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52 純情の行く末~全てが明らかになった今、3人は…~

 如月チーフが出て行ってもう20分過ぎた。5分前に車が出ていく音がしてその後は物音ひとつしない。外へ出るなと言われたけど、このままだと何がどうなってるのかわからない。私はそっと玄関のドアに耳をつけ様子をうかがった。人の気配はない。


 どうしよう。怖いけど出て行ってみようか…


慎重にロックを外して、音を立てないようドアを開いた。外は暗い。階段へ通じる廊下から駐車場を見た。3方向からついている街灯が駐車場全体を照らしているから全部見渡せる。すぐに階段下に止まっている黒いバイクに気づいた。進藤チーフのバイクだ。私は緊張して立ち止まった。どうしてこんな時間にここにいるんだろう。そうだ、如月チーフはどこ?手すりから身を乗り出して周りを見たら、バイクから少し離れた場所に2つの影が見えた。


影の先に、抱き合って何度もキスを繰り返す長身の男の人がいる。


それが誰かすぐにわかったけど、受け入れるまで私の思考回路は停止した。暗がりの中で交錯する光の筋で見え隠れする横顔は、切なくて悲し気なのにぞっとするほど色っぽい。腰と首に手を回してハグする仕草からどれだけ深く愛し合っているか初めて見る私でも痛いほど伝わってくる。これがドラマのワンシーンとか1枚の写真だったら、きっと私は感動して見とれていただろう。


 でもこれは現実で、ひとりは私の上司。一人は初恋の人。


 これで何もかもがわかった。如月チーフが怪我をしてまで私をかばったことも、彼女は作らないと言ったことも、ただの同僚だなんてシラをを切ったことも、全部進藤チーフと恋人同士だったからだ。


 出来れば、知りたくなかった。知らないまま告白して振られて、死んでしまえばまだ幸せだったのに。女性を愛せない人を好きになって、しかも恋人が同じ職場の上司だなんて残酷すぎる。これから毎日同じ職場で顔を合せるなんて私には無理だ。


 気が付いたら如月チーフと進藤チーフの2人とも私を見ている。嫌。もうこれ以上傷つきたくない。ここには、いたくない。


私は逃げるように自分の部屋へ戻りドアを閉めた。






「 部屋にまだ包丁がある 」


恭平が思い出したようにつぶやくと、地面に落ちたナイフを拾い雄太に渡した。


「 包丁?」


「 彼女死のうとしたんだ。俺が隠したけど、もしかしたらまた… 」


「 死ぬって… あいつはお前と… 」


 混乱する雄太の顔を恭平は見つめた。その目には落ち着きが戻っている。


「 告白されて、抱いてくれとせがまれた。彼女が裸になってたから、なんとか落ち着かせようとしたけど逆上して台所へ走っていったから… 」


「 包丁はどこにある 」


「 俺のリュックに入れた 」


「 行ってやれ。もう俺たちの事はわかっているからお前からきちんと説明してやった方がいい 」


「 ユウも一緒に来て 」


「 俺は会わない方がいいだろ 」


恭平は首を振った。


「 二人で彼女に話そう。それが彼女に対する誠意だよ 」


 雄太は目を閉じ息をつくとアパートへ向かって歩き出した。恭平はその後を追いながら青葉の部屋を見た。瞼の裏に焼き付いた剥き出しのか細い体は、女のそれではなく儚げな光を放つ小さな繭に似ている。


 幼くて、今にも壊れそうな純情。それが俺たちにとっての北岡青葉。


 運命の神に託された女の行く末がどこにあるのかもわからないまま、2人の男は途方に暮れることさえ許されずただ前に進むしか道はなかった。






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