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第20話 自転車の犯罪抑止ですか

自転車を作ろうと思ったら、思わぬ大事になってしまった。

 それにこの世界の一分が四十秒、一時間が八十分だと初めて知り、やはり異世界なんだと再認識する羽目になる。


「その三輪車はなるべく速く試作してもらおう。

 魔道具ではないし、町の工房でも作れるだろう」

「作れると思いますが…」


 ちょっと待てよ、今の段階で自転車を披露すると

マズくないか?


「何か問題が?」

「来年のコンテストのネタを自転車にしようかと思っていたので」

「コンテスト? あぁ、マジックハンド

コンテストのことか。

 そのコンテストの正式名称を考えんといかんな」


 それは今考えなくても良いので、先に自転車の事を考えましょうよ。

 確かに来年は違う内容だから、タイトルは変えないといけないけど。


「第○回新技術コンテストで大丈夫ですよ。

 奇をてらうより直接的なタイトルが分かり易いでしょ。リミエンカップみたいな名前だと何の大会か分からないし」

「『クレストカップ』では、発想と技能と完成品の良し悪しを争うものだと分からんか」


 おぃおぃ、レイドルさんよぉ、本気でその名前を付ける気だったんかぃ?


「新しい技じゃないんだし、何でも発想した人の名前を付けるのやめようよっ!

 あのクレス糖って何だょ、俺ってそんなにあまーーーーいっ?」

「あぁ、脇が甘い、詰めが甘い、見通しが甘い、子供とペットに甘い。

 お前のどこにしょっぱい要素がある?」

「レイドル、自分に甘い、が抜けてるぞ」

「俺って良いとこ無い気がしてきた」


 ギルドの偉い人が二人がかりで虐めてくるよ。


「確かに二人の言う事には一理あるが、そう言う甘さが女性に受けているんじゃないか?

 それぐらい抜けていると、色々生み出した凄い人なのに会ってみたら予想と違うって言うギャップが理由で人気らしいからね」


 今の伯爵様のはフォローされたの?

 それとも貶されたの?

 とにかく俺の甘い話はダメージを食らうリスクしか無さそうだ。話を変えなきゃ。


「そう言えば、エリック第一王子がチェスの会に入れと誘ってきたけど、チェスも大会を開いているんですね」

「第一王子は勝負ごとには強いと評判だからな。

 勿論チェス協会に入ったんだよな?」

「えっ、なんで? ルールも知らないし興味ないのに入る訳ないでしょ」


 この国じゃ権力者に誘われたらノーって言ったらダメなの? 一局でも打ってみろよ、間違えなく大恥かくよ。


「お前がチェスボードを持って行ったんだろ。

 一番のお得意様になる協会に媚びを売るのが普通だろ」

「そうなの? それなら先に言っといてよ」

「商売人なら常識だと思ったが…さすがクレストだな」


 こんにゃろう、絶対褒めてねぇだろ。


「クレスト君が王都からの帰りに狙われた理由の一つが、『皇太子からの入会の誘いを拒否した、とんでもなく傲慢で自分勝手な奴』と思われていたことだそうだょ。

 田舎者のくせに良い気になりやがって、な感じなのかな?」

「そもそも俺なんかを呼ぶのが悪いんですょ。

 手紙でも添えて荷物だけ届ければ済むのに、わざわざ持ってくのは時間とお金の無駄でしょ」


 王都まで普通に行けば片道六日も掛かるんだよ。

 しかもその為にマナー教室にまで通わされたんだし。メリットなんて無いでしょ?


「そう言うがな、献上品を納めたともなれば工房の宣伝にもなるし、献上式には職人達に頑張れば栄誉が与えられると言う、モチベーションを上げる意味もあるんだよ。

 それに支度金も王城から全て支給されているしな」

「その原資は国民からの税金ですよ。

 有難く戦女神達とタダ飯を食ってきたんで、あまり偉そうには言えないけど」


 三人がうーんと悩みながら腕を組む。

 そんなに悩むことでもないよ。次からそう言う機会があれば、拒否も可能なシステムにすれば良いんだし。


「これは中々の難物だな」

「コイツは国家の権威も王家の威光も糞食らえな性格ですからね。

 よく生きて返してもらえたと不思議で敵わん」

「一緒に飯食って騒ぎましたけど。

 王家と言っても、玉座の無い場所ではただの人ですって」


 敢えてそう言う雰囲気を作ってくれたんだと思うけど、アレク坊や頑張ればアルジェン達を気に入ってたのも甘々な対応の理由なのかも。


 ここでライエルさんが一つ咳払いした。


「クレスト君と王家の話はともかく。

 話しをぶり返して悪いが、自転車が普及すると今度は馬や馬車の需要が減ることにならないのかい?」


 そうなのか?…言われてみれば…でも自転車じゃ重たい荷物は運べないから荷馬車は残るし、軍馬の代わりも出来ないし。 

 自転車を漕ぎながら槍を持った騎士が敵陣に突撃って…絵的には面白いけどナシだよね。


「それに、速く走れる乗り物を普及させると、それに乗る盗賊達を捕まえるのが大変になる。

 冒険者ギルドとして利便性の面では推進したいのだが、犯罪抑止の観点からは推進出来ない」


 どうやらライエルさん、自転車の籠をからバッグを引ったくるスクーター強盗を連想したらしい。

 最高速度では馬に劣るけど、長距離移動なら馬より便利な逃走手段を犯罪者に提供することになる。

 それを考えると、安易な自転車の普及はすべきではないのかも。


 そこに伯爵様が待ったを掛ける。


「私としては、町の外に工場を建てることで通勤が不便になる対策として、馬車鉄道だけでなく自転車は不可欠だと考える。

 ライエル、駅舎から貯水池までの間しか自転車を走らせないよう監視をするか、何か対策が取れないか、警備隊と相談してくれないか?」


 そう伯爵様から振られたライエルさんが少し頭を悩ませたようだが、


「…分かりました。

 冒険者ギルドにも何台か自転車を融通してもらえると言うことなので喜んで」

と笑顔を見せて答えた。

 この人、顔には出さないけど欲しかったんだ。


「そうなら素直に言えば良いのに」


 伯爵様は譲るとは一言も言ってないと思うけど。

 それに売価は一台大銀貨十枚程度だろうから、冒険者ギルドなら十台ぐらい平気で購入出来るのにケチ臭いことを。


「クレスト、これくらいの歳になるとな、言いたくても言えないことがあるもんだ。

 逆にお前には言わなくてもよいことを言わないようにする努力が必要だがな」

「はーい、努力しまーす」


 そうふざけて答えると、レイドルさんのアイアンクローが俺のクチを塞ぎに掛かるっ!

 なんて暴力的な副部長なんだよ。


「確かにクチは災いのもとだからな。

 特に貴族相手に軽口を平気で叩くクレスト君にはよく注意してもらいたい」

 

 俺の周りに何故かそう言う人達が勝手に集まってくるのが一番の問題だと思うんだけど。

 家の前に『貴族お断り』のシールを貼っておこうかな。


「クレスト君の問題は、とりあえずマナー教室での講習を継続と言う事で考えてよう。

 アイリス君と競い合うライバルになるかも知れないな」

「俺ってアイリスと同じレベルっ?!」

「クチのきき方はそうだな。

 確かに貴族であるから偉いと言う訳ではない、そう考えることは理解するが、王都の商業ギルドマスターにもタメグチをきくとは、正気とは思えん」


 あの覆面マスター相手に、そんなにマズかった?

 どう考えても普通じゃないのはアッチだろ。


「中には勘違いした大馬鹿者も居るのを否定出来んが、それは少数派…だと思うからな」

「そこ、言い切って欲しいよ…」

「まぁ、何事にも例外はある。

 冒険者ギルドへの自転車の供与は治安維持の観点からも必要だろうな。

 試作機が完成次第、城内で試乗会を実施して会議に掛けよう」


 お城でやった試乗会みたいなのやるのか。

 それなら何種類かバリエーションを作った方が良いのかな?


「輸送業ギルドにはかなりインパクトの大きな案件になるだろうな。

 輸送業ギルドと言えば、競馬場の整備にハーフエルフ集団が活躍しているぞ」


 馬車鉄道の線路作りに比べれば、地面を平らに均すぐらいは大した作業じゃなかっただろう。

 線路作りの練習で、アイツらの工事魔法の扱い方はかなり上達したんじゃないのかな?


「今は彼らはどうしています?」

「貯水池までの線路工事を任せているが、かなり進んでいるよ。

 住む場所もアパートに引っ越して貰ったし、他の領に出稼ぎに行ってもらうのも悪くないとと思う」


 リミエンの中だけでお金を回すより、余所からお金を引っ張ってこないといけないのは経済活動の基本だし。

 でも…あの性格だから彼らを使う方は苦労するだろうな。


「でも先に王都までの工事をして欲しいですね。いや、森のダンジョンまでの路線延長が先かな?」

「公共工事を自分の趣味・趣向の為に利用しようと考えていないだろうね?」

「やだなぁ。純粋にビジネスの観点からです。

 王都や他国から大勢が観光に来て貰えるようにしないと、温泉旅館は赤字になると思うんで」


 王都に行きたいとは思わないけど、森のダンジョンは日帰りできるぐらいになって欲しい。


「それは先立つ物との相談だね。

 森のダンジョンには思ったより多くの貴族達が支援してくれてね。

 理由は様々…と言うより、あそこには分かり易い利益が沢山転がっているから、各貴族が後れを取るまいと積極的に動いてくれたよ」


 王都にアンテナショップが出来るかも知れないんだから、目敏い商人なら早くから手を出しただろうね。


「それならニジマスや果物の出荷を考えたら、王都との移動時間短縮もワンセットですよ。

 元々片道六日でしたが、ラクーンを使えば四日です。

 更に道路整備をすれば三日、馬車鉄道が通れば片道二日で行けるようになるかも知れませんよ」


 二日で行けるようになるには、一日百二十キロもラクーンで移動するのか。

 駅で馬を交代させながらになるだろうけど、そんなに行けるかな?

 自動車なら二時間ちょいで行けるのになぁ。


「君が提案した駐屯地計画もあるし、二日は無理でも三日に短縮出来ればかなりのメリットがあると考えて良いだろう。

 だが、それをやると王都や他の領からも依頼が殺到して…うむ、喜んで派遣すべきだな」

「…あの人達を売りましたね…」


 彼らは既にかなり稼げる集団になっているから、何人か派遣して稼ぐのが良いだろう。


「三家族あるから、三つのグループに分けて活動してもらおうか」

「そうですね。森のダンジョン行き、王都行き、派遣部隊にして、森ダンジョンまで工事が済めば派遣部隊に回しましょう」

「そうだな。性格以外は実に良い人材を見付けてくれたょ」


 アイツら、最初は猫を被って大人しくしてやがったんだから仕方ないよ。

 俺ももう少し人を見る目を養わないとイケないってことか。


「私の方から話すべき案件はこれで終わりだが、そちらから何かあるか?

「カンファーの屋敷にクレストが送ったソルガムと言う麦擬きから、シロップが取れるようになりました。

 それと森のダンジョンではステビアと言う植物も発見されて、これからも甘味料が取れるもようです」


 レイドルさんが伯爵に報告する態を装い、俺に教えてくれた。

 ステビアのことは初耳だが、森のダンジョンなら何があってもおかしくないから素直にラッキーだと思うことにする。ただし、どうやって甘み成文を抽出するのか知らないのでこちらはノータッチ。


「よしよしっ! 

 それでソルガムの販売に向けた動きは?」

「ルケイドが出資者を集めて、栽培と工場を現地に建設することを決めたぞ。

 来年からルケイドはソルガム・ステビアの甘味料、ゼラチン、それに森のダンジョンの責任者の三足のサンダルを履くことになるな」


 甘味料は種類によって異なった性質を持つから、ステビアがきび砂糖の純粋な代用品とは言えないけど、確かカロリーゼロの健康食品のはず。

 『食べても太りにくい甘味料』って魔法の言葉で売れば、ボロ儲けできそうだな。


 ハチミツとソルガムシロップは競合商品になるかな?

 ソルガムシロップにはハチミツのような独特の香りが無いと思うし、乳児にも与えられるんじゃないかな?

 でもどれも生産コストの問題があるので、利益の確保は容易ではないかも。


「ルケイドも資金集めに成功したんだね。

 いざとなればギルドに製法を売却しても良かったけど。

 これでリミエンでなら、砂糖より安く変える甘味料が出来るかも」


 人は甘い物さえあれば、少し幸せになれる生き物だ。

 来年から新人貴族となるルケイドだが、女性の胃袋をガッチリ掴める商品をカードに使えるのだから、きっと上手く貴族社会を始めとして乗り切ってくれるだろう…。

 俺より年下なのに、俺よりまともなビジネスマンになるんじゃないかな?


 俺の方は、エマさんリクエストのお米のスイーツ作りを進めないとイケない。

 ステビア甘味料が手に入ることになったので、甘い団子が作れるだろう。

 そうなると、みたらしのタレに使う醤油が欲しくなるけど、これはジョルジュさんに色々な商品を輸入してもらわないと作れないと思う。


 そうなると、醤油が高級品になるのか。

 米麹は米に、麦麹は麦に付着してるはずだから、それもいずれルケイドに探させよう。

 アイツもきっと和食が恋しくなってるはずだし。


 自分で探せよ、と言われるかも知れないけど、植物に関してはルケイドの『植物鑑定』スキルを頼る方が間違いないからね。

 持つべきは便利な後輩だね…って、碌な先輩じゃないな。

 それに異世界生活歴はルケイドの方が長いんだから、俺の方が後輩だったわ。

 おっと、また長考モードに入っていたようだ。


「また何か良からぬことを考えたのか?」

とレイドルさん。


「自転車の件でちょっとお腹いっぱいですね。

 この後はどうすれば?」

「一番にガバルドシオンに報告に行ってやれ。

 大会用のブロック式チェスボードの製作依頼もあるんだろ。

 次に冒険者ギルドで軽く報告して、最後に商業ギルドだな。

 またマダムファブーロのレッスンもあるから、暫く遠出はするなよ」

「そうだね。君は知識はあっても実践が出来ないタイプだから、反復練習をするしかないだろうね」


 本当にまたマナー教室通いですか…ガックシ。


「ライエルからは何か無いか?」

「そうですね…冒険者ギルド案件はクレスト君が来たときに話すとして…ん、雨が降り出したか」


 伯爵様に話しを振られたライエルさんだが、急に降り出した雨音に窓を見る。


「競技場は屋根を付けたが、道中は…自転車も雨の日は濡れるしかないか」

「レインコートではなく、手で持つ雨除けの傘を販売開始したが、自転車に乗るときに傘を持つのは危険だな」


 日本だと傘差し運転はまだ多いけど、レイドルさんは片手運転は危険だと分かったみたい。

 でも普及させるのは三輪自転車なので、二輪車に比べるとまだ安定は良い。

 雨の日は濡れないようにと思ったら、レインコートか傘か、屋根だな。


「いっそのこと、貯水池まで道路を屋根で覆いますか」

「回廊みたいにすると?

 インパクトのある提案だが、懐にもインパクトがあるな」

「ハーフエルフに作ってもらいましょう。

 柱と屋根だけだし、作るだけならそれ程難しく無いでしょ。

 それに工事する側も雨宿り出来る場所があれば、落ち着くでしょうし」


 雨の日にカッパ来て自転車を漕ぐのは面倒だし、蒸し暑くてイヤッて人も多いだろう。

 でも土属性魔法で作ると、見た目が明らかに土か石って感じになるのでおしゃれ感が無い。


「そうかも知れんが…」

「約五キロのアーケードか。

 ちょっとした観光目玉になりそうだな」


 伯爵様は渋るがレイドルさんは前向きだ。

 カオリの触手を這わせると、意外と洒落な薔薇の回廊になると思うんだよ。

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