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59キスとお泊り~青葉の気持ちに気づかない雄太のはがゆさ~

 私の誕生パーティーは夜の8時くらいに終わった。結局進藤チーフはしれっとして私の話を聞いてたまに突っ込んだり相槌を打ったり、口論なんてなかったみたいに大人の対応に終始していた。とにかく、テーブルの上には見たことない美味しそうな料理がこれも高そうなお皿に盛られて並んで、食べる前に写真をバチバチ何枚も撮って、食べては美味しさに感動してテンションアゲアゲ。途中からチーフとの喧嘩なんて忘れてしまった。締めのケーキなんて、一人でワンホールの半分を平らげてもう最高。


「 お皿は俺が洗うからいいよ 」


キッチンにお皿やグラスを下げると、黒い前掛けをつけた如月チーフが皿を手際よく洗い始めた。


「 こんなにご馳走になって片付けくらいはやらないと 」

「 ユウの食器は高いんだよ。この大皿は1枚12万だって言ってたかな 」

「 …… 触りません。絶対触りません 」

 


  私はキッチンと広いリビングを見渡した。お掃除フェチだけあって、収納も完璧で壁も床もピカピカ。家具は最小限で、色もデザインもシンプルかつ上品。インテリア雑誌の表紙にしても問題なしだ。


 口の利き方はガサツなのに、意外だなあ…


「 あの、進藤チーフはご実家に帰らないんですか 」

「 実家にはもうずっと帰ってないと思う。俺たちお互いそういう話はしないから、よくわからないけどね 」


進藤チーフはベランダで煙草を吸っている。今日のお礼を言わなきゃいけないけど、話しかけづらい。もう帰らなきゃいけない時間なのに、どのタイミングで切り出そうかな…


「 帰りはユウに送ってもらったらいいよ。花は明日花瓶に挿して俺が届けてあげる 」

「 でも、さっき私が大声で怒鳴ったからきっとまだ怒ってます」

「 じゃあ、行って話しかけてごらん 」


 それから如月チーフは洗った大皿を丁寧に広げた布巾の上に広げ始めた。私はキッチンからリビングを抜けてベランダにいる進藤チーフの背中にゆっくり近づいた。開いている窓の横に飾り棚があって写真立てが3つ並んでいる。2つは如月チーフとのツーショット。あと1つは、小さい男の子がきれいな女の人に抱かれている写真。これは… 子どもの頃のチーフとお母さん?目元がよく似ているけど… 


「 俺の母さんだよ。4歳の誕生日の日に一緒に撮った 」


 振り返ると、背中を向けたままのチーフが暗い空を見つめている。写真の中の幼いチーフは両腕をお母さんの首に絡ませて笑っている。


「 大きな声を出してごめんなさい 」

「 別に、いいよ。職場じゃ俺の怒鳴り声ばかり聞かせてるから丁度いい 」

「 帰りは、送ってくれますか 」

「行きと同じくらいのスピードを出すけど、文句言うなよ 」


 私はホッとして頷いた。チーフは実家に帰っていないと言っていたけど、あれこれ聞くのはやめておこう。二人とも自分の家族の事は全然話さない。むしろ、二人が家族同然で繋がっている。きっとその方が幸せなんだ。


 私は、中途半端に二人に寄りかかっているけど、実際どんな風に思われているんだろう。キスをして抱きしめてくれるのはとてもうれしいけど… ちょっと微妙で、複雑だな。


「 せっかくだから、ユウは今晩青葉の部屋に泊まれば?俺は片付けが済んだら勝手に帰るから気にしないで 」


 如月チーフの声に私はびっくりして手に取った服を落とした。進藤チーフはまだ一度も私の家に泊まったことはない。そんなにきれいにしてないからまたお掃除タイムが始まって怒られちゃう。


「 今日は部屋の掃除をしてないんです。だから… 」


如月チーフが手をタオルで拭きながら入ってきた。進藤チーフもベランダから戻って、いきなり二人でハグして… かなりディープなキス。私はすぐにキッチンへ避難する。何度か見てるけど、あまりに強烈で目のやり場に困る。本当に愛し合っているよね。いいなあ…


「 面倒くさいから、シャワーはここで浴びていく。ちょっと時間をくれ 」


 進藤チーフはそう言うとキッチンを抜けてバスルームへ入っていった。


 ということは… 今晩、お泊り決定?


 「 心配しなくても、もう怒ってないよ。二人でゆっくりベッドでお喋りしたらいい 」


 私は真っ赤になって如月チーフを見た。何か企んでいるみたいな、意味深な笑顔が気になるなあ。


「 如月チーフは、進藤チーフがお泊りしても平気なんですか?」

「 青葉なら大丈夫。俺だって何回も一緒に寝ているじゃない。もう乳首は見飽きた? たまには他のところも見せようか?」


 あ、それって、いいかも… 

 あれこれ想像して思わずゴクッと唾を飲み込んじゃう。そういえば、進藤チーフが倶楽部のイルミネーションを見せてくれた時私に囁いた言葉を急に思い出した。


 俺は恭平と違ってストレートだから、ちょこっとくらいは勃つかもしれないけど…


 イヤイヤイヤイヤ、まだそんなの見たことないし、見たくない!

あーあ、19のバースデーの夜は、アラサー上司とベッドでクロストークかあ。でも、ひとりよりはいいかな。如月チーフだったらもっと良かったけど、進藤チーフも1対1ならまあまあ優しいからいいか…


 如月チーフはキッチンで食器を拭いている。そっと後ろから近づいて腰に手を回したら振り返ってハグしてくれた。いい匂い。病みつきになりそうな煙草とトワレのミックスブレンド… その辺のおっさんのヤニ臭さとは次元が違う。


「 19歳かあ。若いね。年頃の彼氏がいたらきっと楽しいよ。俺たちみたいなおじさんと一緒にさせて気の毒だね」

「 いいえ、ちっとも。彼氏なんていりません。それにおじさんなんて 」


 如月チーフのキスが唇を塞ぐ。舌が… 小さな胸を思わず摺り寄せて喘ぐと、チーフの唇が首筋を滑る。あっ、ダメ耳は感じやすいの…


「 ちょっと大人になったからキスもバージョンアップしないとね… 」

「 はああっつ… やめて下さい… んんっ… 」


 耳にかかる熱い息と冷えた下のリズム。大人のキスって、素敵…… もっとエスカレートしたらどうなるのかしら…


「 おい、いつまでイチャイチャ舐め合いしてるんだ!早く出るぞ!」


 進藤チーフの大声。いつのまにか支度して後ろに立ってる。うん、もお、せっかくのアダルトモードだったのに。ふくれっ面で私はボレロを羽織る。大きなバックパックを私に渡すとチーフは黒いライダーブーツを履いた。


「 それ、お前がしょってくれ。中はみるなよ」

「 見ませんよ。どうせチーフの着替えと煙草が入ってるだけしょ 」


 返事もせずにチーフは先に外へ出た。玄関を出る前に私は如月チーフにもう一度抱きついた。


「 ディナーありがとうございました。最高の夜でした」

「 どういたしまして。夜はこれからだよ 」


 不思議な気持ちだけど、私は確かにこの人達に愛されている。この奇妙な温もりがどこから来るのかわからないけど、ちょうどいい揺り椅子に心地よく揺られている安らぎを感じる。愛し合っている2人の間にちょこんと挟まっている私。しばらくはこのまま揺られていたい。


 バイクのエンジン音が聞こえる。行かなきゃまた怒られちゃう。エレベーターのボタンを押すとすぐに扉が開いた。正面についている大きな鏡に映る19の私は、たくさんのキスと愛撫を浴びて今にも燃え上がりそうに頬を赤く染めていた。





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