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元奴隷の少女と怪物男の血にまみれた日々  作者: 桐城シロウ
第一章 それは歪んだ執着から始まって
3/44

2.どうせ彼女も死んでゆくというのに

暴力的なシーンがあります、ご注意下さい。

 







 殺しても殺しても、切りが無い。いくらでも湧いて出てくる。



(ハエか蛆虫のように湧いて出てくるな、こいつらは)



 よく冷えるのに黒いタンクトップとデニムを着たエリオットが息を吐き出し、名も知らぬ男の口から指を引き抜く。黄ばんだ歯が指に突き刺さっていた。それを引き抜いて、壁際でがたがたと震えている少女を見つめる。ソフィーとだけ名乗った彼女は茶髪にエメラルドグリーンの瞳を持っていて、随分と世の中を知ったような口を聞く。



(何故俺を信用するんだ、お前は)



 そのエメラルドグリーンの瞳にほっと安堵を滲ませ、俺に笑いかける。ああ、その瞬間を今までどれほど待ち望んできたことか。命がけで守って、「ありがとう」と。そう言って貰うことをどれほど待ち望んできたことか────……。



「ありがとう! エリオットさん。凄いのね、見惚れちゃった! 動きがしゅばしゅばってしてて、」

「アホか、お前は。がたがたと震えてたくせに」



 ベージュ色のマントを被った少女は肩を竦め、にやりと笑った。そんな顔をしていると幼く見える。



「そりゃあね? 奇声を発して襲ってくる男は怖いもの。でも貴方は違う、貴方だけは別。私のことを守ってくれる頼もしい人だもの」

「待て、血で汚れてるから……」

「構わないわ。何も気にならないから」



 ソフィーが血塗れの手を持ち上げ、愛おしそうにそれを見つめる。思わず呻きたくなった。どうしてこうも、俺の欲しい言葉ばかりをくれるのか。その言葉に酔ってしまいそうだった。



「行く、行くか。ソフィー……お前の服と色々……身の回りの品を揃えなくちゃな」

「大丈夫? 私は別に、前の女の子が使っていたものでいいけど?」

「そういう訳にはいかない。それに」



 思い出すのだ、見る度に。



(信頼関係を築けていると、そう思っていたのは俺だけだった……)



 狂ったように「ごめんなさい、ごめんなさい! エリオットさん、ごめんなさい!!」と叫んで、そのまま首を落とされて殺されてゆく少女。今まで命がけで守っていたのに、結局俺のことを信用しなかった。無残に殺されていった。



(誰も彼もがそうだ。きっとお前もそうだ、ソフィー)



 騙されたくない、傷付きたくない。空き缶やらフォークが積み重なったゴミの上を歩き、少女と手を繋ぐ。もうもうとどこかで白い煙が上がり、遠くの方で銃声が響いた。甘ったるい匂いが漂う。洗剤と汚物が混じったような甘い匂い。



「……お前も使っていて気持ち悪いだろう。だからだ。全部買い替えよう、全部」

「そうね、貴方も思い出しちゃうから……でも大丈夫。私は違う。私だけは違うからね?」

「信用出来ない……悪い、今のは。言うべき言葉じゃなかったな……」



 思わず口から突いて出た。信用して欲しいと思っているくせに、俺が一番彼女のことを信用していない。本末転倒だ。それなのに横を歩く彼女は笑って、俺の手をぎゅっと握り締めた。



「大丈夫。それだけ傷付いてきたんでしょう? 貴方は。そうなるのも当然だわ、何も悪くない。貴方は何も悪くない……」

「もうそろそろだな。()()()



 まだその言葉を味わっていたかったのに、噛み砕いて俺だけのものにしたかったのに。怪しい影がちらほらと見えて、銃の引き金に指をかける音が聞こえた。息を吸い込んで止めて、切り替える。咄嗟にソフィーの手を掴み、体を持ち上げた。逃げるが勝ちだ、こういうのは。



「喋るなよ、舌を噛む」

「んっ! 分かった!」



 素早くソフィーが俺に抱き付き、その温度にくちびるの端を持ち上げる。ああ、そうだ。お前が俺を信じてくれるのならば、どんなに手強い敵だって蹴散らすことが出来る。



「えー、えー、えー。エリオットさんだっけな? あんたが例の怪物か」



 銃を片手にぎょろりと黒い瞳を動かし、ゆったりとそのくちびるを歪ませた。ぼさぼさの黒髪に黒いローブを羽織った男が銃口を向けてきたので、咄嗟に腹を蹴り飛ばして進む。ゴミが積み重なった上を走っていると、後ろから銃声が聞こえてきて背中に当たる。一瞬、燃えるような痛みが背中を襲った。しかし、それもソフィーを抱え直すとすぐに消えてゆく。



(いつ言う? 彼女に。いや、言わなくていいか、ずっと)



 イライザの店まであと何分だろう。しかし、流石にこの人数を連れて行ったら俺が殺されるな。



「ソフィー、お前を降ろす。悪いが囮になってくれ」

「んっ! ぐっ!」



 低い呻き声を上げて返事をする。頭の回転が速い少女だ。鈍く響き渡る銃声が聞こえた後、倒壊した家の上に飛び乗って彼女を降ろす。ばっと背後を振り返って、腰からナイフを引き抜くと一斉に襲いかかってきた。



 まるで獣のように襲いかかってきた男達の顔を掴み、滅茶苦茶にナイフを振り回して咆哮を上げる。後ろになど構っていられなかった。赤い血が飛び散る、視界の端の方で何かが光っている。こちらを食い入るように見つめてくる男の首を掴んでばきっとへし折って、こちらの腕に歯を立ててくる男を振り払って地面に叩き落とし、急所はどこかと探し回る。



 白目を剝いている男の顔を見つめ、とりあえず口の中にナイフを突っ込んで刺しておく。動きを止めねばと思って、心臓にナイフを突き立てた。まだ他にもいる筈だと考え探し回り、口からだらだらと血を流している男を見つけて、その胸を数十回刺して動かないかどうかを確認する。



(ああ、駄目だ。まだ殺しにくる! まだ俺のことを殺しにくる!)



 他にもいないかと探すと男がいた。男がすぐ傍で倒れていた。ひとまずその後頭部をナイフで突き刺しておき、背中をがっと蹴り飛ばして踏みつけてみる。動かない、命の気配がない。自分の呼吸音だけがひゅうひゅうと聞こえてくる。



「エリ、エリオットさん……? みんな死んだわ。貴方が殺した」

「本当に? 誰もいないか? 死んでいるか?」

「ええ、死んでる。私だけが生きている、そして貴方も生きている」



 ふわりと、視界の端でマントが翻る。彼女だった。ソフィーが俺に抱き付いて、その細い両肩を震わせている。辺りを警戒しながらも抱き締め返した。許して欲しい、俺の弱さと脆さを。



 あっという間に狂気に飲み込まれてしまう、この愚かさを。



「大丈夫……息を吸って吐いて、落ち着いて? 気が付いてないのかもしれないけど息が止まってる。落ち着いて、貴方も私も生きているから」

「ああ、悪い。ソフィー……なんだか夢を見ていた気分だ」



 失っていない、失われていない。温かい。ぎゅっと強く強く抱き締めて、その細い肩に顔を埋める。ソフィーが低く笑って体を揺らした。



「赤ん坊みたいね、貴方は。そんなに強いのに……まるで制御が出来ていない、諸刃の剣だわ」

「悪い、悪い。ソフィー……悪い」



 徐々に混乱した思考が落ち着いてきて、景色に鮮やかな色が戻る。冬の始めの空は青く薄く、どこまでも広がっていた。ゴミの中に家が埋もれているのを見て、何故か酷く落ち着いた。深く息を吐き出して、こちらを見上げてくるソフィーの瞳を見つめる。綺麗なエメラルドグリーンの瞳だった、南国の鳥の極彩色を連想させる。



 そんなものを見た過去もあったなと思い出しつつ、吸い寄せられるようにしてその額にそっとキスをした。温かかった、とても。



「悪い……暴走していたみたいだ。抑えようと思っていたのに。悪い……怖かっただろう」

「いいえ? ちっとも怖くないわ、エリオットさん。何度も言うけどね? 貴方は私を守ってくれるからちっとも怖くないの……」



 血塗れの手を握り、深く微笑む。まるで壁画に描かれている聖母のような微笑みで、眩しく思った。その頭を撫でてみると、少しだけ戸惑ってこちらを見上げてくる。その頬は赤く、少女らしい可憐さが滲んでいる。



「っふ、お前もお前で。そんな顔が出来るんだな……行くか、店に。また湧いて出てくる前に」

「……どんな顔してた? 私」

「物凄く可愛い顔」

「貴方、真顔でとんでもないことを言うのね……? ま、いいわ。行きましょうか、じゃあ。買いにね」














 甘い香りが漂う中で、その女性はわざとらしくふぅーっと煙草の白い煙を吐き出した。横に立ったエリオットは眉を顰めただけだったが、ソフィーはごほごほと咳き込んで口元を覆う。無言で彼が腕を伸ばし、その背を擦る。



「ソフィーの体に悪いからやめてくれないか? イライザ」

「あら、甘いこと。ま、別にいいけど。女の子は大事にしなくっちゃね」



 胸元が開いた黒いドレスを着た女が、煙草を灰皿に押し付けて火を消す。彼女は燃えるような赤髪と金色の瞳を持った美女で、泣きぼくろが色気を醸し出していた。ここはぼろぼろに剥げた白い壁紙と傷付いたフローリングが印象的な雑貨店で、カウンターの向こうに立った店主が妖艶に笑う。



「それで? ソフィーちゃんだっけ。こいつはどう? 優しい?」

「ええ、勿論。まだ会って三日と経ってないけど、優しいわ。さっきも可愛いって褒めてくれたもの。ねっ?」

「……思ったままを口にしただけだけどな」



 居心地が悪そうだったが、平然と口にする。そして意外と手が早いのか、こちらの肩を抱き寄せてきた。



(いや、これはどちらかと言うと……私に懐いたみたいな?)



 そしてこの女性が苦手なのだろう。若干目が死んでいる。さっきまでこうこうと煌いていた真っ赤な瞳が虚ろになっているのを見て、思わず笑ってしまう。



「ふふっ、エリオットさんは苦手なのね? イライザさんのことが」

「あら? そうなの? 知らなかったわ、それは」

「表情に出していないからな。……当然だろう、それも」



 イライザがぴくりと形の良い眉毛を動かして「意外と生意気じゃない、あんた」と呟いて、どこからか煙草を取り出す。ライターで火をつけようとしたところ、彼がそれを掴んで止める。ぼうっと赤い炎が彼の指を包んだが、ふっと掻き消える。



「ソフィーが咳き込むからやめろ。体に障る」

「……あんた、そんな性格だっけ? ま、いいわ。金さえ払ってくれりゃあそれで構わないわよ。イチャつこうが何をしようがね?」

「イチャつく予定は無いんですけどね……」

「こいつに生理用ナプキンと泡立てネットと下着一式。化粧水と石鹸と、ボディーソープとシャンプーを用意してやってくれ。あとタイツと靴下もだな」



 意外な単語が飛び出てきて、目を瞠ってエリオットを見上げる。彼は平然とした表情で「慣れているからな、俺は」と呟き、じっとこちらを見つめ返してきた。イライザが深い溜め息を吐いて、火がついていない煙草をくわえる。



「はいはい、分かった分かった。いつものように一式ね? これからもっともっと寒くなってくるから……インナーも揃えなきゃね。付いてきて、二階よ。ソフィーちゃん」

「あっ、でも……」

「大丈夫だ、こいつは信用できる。行ってこい、俺はここで店番をしてるから」



 くちびるの端を僅かに持ち上げて笑い、ぽんぽんと頭を撫でてくれた。その手の温度にほっとして頷き、「じゃあ待ってて。すぐに戻ってくるから」と返す。



(一体どうしてだろう……離れると考えると。こんなにもざわざわと、落ち着かない気持ちになる)



 まるでずっとずっと傍にいたかのように、離れがたい。恋しいような気持ちになって振り返ってみると、ひらひらと手を振ってくれた。私がいなくなるからか煙草に火をつけてくわえている。そんなエリオットに笑いかけ、また階段を登ってゆく。



「ソフィーちゃんだっけ? あいつのこと、もう好きなの? そんな顔してるから」

「さぁ、どうでしょう……でも、彼のことを守ってあげなきゃって気持ちになるの。あの人は本当に弱い人だから……」



 狂ったように吠えて唸って、ナイフを振り回している姿を見て確信した。彼は弱い人だ、私が守らなくては。前を歩いていたイライザが首を傾げ、ドアノブに手をかける。どうやらそこに商品が詰まっているらしい。



「そーお? あいつは怪物と呼ばれる男なのに? よく分かんないわぁ、それ」

「いいの、私だけが分かっていれば。そうじゃなきゃ嫉妬しちゃうかも」

「今どきの子はませているわね~、見たところ十五かそれぐらいなのに?」

「一応、十七歳なんですけどね……痩せているし、そんな風に見えるのかもしれないけど」



 ドアを開けて、部屋の中に入る。鎧戸の隙間から光が射し込み、舞っている埃を映し出す。薄暗い部屋の中にはダンボール箱やトイレットペーパーが山積みにされいて、足の置き場もないぐらいだった。



「ふぅん、ま。いずれ胸もお尻も出てくるわよ。ええっと、どこだったかな……生理用ナプキン。ああ、適当にシャンプーとか石鹸とか持ってって。敏感肌とかじゃない? 大丈夫?」

「大丈夫です……じゃあ、好きな香りで選ぼうかな?」



 イライザがあちこち探っている間、適当に未開封のシャンプーボトルを持ち上げて引っくり返す。檸檬とミントの香り、ハーバルグリーンの香り、イランイランとミュゲの香り。多種多様なボトルを夢中になって拾い上げ、香りと原材料を確かめてゆく。



(ひまわり油が主成分のやつ……ラベンダーとゼラニウムの香り。よし、これにしよう)



 心安らぐ香りの方がいいだろう、彼も。



(あの調子だったら、べたべたと引っ付いてくるんでしょうし?)



 他には職人が作ったという薔薇の石鹸を拾い上げ、ついでに近くにあった無香料のハンドクリームを拾っておく。お目当てのものが見つかったのか、イライザが額に汗を掻きつつやって来た。



「お待たせ、ソフィーちゃん。ナプキンとあとファンデーションも一応……必要ないか。若いものね、お肌が艶々」

「そうですか? 荒れてるような気がするんだけど……」



 見たところ四十代前半の彼女は厳しい顔で首を横に振り、「いらないわね、これは。でもまぁ、口紅ぐらいは持っておきなさいな。お守り代わりに」と言って一本の口紅を押し付けてきた。口元が緩んでしまう。



「何となく分かります……ありがとう」

「いいえ、どういたしまして。口紅塗るだけでも気分が変わるでしょう? 貴女ぐらいの年の子はね、打ちのめされてしまいがちだから。背伸びしたい時、それを使いなさい。プレゼント」

「はい……ありがとうございます、イライザさん」



 その口紅は青みがかっている花で彩られ、上質で可愛らしい雰囲気を纏っていた。誰にも奪われぬよう、ポケットの奥深くに突っ込んでおく。



「じゃ、隣の部屋に行きましょうか。あいつを悩殺できる服でも選びに行きましょ」

「これから寒くなるので露出は控えめで。だけどそうね、反応が面白そうだし見たいから。ニット素材とか……ううん、お肉も付いてないしな。胸も無いし」



 ドアを開いたイライザが振り返って、嫌そうな顔をする。どうやら私をからかいたかったらしい。見れば分かる。



「ふふっ、照れなくてつまんないですか? 私」

「そうねぇ~、からかいがいが無いわぁ~。分かっちゃった? 今の」

「分かっちゃった! まぁ、実用的な服中心でお願いします。……あと可愛い服もいくつか」



 持っておくに越したことはないから。私の照れ臭そうな言葉に微笑んで、「そうそう、それでいいのよ」と囁くように告げる。



(本心からじゃないが、まぁ。いいか……)



 ごくたまに自分の心というものがよく分からなくなる。



(人を選んで言葉使いを変えて……相手が望む行動、言葉を選び取って生きてゆく)



 今のは私の言葉か、それとも相手が望んだ言葉か。そこに嘘はあるのか、本当はあるのか。



「ああ、私も少し。狂っているのかもしれないな……」

「ん? 何? 何か言った? こっちの服にする?」

「ふふっ、いいえ? 何も。というかそれは水着なんじゃ……?」









 ぎしりと、階段が軋む音がして振り返る。どうしてだろう、ほんの僅かに離れていただけなのにソフィーが随分と大人っぽくなっている。滑らかな木肌の手摺りに手を置き、美しいエメラルドグリーンの瞳でこちらを見下ろしてきた。



(ああ、髪を梳かして。結い上げたのか……)



 先程までの薄汚れたマントを脱ぎ捨て、黒いワンピースを身に付けている。ぱさついていた茶髪は綺麗に梳かされ、後ろの方で纏められていた。それまで吸っていた煙草を灰皿に押し付け、火を消す。一刻も早く彼女の傍に行きたかった。彼女も同じ気持ちなのかとんとんと、階段を降りてやってくる。気が急いて心臓の鼓動が早くなり、カウンターから離れてそちらへと向かう。



 俺が両腕を広げると、笑って飛び込んできた。その華奢な体を抱き締めてほっと安心する。



「ただいま、エリオットさん。何も無かった?」

「ああ、何も無かった……ビールが一本売れたぞ、イライザ。金はそこにある」

「あら、どうも。助かるわ、あんたが文字を読める人間で」

「……また例の爺さんだったがな。まぁ、いい。それは別にどうでも」



 眉を顰めるイライザを無視して、彼女を見つめる。綺麗なエメラルドグリーンの瞳を瞠って、不思議そうな顔をしていた。ふっと笑みが零れ落ち、そのまま先程のように額へとキスを落とす。



「……帰るか、ソフィー。またあの汚れたマントを羽織って貰うが」

「別にいいわ、家に帰って脱いでシャワーを浴びればいいだけの話だから。沢山買っちゃったけど大丈夫? お金」

「ああ、大丈夫だ。イライザ」



 苛立たしげに煙草に火をつけたイライザを見て、笑顔らしきものを作ってみる。表情筋は固く、ろくに動きやしなかった。



「ありがとう、世話になったな。またよろしく頼む」

「……大事にしなよ、エリオット。ありがとうね、私の娘の遺体を探してくれて」



 ああ、そんなこともあったな。以前に。しかし何故、今ここでわざわざ口にしたのか。ポケットから金貨を取り出し、カウンターに置いておく。これで足りるだろう。



(ああ、そうか。ソフィーがいるから……)



 イライザを見てみると、淋しげな微笑みを浮かべていた。イライザに軽く頭を下げ、ソフィーの細い腰に手を回して店を出てゆく。ああ、ソフィーが死なないといいが。



(だがこれまでとはまるで違う……気がする)





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