⑰ 甘い爪痕 ~ 閲覧注意 性描写があります ~
今回は多少過激な性描写が入ります。不快に思われる方は閲覧を遠慮されて下さい。
「そこは嫌……! お願い、許して…!」
構わず雄太はベルトを外してジッパーを下げると手をゆっくり差し込んだ。中はすでに熱く潤っている。掌と指先でデリケートな部分を前後に刺激すると、瞬く間に天雅の分身は反応し,軽く弄んだだけで一段と硬度を増してくる。たまらず天雅はひきつったような悲鳴をあげた。
「 小ぶりで可愛いけど、ピンピン動いて元気いいな」
「 もうやめて…… 」
「ここはそんなこと言ってないぜ。もっと声出して感じろよ」
雄太の指の動きは静かで、繊細に欲情の弧を描く。それは快楽の扉を押し開けるだけでなく、荒んだ天雅の心を温かく包むような愛情すら感じさせる。乱暴な口調からはほど遠い優しさに戸惑いながら、天雅は全身が快感の波に吞まれていく喜びに浸っていく。
これが、本当の性愛なのか。
いままで抱かれた男たちとの乾いた砂を噛むような交わりはすべて消え失せ、慈しまれている充実感が天雅の荒んだ内面を覆い、拘束されていながら雄太の手足が自分の体を守ってくれているような錯覚を覚える。雄太が体を天雅の背中に密着させると、天雅は唇をせがむように頬を雄太の首に摺り寄せた。
雄太は天雅のこめかみに軽く唇を当てると、突然早いピッチで右手を動かし始めた。不意を突かれて心の準備が出来ないまま、天雅は一気に波の頂点まで押し上げられた。もうこれ以上耐えられない。天雅は膝から崩れ落ちそうになり前のめりに傾いた。
「ひっ……… !」
天雅の短い悲鳴が厩舎の壁に刺さり木霊する。雄太は両手足を天雅から離して、天雅の腰を支えた。絶頂の証が床に降り注ぎ、最後の一滴が落ちると同時に天雅は床にへたり込んだ。
雄太は膝をつき、天雅の服を直すとハンカチで顔についた血を拭きとった。その間、天雅は放心して宙を見ている。
「 もうスケベ親父の相手はやめろ。そんなことしなくても、お前なら本業でいくらでもいい収入がもらえる」
「…… 嘘だ、そんなの」
「嘘じゃない。朝の自主練を見ても力があるのはわかる。指導員でもライダーでも、好きな道を選んで精進しろ。そうすりゃ、人も金も後からついてくる。自信をもて」
天雅は何と答えていいのかわからず黙っていた。口を開くと、意味不明の涙が出てきそうだった。雄太の目は、穏やかに天雅を見ている。
「 痛かったろう。カッとなってすまなかった。立てるか?」
雄太が天雅の腕を触った次の瞬間、天雅は雄太の体に抱きついた。天雅は雄太の胸に顔を埋めて目を閉じた。その仕草は男に媚びを売るものではなく、父親に叱られた子供が甘えて許しを請うような幼さが見えた。
雄太は手を天雅の背に回しかけ、止めた。代わりに天雅の顔を持ち上げ両手で頬を包む。怯えた目をした天雅を笑顔で見つめると、雄太はそっと体を離して厩舎を出て行った。
天雅は、地面に座ったまま窓から差し込む初夏の日差しを見ていた。
体は緩い倦怠感に包まれているが温かい。貯まった毒が抜けて、むしろ気持ちは軽く感じられる。あの男は一体なんだ。ひどい言葉で俺を罵ったくせに、溶けるような甘い愛撫で体をもてあそぶ。心なんか許すものか、でも、でも。どうして抱きついてしまったのだろう。時間が止まればあのままずっと胸の中に抱かれていたかもしれない。そうすれば、今までの辛いこともあの男の体温で溶けてなくなっただろう。今は、そう思わずにはいられない。どうせ気まぐれで優しくしてくれただけなのに、そう思わずには、いられない。
ショパンのピアノ曲が流れてきた。午後の騎乗が始まる合図だ。もうすぐここにも人々が流れ込んでくる。天雅は立ち上がり体についた砂を払った。厩舎を出ようとして足元をふと見ると、茶色の砂地に天雅の残した白濁の溜りが浮かんでいる。傍らの飼葉をかぶせて隠すと、天雅は思わず軽い笑みを浮かべた。
ピアノ曲の調べに乗せて遠くから誰かの笑い声が聞こえる。天雅は厩舎の通路へ出ると、引き締まった身のこなしで日の眩い方へ向かい歩いていった。