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第21話 観光利用が決まりました

 雨の日の対策として、貯水池までのアーケードを提案した。提案と言っても、単なる思い付きだから具体的な形状は示していないけど。


 イタリアの世界遺産ボローニャのポルティコ群みたいなのじゃなく、藤棚みたいなのでも良い。

 いや、観光目玉にして人を呼ぶなら、薔薇のアーチがズラッと連なるぐらいはやった方が良いのか。


「貯水池までを幾つかのブロックに分けて、色々な建築家に薔薇のアーチで出来たトンネルを作らせてみませんか?

 実は温泉旅館に薔薇園を作ろうと思っていまして」

「はぁっ?! 植物園や庭園にすると言う案はあるが、薔薇園だと?」


 まだ王妃様の話が出て来ていないから、レイドルさんも王妃様がリミエンに来たことは掴んでいないんだろう。

 それなら王妃様が帰る前にあっと言わせてやりたいから、薔薇風呂を気に入ってたことは言わない方が良いな。


「ウドルの町で薔薇を栽培している人と知り合って、そこで薔薇の実を使ったお茶を頂いたらそれがとても美味しかったんです。

 あっ、伯爵様にもサンプルを一つお渡しします。

 お湯を注げば直ぐに良い香りが立ちます。お好みで砂糖かハチミツを入れて召し上がってください。

 商業ギルドにも後で渡します」


 伯爵様が小瓶を受け取り、コルクの蓋を開ける。


「冒険者ギルドには?」

と言うと、すかさず手を出すライエルさん。


「済みません、まだ量産が出来ないのでサンプルはあんまり無いんです。レイドルさんに頼んで少し味見させてもらってください」


 食品部門の関係者になるべく多く渡したいし、サンプルが多くないのは事実。

 我が家用のは別に残してあることを言ってないだけなので嘘ではない。


「最近、こちらに対して態度が冷たくないかい?」

「そんなことは無いと思いますよ、元々冒険者として対してそんなに活動してませんから」

「それ、ギルドマスターに威張って言うことではないよね?」


 冒険者の皆が皆、頑張って活動しているわけデパートないと思うよ。


「今は自力では戦闘も出来ませんし、テントウ虫が当たっただけでケガするので冒険者として活動するのは難しいですし」


 自分ではそこまで弱くなってるって思えないんだけど、強化系のスキルが使えないのは確かに痛いな。


「依頼は無理でも、難しい事務仕事は山ほどあるんだょ。手伝ってくれても良いと思うけど」

「ライエル、クレストにはウチからも事務を任せている。

 そちらでノンビリ机に座る時間は無いんだが」

「クレスト君は事務仕事も出来るのかい。

 それなら、こちらにも来てもらいたい。最近ある冒険者関係で書類が増えてきてね」


 ある冒険者って俺のことだよね?

 それを俺に処理させるのはおかしくない?


「体は一つしかないので三ヵ所は無理ですよ」

「それなら週に二回、半日ずつはどうだね?」


 伯爵様がここに来て仕事をさせようとするのは、まさか監視の為じゃないよね?


「俺みたいなのがお役所に勤めると、他の貴族から何か陰口を言われませんか?

 それに試験に合格しないと、ここには就職出来ないんじゃないですか?」

「いや、ここは売り込みに来た人の能力で決めている。

 試験問題を作るのも面倒だしね。

 それに黒龍を相手にする君にチョッカイを出すような人はそう居ないだろう。

 そんな者にはアーミンを連れて来て(けしか)ければ済むんだろ?」

「そんなの、やりませんって!

 アーミンは王城の守護龍になってるんですから、俺の私用でなんて呼べませんよ」


 多分、アーミンに助けを求めたらすぐ喜んで飛んできそうだけどさ、それは虎の威を借りた公私混同のきつねダンスってやつだ。


「それなら良いだろう。

 そう言う訳で、今日はまだ疲れもあるだろうから、明日からローテーションで回って貰おうか」

「俺の意思はっ?」

「そうなると、商業ギルドもクレストにもきちんと給料も出さないとイケないな」

「だから、俺の意思を聞いてよ!」

「午前中は工房を回らせて、昼一番にマナー教室、それから業務で良いよね?

 来るときにはお土産のスイーツを持ってきてくれると有難い」

「三人とも無視しないで!」


 つまり、俺が領主館と商業ギルドと冒険者ギルドで事務仕事するのは、最初から示し合わされてたってことだね?

 そうする理由は、接触してくる人間を制限するためか?

 それとも領主の意向に沿って行動してるって思わせる為?

 そうじゃなかったら…まさか本気で何処かの領主にするために勉強させるつもりとか言わないよね?


「週に二回は多かったか?

 それなら譲歩して領主館には週に一度、エマ嬢に来て欲しい日を伝えることにしよう」

「…拒否権は無いんですよね?」


 リミエン生まれリミエン育ちの人なら、伯爵様に呼ばれたら、喜んで来るかもしれなかったけど、外様の俺にはやっぱり抵抗あるんだよ。


「今まで拒否されたことが無いから、拒否権と言うものを考えたことが無い」

「領主館に呼ばれて拒否するのは犯罪者だけだ。お前に疚しいことが無いなら、喜んで勤めを果たせ。

 自分のやったことを自分で処理するだけの簡単なお仕事だろ」

「そうだね、クレスト君の思い付いたことを実行するのには、ここでどんな事をやっているか知るのが良いだろう」


 つまり、俺が遣りたい事を遣らせてやるから自分でどうやるか考えろ、役人の手を患わせるな…と言うことか。

 遣りたい放題をやって良いなら、領主館勤務は大ありか。


 それで横通しのために商業ギルドと冒険者ギルドでも働けと言う訳だな。


「さっきの薔薇のアーケード、アイデアとして面白いが、実現させるために提案書を作ってからどれだけの人と書類が動くか、試しにやってみると面白いと思うが」

「分かりましたよ。

 それなら、俺がやった後から文句言わないでくださいよ」


 つまり伯爵様が言いたいのは俺に予算が無いところからスタートさせて、議会で作る意義を認めさせて実現させてみろって事だな。


「私はその件にクチだしする気は無い。出来た物に対しての評価は住民が下すものだ。

 君が企画立案するのであれば、予算も自分で決めれば良い。

 君の家族が動く分には、君のポケットマネーで出せる範囲なら認めよう」


 アルジェンとカオリは使っても良いなら、後はロジエさんとルケイドにお手伝いしてもらえば、工事だってどうとでもなるだろう。


「ただし、何かやる前に関連部署に話を付けてからにしてくれたまえ。

 連絡無しに突然道路が変わるとパニックが起きるからね」

「分かりました。温泉旅館を成功させるために、一肌脱ぎましょう」


 何処かのスーパー銭湯のアイデアをパクるだけで、世界遺産のように後世に残る立派なものを作る訳じゃない。

 そんなに気張って構える必要はないだろう。

 

 でも俺が生きている間は倒産するような無様な真似はしたくないから、継続的にお客様に来て貰えるような仕組みを考えておく必要はあるだろう。

 

「良い返事が聞けて嬉しいよ。薔薇園と薔薇のアーケード、期待させてもらおう」

「クレストが動くなら、利権塗れの周囲から横槍が入ることはそう無いだろうな」

「クレスト君が道路を勝手に工事したときは、伯爵様も冷や汗かいたからね。

 今回は発案者本人が全部面倒見る訳だから、イヤでも期待が膨らむね」


 他人事だから、物凄く気楽な顔でウンウン頷く三人の偉い人達。

 好きにアーケードと薔薇園を作る許可を出すなんて、ヤケになっているのか、太っ腹なのか、それとも信頼の高さ故なのかは判断に悩むが、それなら三人にあっと言わせるような成果を見せてやるだけだ。


「よし、今日は面白い話が聞けて実に有意義だったよ。

 各自、遣ることが色々とあってたいへんがるだと思うが、体には気を付けて職務に当たってほしい」


 その言葉で話は終わりと、伯爵様が自分の席に戻って机の上を見てため息をつく。

 話している間に書類が増えたことに対してか、それとも書かれている内容に付いてか。


「クレスト君、王都から何人連れて来る気だい?」


 突然こちらに話が来たと言うことは、王妃様のことがバレたのか?


「今のところ、劇場関係者が二名、役者志望が一名、スライム研究者が一名、紙の研究者が一名です」

「そうか。

 王都からリミエンへの観光に出発した者も既に両手の指で足りない程に居るそうだ。

 宣伝効果は期待以上にあったと考えて良いだろうが、まだ観光や研修生の受け入れ体制が万全ではない。

 開発を加速させないとイケないかもな」


 伯爵様は簡単に言ってるけど、人、物、金の全てが足りないってことだね?

 SNSでバズって人が急に増えだした観光地みたいな問題が出て来そうだね。

 まさか貯水池のキャンプ場に宿泊させる訳にもいかないだろうし。


「ライエル、観光客を森のダンジョンに入れることは可能か?」

「セーフティゾーン設定地域内であれば、入ること自体は問題無いですが、キリアスの人達が生活していますからね。

 珍しい果物があると聞いた人達が遊びで来られるのは、ちょっと問題です」

「クレスト君はどう思う?」


 観光旅行で果物狩りをする感覚なら、それ程の問題ではないか?


「キリアスの人達の居住エリアには立ち入り禁止として、マンツーマンでの冒険者の同行を前提にすれば、ビジネス的には良いんじゃないですか?

 冒険者の護衛費を除いて、売り上げはそのままダンジョン支援に回せばルーファスさん達も悪くは言わないでしょう」


 伯爵様は少し考えてからレイドルさんにも意見を求めた。


「ダンジョンで非日常の体験がしたいと言う希望は、暇な連中なら持っていても不思議ではないですね。

 警告の出るダンジョンは他には無いでしょうし、現地担当を決めて遣らせてみますか。

 とくにアテモヤ畑のベロちゃんは女性に懐きやすいそうですし」

とライエルさんから情報が出て来た。


「ベロちゃんって、あの横っ跳び猿のこと?

 アイツ、エロ猿だったんだ」


 全然知らなかった。

 俺が行った時に普通に手伝ってくれたあの個体は、まだ子供だったのかも。


「猿と一緒にアテモヤ狩りか。目玉になるか」

「マジックバッグの持ち込みは禁止ですね。

 現地で食べるのは良いとして、アテモヤは高級果物なので販売目的に持ち帰ろうとする者も出てくるだろうな」


 伯爵様とレイドルさんはあそこを観光ダンジョン扱いか。確かにセーフティゾーンは安全確保されてるもんな。


「そうなると、行動制限が必要になるな。

 うむ、クレスト君、キリアス方面対策局長として初仕事だ。

 あのダンジョンの観光利用に関する案を出してくれないか。君が頑張っただけ収益も上がることだろう」

「…分かりました…」


 メッチャ嬉しそうな笑顔でそう言われたら、いくら俺でもノーとは言えないだろ。

 上手く嵌められた気がするけど、伯爵様の気持ちが少し分かった気がする。こんな感じで俺のやったことを承認してたんだよね。


 儲けになると思えば何でもホイホイとオッケーすれば良いってもんじゃないのに、よく今までノーと言わずに承認してくれたもんだよ。

 立場が違えば、俺の評価って厄介者って思う人が居るのが分かった気がする。


 それ以上は話す内容も無かったようで、執事の案内で執務室を出た。


「クレスト君、自転車の生産を宜しく頼むね」

「クレスト、薔薇園とアーケードとダンジョンの観光利用、宜しく頼むぞ」

「伯爵様に言われ時は納得したけど、二人に言われると素直に納得が行かないのは何でだろ?

 これが人徳の差?」


 マジでそう思う。

 お強請りと暴力に訴える二人だから、素直にウンと言えないのだろう。


「伯爵は気持ちよく仕事を任せる技術に長けているからな。

 気を付けないと、すぐ捌ききれない程の仕事を積まれるだろうな」

「でも伯爵は、クレスト君なら丸投げしておいた方が良い結果を出すと信じていると思うよ。

 それに仕事に見合った給料は出してくれるし」

「気持ちよく死ぬほど働かされるってことはないよね?」

「それはお前次第だろ」

「そうだね」

「否定してよ…」

 

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