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⑥孤独という名の試練

おじいちゃんは、帯広の病院に救急搬送され、集中治療室へ運ばれた。


私は、卒業証書も花束も受け取らないまま病院へ直行し、待合室でずっと医師から経過観察、看護師から入院の説明を受けた。おじいちゃんは、心筋梗塞と診断され、手術の必要があるか今から決めると言われた。最悪の状態からは脱出したが、当分ICUで様子を見るので連絡がいつでも取れるようにしておいてほしいと念押しされた。


「ご両親はいないんですか」


「二人とも他界しました」


「おじさんおばさんはいないの?」


「父は一人っ子で、母は道外から来ていたので親戚のことはわかりません」


「じゃあ従妹もいないねえ」


沢山の書類に署名しながら私はいろいろ質問された。改めておじいちゃんがいないと自分は天涯孤独になると痛感する。応対している事務の若い男は、私に身内がいないとわかると心なしか態度が横柄になっていった。


「あの、祖父は牧場を持っているので、私が戻って馬に餌をあげないといけないんです。だからずっと帯広にいるのは無理なんです」


「誰か代わりに手伝ってくれる人はいないの?」


「いません」


「身内の命が大変なのに、1日2日くらい人に頼んでもいいんじゃない。こっちも何かと身内の人に了解を取らなきゃいけないから困るよ」


若い男は書類をバサバサと重ねて行ってしまった。どうしていいかわからず私はうなだれる。もう3時を回った。何も食べていないけど、疲れすぎて空腹も感じない。スマホには同級生たちからのお別れメッセージがひっきりなしに届くけど、見る気も起きなかった。どうせ家族や恋人、友達とお祝いが待っている人たちのハイテンションに今の私は入っていけない。いつもは手放せなかったスマホすら、煩わしくて放り捨てたくなる。


今朝はあんなに幸せだったのに…


窓の外を見ると早くも日差しが薄まり寂しげな色に雲が染まっている。そうだ、馬たちに飼葉をやらないと。私がしっかりしないと、おじいちゃんを心配させてしまう。牧場は私が動かすからおじいちゃんは治療に専念してねって、笑って言わないと…。私はかばんを抱えて立ち上がった。大丈夫だ、きっと何とかなる。父さん、お願い見守っていてね。心の中でつぶやくと、重い体を引きずりながらエレベーターホールへ向かった。






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