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⑤ こんなはずでは…

体育館に整然と並んだパイプ椅子に、紺のブレザーを着た同級生が座っている。すでに卒業証書授与は始まった。1組の農業土木、2組の食品化学の呼名が終わった。次はいよいよ畜産科だ。私は姿勢を正した。おじいちゃんは後ろの保護者席で見ている。泣くつもりなんかなかったけど、なんだが泣いている他の友達を見ていると少し胸がざわめく。もっとまじめに勉強すればよかったかな。無断バイトもちょっとはやってみたかった。でも、もうすべては過去の思い出。長いようで短かった高校生活はこれで終わる。明日から社会人。まっすぐ前に進むだけだ。


 「畜産科。卒業証書を授与する者…」


始まった。呼ばれて一人ひとり立ち上がる。私の順番が近づく。握りしめたハンカチをポケットにしまおうと手を動かすと、突然担任の声が止まった。後ろから不穏なざわめきが聞こえる。思わず私は振り返った。すぐ後ろの保護者席で誰かが倒れ、周りの親が取り囲んでいる。「救急車を」と声が響き、一気にあたりは騒然となった。椅子が倒れ、スーツ姿の細い人が床に崩れ落ちた。ネクタイは、濃い黄色に黒い模様。私の全身が凍った。


「おじいちゃん!」


私はまっすぐ駆け寄っておじいちゃんにとびついた。おじいちゃんは苦し気に胸を押さえている。発作だ。私はとっさにネクタイを緩めた。


「心臓発作です!早くお医者を呼んで!」


私はおじいちゃんのカバンから発作用の薬を出して手渡すが、もうおじいちゃんは動くことができない。目を閉じて、苦し気に呻いている。


「おじいちゃん、おじいちゃん!動かないで!」


光が2階の窓から明るく降り注ぐ。激しい喧噪、バタバタと誰かが走る音。


でも私には何も聞こえない。ただ日焼けした大きい、おじいちゃんの手を握るしかできなかった。






                            続

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