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㉘優駿、砂塵を蹴る~青葉の美しい跳躍に息を吞む雄太は…~

広い馬場をゆっくり半周する間に、私はこの子と幾分か心を許して意思疎通することができた。


 まず、左の後脚を痛めていること、それを庇って反対側の脚に負担がかかっていること。歩き方を見てすぐに気づいた。股関節の動きと重心移動を使って歩きやすくしてやると、動きがスムーズになった。撫でてほめると、嬉しそうに耳が開く。


 エンピツの方をやたらと気にしている。あの男のことが怖いのだ。言うことを聴かない、指示通りに動けない、そのたびに鞭で叩いたり拍車で蹴られたり、怯えながら練習させられていたのだ。お腹に大きめの拍車痕があった。可哀そうに…… 


「 ハート、私を信じて、無理はさせないから、私のいうことを聞いて 」


話しかけるとレインハートは軽く耳を立てた。緩くしていた手綱を短く持ち直して合図を送ると、軽やかな速歩に変わる。そのまま軽く周回し、馬体に少しづつエネルギーをため込む。バーは全部で9台。全部は飛べない。この子に負担をかけるくらいなら、不採用で北海道に帰った方がましだ。アルバイトを掛け持ちしたら、何とか生きていけるだろう。


一旦馬を止め、正面に向かい右手を斜め水平に下ろして一礼する。スタートの合図だ。蹄跡を半周して一番低い障害を目指す。滑らかな動きのまま、後ろ脚に貯めたエネルギーを前脚に伝えて…


レインハートはひらりと美しい姿勢でジャンプして、右前方の障害へ手前を変える。遠くから拍手と歓声が起こった。よし、いける。


第2、第3、 第4の障害をクリアした。残っている5つのうち一番高い障害を目指す。今のテンポと体の動きなら飛べるだろう。一旦蹄跡沿いに離れて、目指すバーの方へ馬体を向ける。レインハートは私の指示をすぐ理解して、勢いよく後ろ脚を蹴りこんで前進する。本当にいい子だ。


最後の障害が近づいてきた。私は前傾姿勢で合図を送ると、馬の耳越しに前を見据えた。


「 飛べ、ハート ! 」


残りの力を出し切って、ハートの体が大きく宙に浮いた。減点よりも、着地でハートの足を痛めないことが最優先だった。前脚を深く踏み込んで砂地につけると、後脚は柔らかく地面を蹴って、優雅な駆歩を繰り出す。振り返って後ろを見ると、バーは定位置から動いていなかった。全障害をクリアして戻ると、見ていたほとんどすべての人が拍手で出迎える。


エンピツは腕を組んで、じっと宙を睨んでいる。鞍から降りてハートを労う私の胸には、喜びの代わりに怒りの感情が渦巻いていた。



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