第8話 うちの子は優秀なのです!
『あれ? 出る所を間違ったようです』
夕食後にマジックバッグに入り、アルジェン達のもとに遊びに行こうと思っていたドランだが、マジックバッグのアドレスを間違えたらしくクレストが居ない場所に出てしまった。
マジックバッグの中に入れるようになった水晶龍のドランは、クレストが現在の利用者として登録されているマジックバッグの中を自由に行き来する能力を持つ。
クレストが肩に掛けているマジックバッグを出口に選んだつもりだが、出たのは六畳程の広さのある一室のテーブルの上。
そこはエリック皇太子がクレストとドランの為に王城に用意した部屋…と言うよりは、エリック達が欲しい物を書いた手紙を置いておく、又はクレストがお強請りしたい物を書いた手紙を置いておく場所であった。
クレストがサリアス王妃を連れて王都を出たのは今朝方のこと。当然まだリミエンに到着はしていない。
だが王妃の無事を心配する国王がドランに一日に一回、この部屋に来て手紙を運んで欲しいとお願いしていたのだ。
ドランはそのお願いを忘れていたのだが、幸いうっかり出口を間違えたことで、お願いされていたことを思い出した。
『そうでした。お願いされていた事を綺麗さっぱり忘れてて…もう手紙は置いてありますね。
それとオヤツも』
お駄賃として置いてあったオヤツをパクリとクチに入れ、手紙を両手に持つと今度こそアルジェンのいる場所を目指すのだ。
ドランはコンラッド王国の中では唯一の、テレポーテーションが可能な既知の生物なのである。
実際にはテレポーテーションと言うよりマジックバッグとマジックバッグの間を行き来出来る能力と言うべきか。
ただし行き来が出来る対象は、クレストが現在利用者となっているマジックバッグに限定されており、他の者のマジックバッグは出入り出来ない。
そうなった理由は本人にも分からないが、クレストと合体したことが原因だと考えられる。
現在クレストのマジックバッグは自分の肩に掛けている物を除くと、リミエンのクレストの住居、森のダンジョンの管理棟、そしてこの王城の三ヶ所に置いてある。
ドランが手紙を持ってクレストの前に姿を現したのは、クレスト達の夕食が終わって後片付けをしている時であった。
アルジェンとクレストに念話を繋ぎ、王城から手紙を持ってきたことを伝える。
その手紙には、その日の午後に摘発されたばかりの魔法士ギルドの幹部から得た、クレスト襲撃計画について記載されていたのだ。
エリック皇太子の居室からしか入れない連絡用の部屋に手紙が置かれたのは、ドランが来るほんの僅か前のこと。
いつ来るか分からないドランをメッセンジャーとして頼るしかないエリック皇太子が、一体どのような気持ちでその手紙を置いたことか。
アルジェンから野営時にはアルジェンとスライムによる警戒網が構築されていると聞かされているとは言え、万が一と言うこともある。
警戒にやり過ぎと言うものはないのだ。
ずっとその部屋でドランが来るのを待っていられる程、皇太子に暇な時間は無い。
きっと祈るような気持ちでこの手紙を置いたことだろう、クレストはそう想像した。
そして手紙の内容を聞かされたアルジェンが怒り狂うのかと心配したが、意外にもアルジェンは冷静だった。
「フムフム、今夜襲撃の可能性があるのですか。随分と舐めた真似をしてくれるのです」
ミニミニ魔界蟲さんに乗ったまま、両手を腰に当てると、ポンとミニミニさんを軽く叩く。
「私とミニマッチュさんに全部任せてくれて大丈夫なのです!」
と言って右手でサムズアップ。
「ミニマッチュさんって?
もしかしてミニミニ魔界蟲さんのこと?」
「そうなのです。
コッチでは魔界蟲はメジャーデビューしていないインディーズモンスターなので、呼び名を変えてみたのです」
「インディーズ…まぁ、そうだね…じゃあ俺もそう呼ぶょ。
で、実際にはどうやるの?」
「大地はミニマッチュさんのホームグラウンドなのです。
パパ達はまな板のマグロになって欲しいのです。後はミニマッチュさんに丸投げなのです」
えーと…丸投げするの?
さっき私とミニマッチュさんに任せろと言った気がするんだけど。
でもラルムとピエルの警戒網もあるから、やる気になってるならそれ程心配しなくて良いか。
「俺達は賊を誘い出す餌になれば良いんだね?
いつもの土壁はどうする?
無警戒を装うなら、無い方が良いよね?」
「土属性の魔法を使っていると思わせない方が良いのです」
なるほど、確かにな。
ミニマッチュさんにトラップを仕掛けさせるつもりだな。
アルジェンは火属性だと思われてるだろうし、カーラさんは風属性の適性持ちなのは相手も分かってる筈だからね。
王都に来る途中の木材運搬馬車の件、口止めしなかったのはマズかったかな。
カーラさんが土の柱を作って荷馬車を持ち上げたの、知られてなきゃ良いけど。
まぁ、カーラさんは柱一本出すだけで精一杯だから、知られてても問題無い範囲かも。
「対応はアルジェンに任せるよ。
あと、まな板に乗せるのはマグロじゃなくて鯉だから。マグロになるのは違う意味だから気を付けようね」
「パパはママがマグロにならないように気を付けないとイケないのです」
分かっててボケたのか。
しかしコイツ、余程俺のゴニョゴニョのテクニックがイケてないと思ってんだな?
「はっ! その為に公金を使っての温泉旅館建設と、コスプレ衣装とコンドーさんの開発を…さすがパパなのです!」
「違うって! それにコスプレに公金使う予定は無いぞ。コンドーさんは…国民の為だからな」
「城に出入り出来るベルと戦女神のフレイアが商業ギルドを通じてコスプレ衣装を作らせているのです!
それなら間違いなくお城から圧力を掛けるよう催促しててもおかしくないのです!」
コスプレ衣装如きで子供の数が増えるなら万々歳だろ。
そのうちアルジェンが少子高齢化対策に、ラブホテルの建設と宿泊券を配布しろと言い出さないか不安だぞ。
襲撃の話から、どうしてそっちの話になるんだ?
本当にアルジェンに任せて大丈夫なのか、少し不安になってきた。
あぁ、マグロの話からか。
食べるならワサビと醤油が必要だよね。確かにマヨもイケるけど、漬け丼とかはマヨじゃ出来ないし。
その前にマグロなんて居るのかな?
鰹を釣ってたらマグレで釣れるかも知れないけど、やっぱり狙って獲るなら延縄漁だよな。
残念ながら漁業には詳しくないから語らないけど。
マグロが居たとしても、醤油や味噌の原料の麹菌は地球では日本にしか生存していないそうだ。
環境的にも高温多湿ではないコンラッド王国には存在していないと思う。
この世界を作った神様が居ると仮定して、その神様が適当に世界を作ったならワンチャンあるかも知れないけど。
そんなノリで手紙を王妃様に手渡すと、
「アールが任せよと申すのなら、そうしようではないか」
と言って手に乗せたアルジェンの頭を撫でる。
狙われてるのが自分じゃなくて俺だから気楽に構えてる?
それともアルジェンの能力をそれだけ信用していると?
アルジェンの能力って、まだ王妃様には宴会芸しか見せてないんだけど。
その宴会芸の中核を担うミニマッチュさんはと言うと、馬車鉄道に変身してカオリとドランさん、ラルムとピエルを乗せて野営地を走り回っている。
まるで子供を乗せて走るミニSLみたいだな。
俺が狙われていると聞いたマーメイドの四人が、本当に俺を護衛しなくて良いのか念押しをするのは、現在請けている依頼が俺の護衛だから当然だ。
「アヤノッチ達はサリーの護衛を頼むのです。
私とミニマッチュさんがヤル気になれば、何人たりともパパには指一本触れられないのです」
と言って横ピースを決める。
「ミニマッチュさんがもう仕掛けを終えたので、お家に入って欲しいのです。
おトイレ行く時は真っ直ぐ最短コースを通るようにと伝言が来てるのです」
まさかミニマッチュさんって単に変身して走り回ってただけじゃなくて、落とし穴を作りながら走ってたのか?
持ってるのは変身スキルだけだと思ってたけど、想像以上に出来る魔界蟲さんだったとは。
あんな小さな魔界蟲でそれだけの能力があるのに、ベルさんもラビィもよくサシで戦って勝てたもんだ。
今になって思えば、魔界蟲戦の時に落とし穴を作られてたらコッチに勝ち目は無かったんだよね。
アルジェンの使役する魔界蟲だから高い能力を持っているのかな。
俺の記憶を共有しているアルジェンだから、アニメや特撮映画のシーンなんかもインプットされてる筈。
それをミニマッチュさんが共有しているなら、人間の手に負えないような化け物になるんじゃないかな。
「本当に大丈夫?」
「私にまっかせなさーい!
一宿一飯、三食オヤツ付きの恩に報うビッグチャンスなのです!
ついでに私が居ないと生活出来ないと思わせるぐらい、エロエロにしてみせるのです!」
「それ、メロメロの間違いよね…?
エロいのが好きなのはベルさん一人で足りてるからね」
「ムッツリスケさんなパパにアピールが足りていないのです!
大衆からの人気を得るには、セリカだけでなくアヤノッチも大胆に肌を見せるべきなのですっ!」
「…うちは実力も大してないから、人気は無くても良いんだけど…」
「リミエンに戻ったら黒レザーのチューブトップでヘソ出し、スリットの入ったショーパン、リボン付きガーターにニーハイストッキングでイメチェンするのです!
これだけでパパならご飯三杯イケる最強コーデなのです!」
なんか俺が狙われてることってどうでも良くなってない?
そりゃ、そう言う服装好きだけど、男の子なら皆そうだろ?
それに前衛のアヤノさんの防御力を落としてどうすんだよ。
この世界にはスキルポイントを割り振り出来るシステムなんてないから、完全回避なんて無理だぞ。
「三杯…も?」
そこっ! 本気で考えないっ!
「ほぉ、リミエンに到着したらアールにコーデを頼んでみるのも悪くないかのぉ」
「…王妃様…ご冗談を…」
「シャーリンに着せる服の参考にするだけじゃ。フィリーも良く覚えておくようにな」
「了解しましたっ!
アルジェンちゃん! よろしくうっ!」
マジで四十…の王妃様にショーパン履かせるつもり?
「そこの黒いの。後で裏に来るように」
親指でタイニーハウスを差す王妃様がマジで怖い!
「サリー、そこもミニマッチュさんがトラップ仕掛けてるので行ったらダメなのです」
「そうなのか。
今回は命拾いしたようじゃな」
「ヤルなら私が整地してない場所が良いのです」
…やらない方向のアドバイスをプリーズ!
王妃様とフィリーさんを残して、他の女性陣がそそくさとタイニーハウスに避難し始めてるし。
「まぁ勘弁してやろう。その代わり、クレストも服選びに付き合うようにな」
「分かりました…はぁ」
それだと半日は潰れるのは確定だな。
でもリミエンに王妃様が気に入るようなお店ってあるのかな?
品揃えは王都に負けてると思うけど。
シアスタさんとアリアさんがアドバイスしたら、現代風のデザインや誰も着ないパリコレの奇抜な衣装みたいなのが出来るかも。
シアスタさんは舞台衣装担当だからヤバそうだな。
「ケルンも今夜はタイニーハウスで寝るかの?」
と王妃様がまだ椅子に座っているケルンさんに問い掛ける。
俺と一緒のラクーンで寝ることを心配しているのだろう。
女性八人、王妃付きの狭い小屋で男一人…なんて無理だよね。
「いざとなれば私も戦いますから。心配ありませんよ」
と手を振りアハハと笑う。
むしろ争い事ならウェルカムです!って感じを見せるのは、戦う行商人の本能か。
「そうか。怖くなったらいつでも来い。
では寝る用意をするかの」
そうして王妃様とフィリーさんもタイニーハウスへ移動する。
「パパも早く寝る用意をするのです!
寝付けないなら子守唄をサービスするのです!」
二十歳前の大人に子守唄とかハズいだろ。
ミニマッチュさん達も気が済んだらしくラクーンに戻るので、俺とケルンさんも後を追ってラクーンに入る。
「明日に備えて寝るのでーす!」
バタンとドアを閉じ、ガチャリと鍵を掛けて後は寝るだけ。
と言ってもまだ眠たくないので、テーブルに書きかけの図面を広げる。丸い鉄パイプのラクーンをアルミ合金の角パイプに変更した伯爵様専用機だ。
まだアルミの生産が始まっていないので絵に書いたナンチャラになる可能性もあるが、時間潰しの妄想にちょうど良い。
肩掛けバッグにカオリとスライム達が入り、ドランさんはマジックバッグでリミエンに戻る。
ミニマッチュさんの姿が見えないが、アルジェンの中に入ったのか、警戒のために外に出たのだろう。
魔力の粒子になれば、壁でも何でもすり抜けられるらしいからね。その能力は素直に羨ましいよ。
何に使うかは…勿論内緒!
こんな感じでミニマッチュさんが大活躍して六人を生け捕りにしてくれた。
アルジェンは最期に麻痺を掛けただけだが、ミニマッチュさんを使役出来るのはアルジェンだけだからね。
アルジェンのお陰と言うことにして構わないだろう。




