの言える訳無いじゃないですか!」

「クレストの出す無理難題に比べれば、商業ギルドに意見を申すことなど子供のお使いみたいなもんじゃ。

 それぐらいの事がビシッと言えん程度の女には、温泉旅館勤務は勤まらんぞ」

「分かりましたっ!

 言いに行きますよっ!」

「責任者クラスが出てくると身バレするかも知れん。

 我は先にガバルドシオンに向かうとするかの。後はフィリーに任せようぞ」


 フィリーと別行動がしたいと素直に言えなかったのがバレバレだが、敢えてそれに触れない優しさを持ち合わせているアヤノ達である…いや、余計な事を言うとマズイと認識しただけなのかも。


 やられた!とがっかりとするフィリーだが、リミエンは王都より平和な雰囲気だし、マーメイドの四人が付いているので大丈夫だと思って、言われた通り試食が無いとクレームを付ける為に担当を探すことにしたのだった。

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