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80 突然の別れと…

「 手加減しやがって、なめんなよ… 中途半端な蹴りくらった方がイラつくんだ。俺にお手本見せてほしいのか 」


 ベッドの足元に仰向けになって倒れたまま、雄太さんは陽気な声でつぶやいた。上半身を起こして胡坐をかくと、恭平さんを見てニヤッと笑う。でも、蹴られた脇腹を手で押さえてかなりダメージが大きそうだ。青ざめた顔に目だけが据わっていて、怒りの大きさが半端なく伝わる。恭平さんは雄太さんを見たまま微動だにせず、異様に緊張した空気が辺りに充満している。

「 ごめんなさい。私がつまらない事を言って雄太さんを怒らせたから悪いんです 」

何とかこの場を収めたくて私は口を開いた。

「 こいつ、美奈子が気に喰わないんだよ。そんなに気になるなら俺に聞けばいいだろ。妙な勘ぐりされたってこっちが迷惑だ 」

「 ユウからきちんと説明しないから、青葉は気持ちが揺れる。それに俺だって、今のユウは正直不愉快だ。どうしてはっきり青葉に言わないんだよ 」

 雄太さんの顔がまた変わった。怒りじゃなくて、ふいを突かれて困ったみたいな顔つきになって恭平さんを見つめている。

「 何言ってんだよ… ちゃんとお前には説明しただろ、美奈子と俺は… 」

「 進藤家の家督を継ぐための生贄?でもユウの本心は違う。ユウは彼女を憐れんでいるんじゃない。愛してるんだよ 」

私はようやく立ち上がった。二人の様子が変だ。いつもの口喧嘩ならそのうち仲直りしそうな夫婦っぽいあうんの空気があるのに今日は気持ち悪いくらいよそよそしい。さっきまでは普通だったのに、私がきっかけでおかしなスイッチが入ったとしか思えない。

 雄太さんは立ち上がると恭平さんの頬に手を当てた。

「 俺が愛しているのは、お前だ 」

「 無理しないで。いつかこんな時が来るんじゃないかって思ってたから… 」

 雄太さんは何も言わずに、愛おし気に頬に滑らせた指を動かす。嫌だ、そんな目をしないで。いつもみたいに抱きしめてキスすればいいのに。胸の中で燻っていた不安が大きく広がっていく。でも何も言う事が出来ない。私では、今の二人の間に入れない…

「 お前は、結局どうしてほしいんだ?」

雄太さんの声は冷静だけど悲し気に響く。

「 自分の運命に、正直に生きて 」

「 別れたいんだな 」

 恭平さんは黙っている。私は凍り付いた。そんな、さっきまで仲良くしてたのにどうしてこうなっちゃうの?

 雄太さんは着ていたシャツを脱いで恭平さんの肩にかけた。トワレの香りと煙草のいがらっぽさが混じって私たちの間に漂うと、静かに足元で消えていく。

「 俺はお前の足には、すがれない 」

「 俺の質問には、答えないの ?」

 部屋を出ていく雄太さんの背に恭平さんの言葉が刺ささる。

「 美奈子は俺と進藤家の諍いの被害者だ。守る必要がある。それはお前にも話したよな?」

「 カッコつけてんじゃねえよ。ゲイでもないくせに、俺に10年義理を立てたならそれで充分だ 」

「 やめて!そんな言い方ひどすぎます!雄太さんは恭平さんを本当に愛してるんですよ!」 

 たまらず私は叫んだ。このままだと二人は元に戻れない。黒髪の美女の白い顔が浮かぶ。あの人のところに行っちゃうなんて、そんな…

 私は雄太さんの背にしがみつこうとした。その手を、恭平さんが掴む。

「 青葉、いいんだ。ユウを行かせてやって 」

「 そんなのダメ!お願い、行かないで下さい!恭平さん、どうして変な事ばかり言うの… 」

 祈る気持ちで恭平さんを見た。手首を押さえる手は大きいけど、ぞっとするほどひんやりしている。

「 俺がいなくても、恭平ならいくらでも次の相手は見つかる 」

「 男は、もういい。俺には青葉がいる 」

 え、何、どういうこと?混乱して訳がわからない私に、恭平さんは信じられない言葉を突きつけた。


「 俺は、青葉と結婚する 」


私は、反射的に腕を引っ込めようとした。でも、恭平さんの手が捉えて動くことは出来ない。


「 今、なんて… 」


やっと口に出た言葉を遮るように、雄太さんはドアを開け外へ出て行った。


 冷たい夜風が一陣部屋を走ると、雄太さんの匂いが舞って恭平さんの髪を揺らす。恭平さんの横顔は甘くて凛々しい。こんな残酷なシーンに似つかわしくないほど、美しすぎる。


 いつの間にか触れ合った肌の間にふわりと忍び足な熱が帯びた。



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