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第14話 ただいま戻りました!

 『魔熊の森』に『悪魔の欠片』退治に出掛けていたサウザスさんと合流、お風呂に入って貰ってから魔熊に起きた出来事を知らされた。


 ただでさえ厄介な相手なのに、殺さず中の精神体の魔物を倒す無茶ぶり要求と来たもんだ。

 アーミンが黒龍に戻って魔熊を押さえて貰っているうちに、ライエルさんに精神体退治を…いや、ライエルさんでもアツアツの魔熊には触れないと思う。


 触る前に魔熊を徹底的に冷やしてやらないと、触った瞬間に手が無くなるだろうね。

 セキネさんなら魔熊を押さえられるかも知れないけど、アイツがこちらの言うこと聞くことは無いだろう。

 それにアイツに借りを作るのは絶対にダメ!


 魔熊についてはライエルさんに任せて、俺は俺のやるべき仕事をしよう。

 その仕事があり過ぎて、優先順位を決められないのが問題なんだけど。それに思い付いたことをクチに出すたびに忙しくなる。

 異世界に行ったらオクチにジッパーしないと、首が回らなくなる。それか、不便であろうと欲しい物を泣く泣く我慢するしかない。


 俺以外の転生者達は自制して我慢して、この世界でなるようにしかならない生き方を送ってきてるんだよね。

 それが適度に生きるコツだと思うけど、骸骨さんの遺産が俺にブレーキを掛けなかった訳。


 そんな事を考えながら眠りに就いて、翌朝は少し寝過ごした。

 夜中に起こされたんだから仕方ない。


 ラクーンから降りると、サウザスさんとケルンさんが朝から元気に拳でじゃれあっていた。

 確かサウザスさんって宮廷魔法士とか言ってたよね。

 なんで素手で?

 おっわっ! ケルンさんがゴロゴロと転がってく! 

 生きてるっ?


 あ、生きてた。ケラケラ笑ってるし。

 宮廷魔法士ってそんなことまで出来るのか。魔法士の概念が根底から崩れるぞ。

 杖道とか言って杖で打ち合う武道を嗜むんだと思ってたけど、商売道具はド突き合いには使わない主義なのかも。


 帰ってからブリュナーさんのシゴキに合わないようにするために…何か動機が悲しい気がするが…仮想ブリュナーさん相手にホクドウを振るう。


 あの人は動きが速いだけじゃなくて両手両足を自在に操るから、接近戦を仕掛けるのは得策ではない。

 かと言って距離を取れば得意の投げナイフがぶんぶん飛んでくる。

 あれで良く、老い先が短いとか言えたもんだ。


 朝練の前に皆にサウザスさんの紹介が終わっていたらしく、練習後に誰もサウザスさんの事を質問せずに普段通りの朝食となる。


 お替わり自由と聞いて、パンケーキ四段重ねのリクエストをするサウザスさんに朝から良くそんなに食えるもんだとビックリだ。

 バナナの皮をスライム達が食べ終わったら朝食終了。

 野営地フルセットをアルジェンが回収して出発となる。


 客室には無賃乗車のサウザスさんが居るが、白タクは禁止なので料金は取らない。

 コチラにはタクシーなんて無いんだけどね。

 料金は取らない代わりに、魔熊の森の出来事を詳しく教えて貰う。


 『悪魔の欠片』とは、『悪魔の壺』と呼ばれる本体から生み出される精神体の事を言う。

 悪魔の壺は身動き出来ない魔物で、欠片を通じて養分を得る変わった魔物だ。


 その魔物によって住民同士の諍いが起こり、争いへと発展するとか、かなりの性悪な魔物だよ。

 エルフのバルム婆に頼まれた仕事だけど、これは確かに放置のできる問題じゃない。


 ライエルさんは少しだけ、サウザスさんなら完璧にその悪魔の欠片の存在が把握出来るってことで、今回サウザスさんを森に送り込んだのがライエルさん。

 宮廷魔法士をご指名出来るなんて、さすがだね。

 

 でも悪魔の壺が壊れて万事休すになったところで、何故か格上の魔熊の中に欠片が潜り込むミラクルが起きた。

 あの魔熊にも心の隙があったと言うべきか。


 暴れ回る魔熊に雨を降らせて頭を冷やさせたサウザスさん、マジ半端ねえっす!


 いつもなら何か設計しながらノンビリ馬車の中で過ごすのだが、魔熊のことが気になってそんな気分じゃない。

 そんな俺を気遣ったのか、アルジェンとカオリが俺の体を拘束して遊んでいる。


 それは遊びなのか少々気になるが、カオリのツタで出来たレールで俺をグルグル巻きにしてミニッチュさんが魔界鉄道馬車トリプルナインで重力無視の垂直走行。

 最後に股間に止まって、

「大っきくなっちゃった!のです!」

 

 それは耳でやれ耳で。股間でやると完全に下ネタだ。

 同乗者にはウケてるから良いけど、女性の前ではやらないように。


 そんな感じで残りの道中はトラブルもなく、その日の夕方に無事リミエンに到着した。

 途中から車輪の立てる音も微振動も小さくなっていたのは、道路が綺麗になっていたせいだろう。


 見慣れた筈のリミエン城門前が、何か見慣れない光景に変わっているのは気のせい?


 いや…貯水池方面に向かう道路の出発地点に新しい建物が建っているのと、道路に沿うように線路が出来ているのは気のせいじゃ無さそうだ。

 あまり過剰な期待はしないようにと思っていたが、ハーフエルフ集団が線路の工事に使えるようになったってことか。


 途中から先行してサーラさんが先触れとしてリミエンに戻っていたので、城門前で手を振る人達に出迎えられた。


 停車したラクーンから降りると、一番に抱き付いて来たのは嬉しいことにエマさんだった。

 それからルーチェ、少し照れながらロイ、最後にラビィが脚にヒシッとへばり付く。

 あ、最初に抱き付いていたのはマジックバッグから出て来たドランさんだったか。

 ま、コイツはノーカンで構わないか。


「ただいま、エマさん。

 ただいま、ロイ、ルーチェ」

「お帰りなさい。心配したんだよ、初日からトラブル起こすんだもの」

「パパ!お帰りなさい!

 ルーチェ、良い子にしてたよ!」

「お帰りなさい。

 俺も真面目に訓練してた」

「ワイも真面目に…何しとった?」

「知るかっ!」


 ははは、やっぱり連絡が入ってたのか。どこまで詳細な情報が伝わっているかが心配だけど。

 まさかエマさんに変装したこととか知られてないよね?


「後で教えて欲しい事があるからね!」

「…はい」


 完全にバレてますね…なんて答えよう?


「ここで止まっていたら迷惑になるから、町に入るよ」

「うん! 無事に帰って来てくれて良かったわ」


 もう一度エマさんが抱き付いてくるのは、俺を独り占めしたいって欲求からかな?

 結婚問題で俺が色々言われているから、心配になってるのかも。

 その渦中の二人がラクーンの御者台からコチラを見てるからね。


「城門を通ったらラクーンは輸送業ギルドの駐機場に駐めますね」

とステラさんが声を掛けてくる。

 まさかエマさん達が城門の外まで出迎えに来ているとは思っていなかったので、少々予定変更だ。


「うん、そうして。俺らはここから歩いてくから」


 ルーチェが背中に登ってくるので仕方なく背中に手を回す。エマさんと手を繋ぎたかったのに残念。


「ママーっ!」


 ここでアルジェンがポケットから飛び出してエマさんの顔にへばり付く。

 本人はハグだと言うが、どう見てもハグには見えない。


「アルジェンちゃんも、お帰りなさい!

 びっくりしたんだから、もう燃やしちゃ駄目よ」

「ゴメンなさいなのです。

 そのせいでパパに迷惑掛けたのです」


 おっと、それ以上は喋ったらダメっ!


「王都はおかしな場所だったのです。

 冒険者ギルドで人が飛んできて、妖精騒ぎでパパがママに変身しないとイケなかったのです」

「アルジェン、ハウスッ!」

「後で詳しく教えてね!」

「勿論なのです!」


 チーン…。


 先にアルジェンに言い含めておかなかった俺のミス。魔熊の事で頭がいっぱいだったからなぁ。


 事情を知っているケルンさんはさっきからクスクス。思い出し笑いでもしているのだろう。

 王妃様、メイドのフィリーさんとアリアさん、サウザスさんもラクーンから降りてきて、エマさんに挨拶する。


「王都のしがない商会の放蕩娘のサリーじゃ。クレスト殿と王都で知り合ってな。

 暫く世話になるの」

「サリー様付きのメイドのフィリーです、初めまして」

「アリアです。俳優志望でクレストさんに助けて貰いました」

「魔法士のサウザスです。お初にお目に掛かります」


 王妃様の御世話になる、はどう言う意味?

 お忍びだから普通の宿に泊まるんだよね?


「アルジェンちゃん保護令はリミエンでも出てるけど、一人でウロウロしたらダメだからね」

「はい!なのです!

 出る時は誰かの頭に座るのです!」

「頭は邪魔だから肩にしてね」

「はーい、そうするのです」


 エマさんの肩にアルジェンが座り、ドランさんも飛んで来て俺の肩に止まる。

 それで置いてきぼりを食らったと思ったのか、カオリもバッグから出て来て俺の肩に。

 自己主張が強くなってきたのは、アルジェンの影響かも。最初は割とノンビリ屋だったのに。


「あっ! お花! 綺麗なの!」


 おんぶされているのですぐ目の前に出て来たカオリを見たルーチェが喜ぶと、カオリも綺麗と言われて嬉しそうだ。

 エマさんもロイも可愛いと言う感想で、カオリのマネキンボディが気になったのは俺一人だけ。

 後はルケイドの反応に期待するしかないか。


 城門を通過するのにギルドカードを見せて通るが、グレス副隊長が王妃様を見て不思議そうな顔をする。

 そしてギルドカードの名前を見て…ハッと驚いた顔をするので旧姓で王妃様だと気が付いたのだろう。


 毎日人の顔を見て不信人物をチェックして鍛えた観察眼は王妃様を見逃さなかったか。

 何も言うなと王妃様が人差し指をクチビルの前に立てたので、副隊長が複雑な表情を見せる。


 王妃様がお忍び旅行をしているとの連絡が来ていないと分かったが、知ってしまった副隊長に同情する。


「サリー様、宿泊先のご予定は?」

「クレスト殿の屋敷にしようかとの」

「えっ? 聞いてないよ!」

「リミエンで一番安全な場所の一つじゃろ」


 そりゃ…確かに我が家の警戒網は完璧だょ。

 それにブリュナーさんを標準装備だし。


 警備のことを考えて質問したのだろうが、俺とアルジェン、ドランさん、カオリを見て…、

「クレストさん、くれぐれも騒ぎを起こさないようにお願いしますよ」

と諦めた表情で通行許可を出す副隊長に内心だけでゴメンねと言っておく。


「元アパートの方にも宿泊出来るようになってるから、アリアさんはそっちに入るのかな?」

とエマさん。


「運用開始してるんだ。

 家具とか布団も用意してあるの?」

「うん、他の旅館に宿泊するより安くつくからってブリュナーさんが全部入れてるわ。

 体一つで生活が始められるわよ」

「温泉旅館関係者の宿所のことです?

 ただで泊まれるんです?」

「暫くはそのはずよ。

 でも何か仕事を任される筈」


 お金の無いアリアさんが心配するのは当然だが、お金のことは追々考えよう。

 

「あ、シアスタさんがファブーロさんのところで衣装作りの仕事を始めてるわょ。

 筋が良いって褒められてる」


 あの人は舞台衣装を作ってたんだから裁縫の腕は確かだろ。


「舞台が出来るのはまだ先だけど、アリアさんが俳優ならシアスタさんと一緒に居る方が良いと思うわょ」

「そうだね、アリアさんも衣装デザインしてるし、丁度良いね」


 アリアさんはコスプレ衣装専門だけど、言わなきゃ分かるまい。


「サウザス殿はどうするのじゃ?」

「冒険者ギルドでライエルと会ってから決めますよ。

 帰還報告は明日にするように伝えておくから、クレスト君は今夜はノンビリすると良い」

「助かります」


「私は商業ギルドに顔を出してから戻りますね」

とケルンさん。

 時は金なり、情報は少しでも早く届けようと言う心掛けだろう。商人の鑑だね。


 ケルンさんが手を振って離れていき、それからすぐサーラ・カーラコンビが走って来た。


「先触れご苦労じゃったな」

「いえいえ、お安い御用です!

 今日はクレストさんの家でパーティーですから! お風呂にも入れます!」

「のぼせないようにね」


 初めてカーラさんが我が家のお風呂を使った時はのぼせちゃったからね。


「もうお風呂のプロです!フロプロです!

 以前の私じゃないところをクレたんに見せてあげましょう!」

「混浴はダメですっ!」

「エマさんのけちっ!」


 俺がエマさんと入るのはオッケーだよね?

 それとも俺のお風呂の供はアルジェン達?

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