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㉔さよなら、私の故郷~傷心を抱えて旅立つ青葉。待ち受ける雄太の恫喝~

「 何だよ、話があるって呼び出すから昼飯食わずに来たのに、こんなつまんねえネタ、連れションしながら立ち話で済ませばいいだろ 」


不機嫌な顔で履歴書のコピーに目を通す雄太の顔を恭平は険しい顔で見ていた。履歴書の写真欄には、青葉の顔が写っている。


「 今日の6時半から5馬場の障害コースで騎乗テストがある。俺たちも採点に参加するよう言われてるんだ 」


「 こいつ、まだガキじゃねえか… 田舎臭い面して、接客はできないだろ 」


「 乗馬の腕前は格上らしい。合格したら半年の養成コースはカットしてアシスタントでスタートするそうだよ 」


「 一週間だな。持って、それくらい。1週間分の給料もらって、東京観光して、渋谷で服買って、親元に帰る。そんな奴何人も見ただろ?同じだよ 」


「 ユウ、頼むからテストの場で騒動を起こさないで。今度もめ事を起こしたら、本当に解雇されてしまうかもしれない 」


「 俺をクビにする度胸のある奴はいないよ。俺がよそのクラブに移籍したら会員の4割は引き抜ける。お前も一緒に来るか? 」


「 ふざけないで! 」

 

 語気を強める恭平の顔を見て雄太は軽く笑ったが、すぐに凄みのある目つきに変わった。


「 俺が新入りの女を嫌う理由は知ってるだろ。思い込みで行動する、失敗したら言い訳をする、追い詰められたら、泣くか喚く。本当にトップのインストラクターになりたけりゃ這ってでもついてくるはずだ。誉め言葉を求めていいのは、払いのいいお客だけ。そうだろ? 」


雄太は履歴書を丸めて地面に叩きつけた。


「 このガキだって、田舎でちょっと持ち上げられて、調子に乗ってのこのこ出てきてるんだ。思い知らせてやる。俺は絶対に容赦しないからな!」


雄太はその場を後にした。恭平は地面に落ちた履歴書を拾い、丁寧に手で伸ばした。しわまみれになった紙の片隅に、緊張した面持ちの青葉が写っている。恭平は、じっと写真を見た。なぜだろう、この子を見ても不快な気分にはならない。いつもならどんな女の顔からも化粧臭い油の匂いが立ち上るのに…


「 そんな風には、見えないけどな 」


誰に言うともなく、恭平はつぶやいた。


激しく射す日光の照り返しを受けて、濃い陽炎がゆらめくように夏の空を覆っていた。






帯広駅に着くと、バスターミナルで空港行のバス乗り場に向かう。40分も揺られたら空港について、私は故郷を離れる。白いブラウスと紺のスカートを来た私は、小さなキャリーケース一つを握って通りを走るバスを眺めていた。いつも手に持っていたスマホは、ケースの中にしまってある。


最後に友達にお別れのメッセージを送ろうかと思ったけど、気の利いたいい言葉が思いつかなくて、やめた。この先どうなるかもわからないのに、頑張ってねとか応援してるとか、テンプレートにありがちな返事をもらっても、本心からありがとうって、言える勇気もない。


今の自分が、とてつもなく臆病で小さくて、その現実を受け入れたくなくて、息をするのも苦しい。でも私には前を歩くこと以外許されない。


振り返っても、そこには何もないから。


バスが乗り場に横付けした。乗り込んで一番後ろの席に身を沈めると窓の外を見た。見慣れた町の、いつもの景色が次々と流れては消える。高速道路へ向かう郊外の道路をバスは走る。住宅地に立ち並ぶ家は屋根の勾配が急で、雪国特有の作りが今では懐かしく映る。あのひとつひとつの家に夜になったら明かりがついて、帰りを待っている誰かがいる。その明かりの温もりに癒されて、みんな次の日の朝を迎える。私も、少し前まではそうだった。


 今、私を待っている明かりは、どこにもない。世界中どこに行ってもないんだ。


バスは高速道路に入りスピードを上げた。もう街の景色は見えない。


さようなら、故郷。 さようなら、私を待っていてくれた人たち。


私は目を閉じて、生まれ育った町の空気を体にしまおうと、深く息を吸った。












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