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81 動けない…


「 手を離して下さい 」


 私は押し殺した声で恭平さんを睨んだ。雄太さんはまだ駐車場にいるはずだ。走れば間に合う。止めないと、誤解を解かないと、この二人はわたしのせいで終わってしまう。あんなに愛し合っているのにこんな訳のわからない形で別れるなんて、絶対に嫌。でも恭平さんは私の腕をつかんだまま彼の出て行ったドアを見ている。わかってる、本当は追いかけたいんだ。手を振りほどこうとしてもがいたら、逆に彼は私を胸元に引き込んで強く抱きしめた。シャワーの余韻が残る甘い香り。ほどいた髪の先から雫が落ちて私の頬を濡らす。


「 これでいいんだ 」

「 嘘、どうしてあんな事を言うの。雄太さんはあなたが追いかけるのを待っているのに 」

「 ユウは、俺の気持ちをわかっているよ。俺たちはいつでも気持ちが通じ合うから言葉はいらない 」


 見上げた恭平さんの顔は静かで穏やかだった。気づけば、私はしっかり恭平さんの胸に顔を埋めている。ああ、温かい。


「 このままだと本当に終わってしまうわ。私たちは3人で家族じゃなかったの? 」

家族。口にして胸がキリキリ痛む。普通に幸せな恋人同士だった雄太さんと恭平さんの間に割り込んだのは私だ。ひとりぼっちの私を仲間に入れてくれただけなのに、そのせいで別れてしまうなら、私はただの疫病神。家族だなんて、一方的な思い込みなんだ。でも恭平さんは笑って私の頬を撫でる。

「 青葉、ユウには生まれた時から背負っている重たい責任がある。どこかへ逃げたら消えるようなものじゃない。それは俺たちお互いによくわかっている。特に俺はユウといつかこうなる日が来てもいいように、心の準備は出来ていたんだ 」

「 私がいなければ良かったのね 」

「 それは違うよ。青葉は俺たちに大切なものをくれた。最後の宿命に気付かせてくれたのは青葉だ。これでユウは楽になれる 」

「 一番好きな人と別れてどうして楽になるの… 」

「 好きだから幸せを願って身を引くんだ 」

「 雄太さんがあのお姫様と一緒になるのが幸せなんて、おかしいわ」

「 あの二人は、同じ境遇で同じしがらみを抱えて生きている。それに… 」


  初めて恭平さんの顔が変わった。


 「 ユウは同性愛者じゃない。俺のために自分を偽って生きるのはこれで終わりにしてほしい 」

 

 痛みが全身に走る。傷ではない、心の痛み。恭平さんの心が流す血が私の中に入って彼の悲しみが伝わる。でも彼の辛さがもしこれで減るのなら、私はどんなに痛くても構わない。他にできることは何もないもの。


「 青葉、さっき話した事は覚えてる?」


 顔を上げたら、恭平さんの目がまっすぐ私を見ている。やだ、何回見つめられてもドキドキする、不思議な色の瞳。


「 話したって… 」

「 結婚するって、言ったよね 」

「 そんなの嘘だってわかってます」

「 俺は好きな人に嘘はつかない 」

 抱きしめられていきなりのキス。


 息が出来ない。私は目を閉じて、愛する人の愛撫を受ける。素敵。


 素敵すぎて、動けない…





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