サイン本は、不幸な未亡人の過去を浄化し、その娘に新しいお父さんを贈ります。
「私は、幸せになってはいけない」
「でも、この子に罪はない、、、」
3歳になった娘の寝顔を見ながらつぶやきます。
私、ローランは、王太子様と王太子妃様に、たいへん申し訳ないことをしてしまい、この子の父親とともに王都を追放されました。
追放の途中で、この子の父親が亡くなり、この街の教会に拾われ、この子を産みました。
1.未亡人 ━━
「女手一つで娘を育てるのは、想像以上に大変ですね」
昼は、教会で子供たちに読み書きを教え、夜は、刺繍で生計を立てています。
楽な生活ではありませんが、教会のおかげで、なんとか食べていけてます。
王都の学園での勉強が役立つとは、若い頃は思っていませんでした。
自慢だった金髪も、すっかりボサボサです。
「また朝が来たのね」
教会で子供達に勉強を教えている時は、全てを忘れられます。
黒の祭服で銀髪のおじいさん神父様も優しいですし、見回りのゴリラ風の騎士様も優しいです。
小さいけれど、幸せを感じます。
でも「私は幸せになってはいけない」不貞を働いた罪人です。
2.乱暴者 ━━
最近、この街では、乱暴者たちに怯えています。
彼らの裏には、男爵家の嫡男夫婦がいます。
あの夫婦は、子供ができないため、お互いに愛人をつくり、ワガママ放題です。
街で、見た目の良い男女を見つけると、非道な手を使って、愛人にしています。
噂をすれば、教会に、街の乱暴者たちが来ました。
「美人さん、男爵の愛人にならねぇか? いい生活ができるぜ」
私が狙いですか!
「断ります」
「その子供達が痛い思いをするぜ」
「俺たちに勝てると思っているのか」
これはマズイ状況です。
「負けると分かっていても、私は二度と逃げません!」
私は、もう、弱い自分には、、、
「何をしている!」
騎士様の声です。
「ゴリラだ! 逃げるぞ」
乱暴者たちが逃げて行きます。
「「先生」」
子供達が駆け寄って来ました。
「大丈夫、騎士様が助けてくれました」
私は足が震えています。
「逃げられた」
騎士様が戻ってきました。
「これからは、巡回を増やします」
「ありがとうございます」
不覚にも泣いてしまいました。
子供達や騎士様が私を心配してくれます。
3.騎士様 ━━
「お母さん、これ、おじいちゃん神父様から、絵本もらった」
「そう、良かったわね」
「中に落書きがあるの」
「それはサインっていうのよ」
「どんなお話?」
「女の子が、神様から新しいお父さんをもらうの」
娘が、キラキラと目を輝かせます。
「え・・・」
◇
また、朝です。
騎士様が、真剣な顔で、教会を訪ねていらっしゃいました。
「私は、この街の男爵家の次男です。結婚をあきらめ、騎士を仕事としました」
「しかし、両親から、兄を廃嫡するから、男爵家に戻ってきて欲しいと言われています」
「ローラン嬢、どうか、私の妻になって、一緒に来て頂きたい」
突然で、考えがまとまりません。
「少し、考えさせて下さい」
娘に、それとなく聞きます。
「あの騎士のおじちゃんは好き?」
「うん、ゴリラおじちゃん、大好き! お母さんは?」
「うん好きよ」
おじいさん神父様に悩みを聞いて頂きます。
「私は、不貞を働いた罪人です」
「知っています。貴女が騙されていたことも。そして、毎日のように懺悔していることも」
「もう、貴女の罪は清められました」
神父様は、私の過去を全て知っているようです。
「私は、騎士様が好きです」
「でも、平民に落ちた私は、保証人がいませんので、貴族様の妻にはなれません」
「親子で、別の街へ移ろうかと悩んでいます」
思いのたけを吐き出します。
「保証人は、すでにいますよ」
「貴女を教会に受け入れる時、王太子妃様が、貴女の保証人になっていますよ」
「王太子妃様が? 王太子妃様は聖女という立場から、私を許したのでしょうか?」
「あの方は、私たちが仕える本物の聖女様です」
「しかし、保証人の件は、聖女とは関係なく、ただの脳天気でしょう」
「娘さんに渡した絵本に、サインはありましたか?」
「あれは、神のサインですよ」
日が傾いた午後、騎士様に会いました。
「騎士様、どうか、私の過去を聞いて下さい、、、」
日が沈みます。
「ローラン嬢、ゆっくりと、幸せになりましょう」
4.神様 ━━
空が、透き通るような青さです。
今日は、私の全てを受け入れてくれた騎士様との結婚式です。
二人だけで? いえ、娘もいます。
そして、男爵家のご両親も来てくれました。
おじいさん神父様の前で、生涯の伴侶となることを誓います。
式が終わった時、男爵家の執事さんが、かけこんできました。
「旦那様、嫡男様ご夫婦が亡くなりました!」
また、波乱ですか?
でも、娘が抱いて離さないサイン入りの絵本が、笑っているようです。
私の人生は、いつも神様が見ていると、そう思えます。
今度こそ、神様に見られても恥ずかしくない人生を歩みます。
「神に、皆さんの願いが届きました」
神父様が神に感謝しています。
━━ FIN ━━
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ありがとうございました、読者様のご多幸を祈願いたします。
この短編は独立していますが、本編「聖女は謙虚に成り上がる!婚約破棄の原因は、私が平民だから?あんたの浮気が原因でしょ?」https://ncode.syosetu.com/n8552id/ と一緒に読まれますと、さらに面白いと思います。