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第13話 お一人様、御案内

 ウドルの町で楽しくロジエさんとお喋りしていから町を出た。

 温泉旅館の薔薇園計画も立ったし、良い話が纏まってルンルン気分。

 後はお金の問題があるけど、少しずつやって行けば何とかなるんじゃない?


 それから二十キロメトル程馬車を走らせ、三日目の野営地に到着した。

 ここは往路で王都から歩いて来たバッシロさん、シアスタさん夫妻と出会った場所だ。


 野営地フルセットをアルジェンに出してもらう。今夜は露天風呂の解放日!

 そのお風呂を見て、

「そんなに我の裸体を眺めたいなら、遠慮はいらんぞ」

と何か勘違いしたおば…王妃様。


「とんでもないです! 王妃様のお体など」

「ババアの裸に無いとな?」

「歳は関係無いです! 庶民が高貴なお方のお肌など見る物ではないのであります!」

「貴族不要論のお主が良くまぁそんなことを。

 それならアヤノとセリカと入れば良かろう。広さは足るじゃろ?」


 三人はキツい…物理的にではなく、精神的に。絶対アレがメッチャ元気になるから!


「この風呂も、三人でパパッと短時間で入った方が魔石の消費が抑えられるじゃろ。

 経済的だし、そうすべきと思わんか?」

「魔石はアルジェンとミニマッチュさんがチャージしてくれるので、実は買わなくて済むんですよ」

「なんと! オチビなのにそんなことまで出来るのか。大したもんじゃな」


 魔力が一定レベル以上ある人なら、時間さえ掛ければチャージ出来るんだけどね。


「晩御飯出来たよー!」

と、カーラさんの声が野営地に響く。


 今回の旅は今夜の宿泊を終えれば、明日の夜にはリミエンに到着予定だ。

 料理はこれでもかとテーブル一杯に並べられ、うちの子達の足の踏み場が無いぐらいだ。


 まぁ、テーブルに上がること自体がどうなのよ?って問題にならないのが不思議なんだけど。

 皆がアルジェンとカオリには甘いからね。


「毎回こんな食事が取れるとはスオーリーが喜ぶ訳じゃ。軍の食事ではこうはいかん。

 これを一度でも体験すると、駐屯地計画も確かに必要じゃと納得じゃな」

「でも施設を建てるのもお金が必要ですよ。

 王国全土になると、物凄い数ですから」


 ピロシキを両手に持つフィリーさんが交互にクチに入れながら、そんな指摘をしてくる。

 食うか喋るかどちらかにして欲しい。


「建屋はラクーンの大きくなったような形の移動式じゃからな。建設と言うより、町で大工が作って現地まで運ぶんじゃろ。

 既に建物はリミエンと周辺でも生産開始しておるらしいぞ。リミエン拡張計画にも使うからの」

「移動式の家かぁ。良く思い付いたね。

 大工が作るんなら馬車工房は儲からないんでしょ?」


 フィリーさんがステラさんに残念だよねって顔を見せるが、ステラさんは大したことじゃ無いて手を振る。


「馬車とは全然違いますから、ノウハウの無い我々馬車工房に製作依頼が来ても作れませんよ。

 それに…ラクーンの生産だけであっぷあっぷです」


 あっぷあっぷ? まあ、死語でも良いか。


 王妃様にはもう移動式住居の生産情報が入ってるのか。さすが情報を得るのが早いね。

 移動式住居の車輪と軸受部は木だと壊れそうだから鋼材店で作るはず。

 今頃ベアリングの大量発注でビステルさんが不機嫌になってないか心配だよ。


 食事の後は、薔薇風呂に入った女性達が大興奮な様子で騒いでる。

 かなり気に入った様子なので、温泉旅館名物になるのは確実だけど、問題は花びらの確保か。

 ロジエさん一人じゃ面倒を見切れない広さの薔薇園が必要だろうから、専門の薔薇農家が必要になるだろうね。


 女性達の後に俺とケルンさんも薔薇風呂に入ったが、花の香りに酔いそうだった。

 男湯には薔薇以外の物を浮かべないとダメだろう。

 アヒルの玩具以外だと柚子や菖蒲? 桧のチップとか。皮脂汚れを吸着する商品はこの世界には無いけど、お風呂にスライム浮かべたらお湯が綺麗になるかな?

 ミカンの皮を干した陳皮も良いかも。


 明確な季節が無いから年中同じアイテムで楽しめるけど、飽きるからお風呂のバリエーションを豊富にしないとマズイな。


 そんな事を考えながら、バタバタとラクーンのシートを動かしてベッドに早替わり。

 アルジェンが居るから布団も色々取り揃えてるけど、マジックバッグを持っていない人はそのうち布団をどう運ぶかが問題だ。


 シート下に出来るスペースに畳んで押し込むのがベストだろうけど、泥で汚れないかが心配。

 今は工具とスペアパーツが入ってる床下に、毛布を入れるスペースを確保することも考えておこうか。


 そんな訳でその夜も朝までぐっすり就寝…かと思えば、

「パパ! 凄く強い人が来てるのです!」

と夜中にアルジェンに起こされた。


「強いって、ベルさんとか副団長クラス?」

「ライエル氏クラスなのです!

 魔法士として人間やめてるレベルなのです…でも、パパが元通りになればワンパンで勝てるのです」


 つまり、とっても強い人なんだけど、アルジェンなら勝てるから心配するなってことだね。

 パジャマ姿にサンダルでラクーンを降りる。

 ケルンさんが目を覚ましたけど、寝てるようにと告げておいた。


 照明の魔法を使って、隠れる様子も見せずにこちらに向かって来る不信人物が俺に気が付いて問い掛けてきた。


「ここは野営地か?」

「俺らが勝手に野営しているだけですよ。

 ウドルの町まで半日の地点です」


 半日って普通に言えるようになった俺って成長したよね?

 普通の人が歩いて半日って意味で、ラクーンだとそんなに掛からないんだけど。


「リミエンは一日半か。少し休ませてもらう。

 私は王都から来たサウザスだ」

「王都からですか?

 でもあっちは…『魔熊の森』方面ですよね?」

「そうだ。任務である魔物を探していたんだ」

「そうなんですか。大変ですね」


 どこかで聞いたことのある名前のような気がするけど、思い出せなくてもまぁいっか。


「君は外国の人?」

「はい、キリアス出身です」

「そうなのか…」

「どうかしました?」


 あれ?何か気に障るようなことしたっけ?


「あ、いや、気にしなくて良い。

 その、建物は君がここに建てたのか?」

「建てたんじゃなくて運んできました」


 タイニーハウスを見た人の反応って、大体これだよね。プレハブ小屋を運ぶのと同じだと思うんだけど。


「そう…ひょっとして、君の名前はクレスト?」


 この人、俺がタイニーハウスの生みの親だって知ってるの?


「はい。クレストです。良くご存知で」

「はぁ…これだけひじょ…ゴホン、珍しい形の馬車なので、そうかと思ったんだ」


 ひじょ? 非常識? 面識の無い人には言われたくないなぁ。俺の何処が非常識なんだろ?


「テントを張っても?」

「あ、どうぞ。俺の土地じゃないんで」


 マジックバッグ持ちらしく、背中に背負った大きな鞄からズリズリとテントを取り出しトントンとペグを打つ。

 手慣れた様子なのでソロキャンパーか冒険者だろうか?

 いや、任務で単独行動だから凄腕の軍人か。


 ここでガチャリとタイニーハウスのドアが開いて、王妃様が顔を見せた。


「誰かと思えばサウザスではないか」


 王妃様のお知り合いでしたか。それは良かっ…えーと、お忍び旅行中だけど、身バレしても良いの?


「王妃様! 何故ここにっ?!」

と、知り合いなら驚くのは当然だな。


「リミエンに視察の途中じゃ」

「イヤイヤ、護衛隊はどうされましたかっ?」


 その疑問はご尤も。


「護衛なら皆のスーパーアイドル、愛しのアルジェンに任されたのです!」


 俺の背中にへばり付いていたアルジェンがそこで姿を現した。肩に立ってお決まりのポーズ!


「妖精? その妖精が居るから警戒と護衛はバッチリ…なのですか?」

「全部アールに任せておけば問題無い。

 それより風呂に入れ。ずっと着たきり雀ではないか」


 確かに臭うな…これだから冒険者って嫌われるんだよね。


「それなら先に『浄化(クリーン)』なのです」


 サウザスさんがピカピカ光るエフェクト付き!

 アルジェンなら、普通の人には使えない消費魔力量マジパねえ魔法も自由自在。

 スーパー野菜人化も追加してるから、髪の毛も逆立ってるし。

 風呂に入る前なら髪形を変えても関係無いからって、それは遊び過ぎだよ。


 高濃度オゾンとプラズマとマイナスイオンと次亜塩素酸と…その他諸々ユメと希望をぶっ込んだ浄化魔法で綺麗になったサウザスさんが無臭化されてニコニコだ。

 自分の臭いが気になってたらしい。


「サリアス王妃様、先ほど風呂とか申されましたのは?」

「アール、済まぬが用意してくれぬか」

「はーい! 任されたのです!」


 …余分なシーンは全部カット!


「それでサウザスは何をやっておったのじゃ?」

「ライエルからの依頼で、『魔熊の森』に潜む魔物を討伐しておりました」


 ライエルさんの依頼で魔熊の?


「あっ! 青嵐の人っ!」


 間違いない! 確か悪魔の何とかって精神体の魔物を退治するの、ライエルさんが王都に頼むって。

 それがこの人か。

 道理でアルジェンが反応するわけだ。


「お主なぁ…早く気付け」

「済みません、よそ者なもんで」

「パパは細かいことは気にしない大雑把な男なのです!」

「アルジェン、それ、褒めてる? 褒めてない?」


 貶されてる感の方がどう考えても強い。


「サウザス相手に…さすがクレストじゃ。

 それで任務の方は終わったのじゃな?」

「いえ、最後に思わぬトラブルが発生しました。それでライエルに相談しようか思い、リミエンに向かうつもりでした」

「悪魔の欠片に何かあったの?

 欠片が合体して悪魔になった?」


 悪魔をちょっと見てみたいけど、人間を滅ぼそうとする悪い奴ならノーサンキューか。

 興味本位で観光旅行する場所じゃないよね。

 仕事が全部片付いたら、西の領地の天然温泉に遊びに行きたいんだけど、いつになるかな?


「合体などせんが、最後の悪足掻きか魔熊に憑依してしまってな」

「マジかっ! 

 魔熊は大丈夫なのかっ!」


 あの魔熊に憑依するとか、どんな性能持ってんだよ?

 魔熊を倒さないとイケないなら、それこそアーミンを呼んでこないと勝てないと思うぞ。

 でもアイツには死んで欲しくない。

 怖いけど、良い奴なんだよ。

 触ったら大火傷するような、正真正銘の触るな危険!だけどね。


「憑依直後はかなり暴れ回ったが、雨を降らせて何とか今は落ち着いた」

「それは良かった。悪い熊じゃないから」

「ほぉ、クレストは魔熊に会った事があるんじゃな?」


 あ…余計なことを言ったか。


「俺がコッチに来て目覚めたのが魔熊の森の中なんです。魔熊が居なかったら、俺は魔物に喰われていたと思います」


 修行してたことは完全黙秘!


「それだけでは悪い熊か良い熊か分からんではないか」

「まぁ…そうですけど。俺を食おうと思えばいつでもパクッとイケたと思います」

「魔熊にも好き嫌いがあったんじゃろ。

 どこから見ても、お主は消化に悪そうじゃしな」

「消化て…」


 魔熊にた喰われたら、消化の前に焼けて炭になってると思うけど。

 スライムは旨い食い物じゃないから無視してた、とかじゃなくて、アイツは面倒見が良かったからなぁ。

 まさかスライム育成ゲーム感覚で俺を育ててたとか?


「いずれにせよ、クレストもサウザスも無事で何よりじゃ。

 後はその悪魔の欠片とやらをどうやって退治するか、と言う問題じゃろ?」

「えぇ、魔熊自体が簡単に倒せる相手ではありませんから。

 耐熱装備で固めた騎士団で壁を作り、水魔法で攻撃するのが一番簡単ですが、それでも被害がかなり出るでしょう。

 宮廷魔法士としてこんな戦法は取らせることは出来ません」


 そうだよね、まず魔熊に触っても平気な装備じゃないとイケないし、火山弾の攻撃があるから物理的にも強くないと盾にはならないよね。

 魔熊が人間が勝つのは無理じゃない?

 そうなると、頼みはアーミンか。


 ライエルさんがどんな案を出すか楽しみだけど、さすがに相手が悪いだろう。

 ドラゴンを倒したパーティーにお呼びが掛かるのは間違いないだろうけど、犠牲者無しとはいかないだろうな。


「今日はさっさと寝て、明日リミエンに付いてから考えるかの。よし、クレストはサウザスをラクーンに寝かせてやれ」


 サウザスさんがせっかくテント張ったのに?

 偉い人の命令なので、イヤとは言えませんけどね。

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