㉖別世界へようこそ~日本一の乗馬倶楽部はとんでもない所。負けるな、青葉!~
白い大きな柱が2本、その間に大きなガラスの自動ドア。その向こうに見えるには、グレーのカーペットが広がるバカでかいホール。帯広で一番大きい市民会館もメじゃないないゴージャスさ。そもそも比べる事自体が多分、失礼。
「ここが正面入り口です。ここを抜けてスタッフ専用スペースに入ります 」
歩き出す川野さんの後を、慌てて付いていく。音もなく開いたドアの奥は右が受付で左がソファとかテーブルが並ぶ待合室っぽい場所。お金持ちそうなおじさんおばさんが、上品にカップのお茶を飲んでいる。待合室の奥にはもっと大きない窓があって、見下ろすように大小いくつもの馬場が広がっている。あまりの環境の違いと雰囲気のグレードに驚いて、私は1分に1回しか息をしていない位緊張している。
ここが、私の就職先になるかもしれない。リモート面接で私を睨むように見ていたおばさん会長の顔が脳内にフラッシュバックする。
いや、無理でしょ、マジ無理、こんなお城で働けない。帰ろう、北海道へ帰ろう。
下を向いてせかせか歩きながら、私はすでに自信喪失して終了モードに入っていた。バカだ、こんなディズニーランドと高級ホテルが合体したような場所で私が仕事できるわけがない。そうだ、ジャンプ台の前で馬を止めて「無理です、飛べません。怖いです 」と言って下りればいい、そうすれば不合格で荷物と一緒に帯広へ帰してもらえる。そうしよう。所詮、私は田舎の子ネズミだったんだ。
スタッフ用の更衣室の前で川野さんと別れた。着替えたらインターホンで1番を押すように言われて私は中に入る。キャリーケースから乗馬用具1式を出して着替える。着慣れたウエアに身を包むと、幾分冷静さを取り戻してきた。頭に浮かぶのは、オペレッタと別れた、今日の朝。あの嘶きが、まだ耳に残る。そうだ、オペレッタを連れ戻すと約束したんだ。
そして、写真の中でほほ笑む、如月恭平という人。彼は、今この敷地の中にいる。そう思うと、突然胸がドキドキしてざわめく。
どうしよう、私は、どうしたらいいの…?
インターホンを押すと、すぐに制服を着た女性のスタッフがやってきた。
「 今からすぐに最終面接を始めるそうです。第5馬場までご案内します 」
私は、黙って頷いた。きれいな茶髪に、シルバーのピアスをつけたスタッフの人について廊下を歩きだす。なんだか、体全体が不安定で、うまく歩けない。絶対、緊張してる。
父さん、おじいちゃん、怖いよ… 助けて…
ドアが開いた。馬場全体を包む、むせかえるような熱気が顔をなでる。
灰色のダートが延々と続く広大な馬場。大きな照明塔に照らされた敷地を走る、何頭ものサラブレッド。揃いの制服をきたライダーが、ギャロップに近い駆歩で私の前を横切っていく。
これが、帝国乗馬倶楽部と私の出会いだった。




