⑮一人ぼっち戦線
「てらうぇ?」
六体の能面の鼻へ横一閃、生命の剣を振りかざす。先程の局面とは打って変わり、実体のあやふやな能面たちには生命の剣の裏能力では効果が見込めない。通常の能力であれば相手に実体が無かろうが切った箇所から強制的に魔力や気力、相手を形成するその何かを搾取する。すなわち、この剣に切れないものは無い。けれど、一度効果が反転した剣を戻すには持ち主の強い意志やその他諸々が必要になってくる。つまり、すなわち、簡潔に述べれば、俺にそんな力は残ってない。絶対絶命。
「けらけらけらけら」
動かない口元から良くもまぁ、感情豊かな奇声が出せるもんだ。能面の後ろ側では、糸で引っ張られた人形が何体も何体も野次馬の様にカタカタと軽い音を鳴らして踊っている。踊らされている。呼吸は浅い、深く吸えば隙となる。一瞬たりとも目が離せない、ただこの目はもう70時間以上酷使してきた。正直苦痛だ。視界は霞んでいる。体力も限界だ。マラソンの終盤だとか、終わらない修行だとか、説教だとか、そういった類の時間の経ち方が始まった。もういっそ死んでしまおうか。いや寧ろ死ぬと決まった訳では無い。しかし、諦める事の選択が必ずしも惨めなのか、それが愚かなのか。。。
「クソがよ。」
ただ結論はとっくの昔に、決まりきっている。俺はそうしない。それは俺の終わり方じゃない。俺はもっと惨めかつ愚かで居続ける。後悔を背負って、生きる意味を見失って、戦いの果てに草臥れて、死肉が貪られ無残な姿になっても、誰かを恨みながら、自分を恨みながら、世界を憎しみながら、神を侮蔑しながら、俺は死ぬまで死んだりしない。
俺は後方へ振り返り、斬りながら飛ぶ。長く、遠く、力強く先へ、
「―お前らの方が、弱そう!!」
実体に効果の有る「裏」。敵の血肉を死へ導き、傷口から生命を奪う剣。最後まで振る。敵が俺に気付く。剣を振り、斬る。薙ぎ倒す。敵が一気に飛び掛かって来る。水を得た魚の様に、奇怪な敵たちが跳ねる。形相は悍ましい。状況は忌々しい。目に映る全てが恨めしい。
「俺がッ!なにッ!したってんだよッ!!!」
消えそうなか細い残り火ほどの気力で、狂ったように闘志の藁を燃やし体を何とか動かしていく。しかし状況は刹那に一変する。血と汗と脂と、唐突に消えた握力とで剣がすっぽ抜ける。終わった、と息を漏らし。俺は自分が唯一使える3文字の魔法を唱えながら、藪から棒に地面を叩く。強い意志の力を持って、目的を掲げた意識を持って、気力と体力と血液ごと利用し身体の魔力を全て放出する超高難易度魔法。俺が叩いた地面から骸骨やゴーレムの有象無象は6メートルほど吹っ飛んでいく。しかし今の俺にそんな超技術が完璧に放てる訳もなく、不完全な魔法が不足した血液と共に垂れ流されていき、吹っ飛ばした敵たちは何食わぬ顔で立ち上がる。俺は徐に膝を地面に着いた。
「はぁ...はぁ、...ふぅ。」
かつて、絶対的な信頼があった女に裏切られ、見知らぬ土地で何も分からないまま、睡眠不足とかいう最悪の理由で敗北して、あぁ、なかなかに。これが喜劇と思えてしまうのは走馬灯を見ているからだろうか、やっと夢を見れる。この眠りは覚めることは無いけれど、圧倒的な疲労感の中で、気絶する様に眠れるこの感覚は、いつだって、悪くない。
今日の枕は少し低めで、優しい温かさで、少しばかり、豊かに反発した。
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「…固い。」
俺は心地よい眠りを妨げる、首に合わない枕高と、その感触に嫌気がさした。
―そりゃあ。
夢の中で、現実の音に合わせ、見知った顔が笑顔で話す。
「―晒を巻いてるからね。」




