⑮ 雄太と天雅の対立~小悪魔美少年、ドS上司雄太に喧嘩を売ったらヤバい事に~
平日とはいえ天候もよく気温も安定した今日は朝から会員が多く詰めかけ、帝国乗馬倶楽部の馬たちもいつもより多めの鞍数をこなしていた。やっとおとずれた昼休みの間馬たちはそれぞれ飼い葉を食みながらのんびりくつろいでいる。
雄太は厩舎を回って午後から走る馬の様子を確認していた。12時から2時半までは馬休時間で、その間会員たちはクラブハウスで昼食を食べながらとりとめもない話に花を咲かせ、指導員もこの時間に休息を取る。早出と遅出のスタッフが入れ替わるのもこの時間で、厩舎は人気なく飼い葉と馬の匂いだけが色濃く漂っていた。
左右を確認しながら歩いていた雄太は、厩舎の通路半ばでふと足を止めた。わずかだが人の気配がする。息を押し殺し囁くような、そこだけ空気の波動が微妙に揺れて乱れる感覚が伝わってくる。右の角に空いている厩舎があったはずと雄太の頭がそちらを向いたとたん、聞き覚えのあるしのび笑いが聞こえた。
足音をたてないよう、雄太は厩舎に近づいた。馬のいない厩舎の柵越しに中を覗くと、30半ばの男性が天雅の体にむしゃぶりついている。天雅がポロシャツをまくりあげると、男は喘ぎながら乳首に舌を這わせて天雅のキュロットの上から尻や太ももを撫でまわす。天雅はされるがままに身をまかせ、顔には淫靡な笑顔を浮かべていた。雄太はスッと柵の横に体をずらして自分の姿が彼らの視界に入らないことを確認して息を吸い込んだ。
「お客様、クラブハウスに昼食の準備ができております。お戻りください」
天雅の顔つきが変わり、男は驚いて体を離すと、外しかけたズボンのベルトを慌てて締め厩舎の外へ飛び出し雄太の横をすり抜けて走っていった。大人しそうで品のいい横顔を見て、確か都心の大病院の跡取り息子だと雄太は思い出した。
雄太は厩舎の中に入り、佇む天雅を黙って見つめた。天雅は臆することもなく、ゆっくりはだけたポロシャツを元に戻すと挑発的な目で雄太を睨み返した。目元には興奮の余韻が強く残っている。
「残念。もう少しで120万の鞍を買ってもらえるところだったのに」
「ここはまっとうな乗馬クラブだ。お客相手に枕営業やるなら外でやれ」
「 チーフだって、好きにやってるじゃないですか。営業時間外ならいいんですか?」
「…… 何が言いたい」
「如月チーフのこと、知ってますよ。羨ましいな、あんな綺麗な人を独占できるなんて」
雄太は返事をせず、厩舎を出ようとした。その背中に、天雅は苛立ちと腹いせをぶつけたくなった。
「 新入りの女をすぐに追い出すのは、如月チーフに虫がつかないようにするためでしょ。案外、器小さいですよね」
雄太は足を止め、振り返った。目の奥に、冷めた白い怒りの炎がゆっくり立ち上っていく。
天雅は切れ長の大きな目を見開いて、雄太の体から放たれる凄みを全身で受け止めた。