横柄な俳優5
「あいつに言っといてよ。もう帰る。あんなのに占ってもらいたくないんだよなあ。もっと大御所にしてくれって」と言ったところで、東条さんが入って来てしまった。間が悪いとしか言いようがない。東条さんは淡々と、
「うちのアシスタントが何か失礼なことでも」と聞いている。
「別に、俺は子供も女も相手にはしないよ。ただ、もうちょっとちゃんとした奴に占ってもらうのなら、納得するけどねえ、あんたじゃねえ」と見下すような感じで、さすがに腹が立ち、
「言いすぎです」と怒ったら、東条さんが、
「ローズ」と止めてきて、
「だって、いくらなんでも」
「申し訳ありません。うちのアシスタントが失礼なことをしたんですね」
「俺が気に食わないのは、あんたの方だよ。お嬢ちゃんとは適当に話をしてただけ。あんたさ、こんな子供まで手を付けて、いくら女好きでも、やりすぎだろう」
「違います」と慌てて言ったけれど、東条さんが、淡々と、
「いえ、彼女は僕のアシスタントです」
「隠れ彼女じゃないの?」と鼻で笑いながら言った。
「違います」東条さんは淡々と訂正していた。あまりに淡々としていたので、佐軍さんが面白くなさそうで、
「ま、そんな子じゃ、退屈になるか」とこっちを見て笑った。
「うちのアシスタントが何か失礼なことをしたと言うのなら謝りますが、そうでないのなら、どうぞ、おかけください」
「帰るよ。やっていられるかよ」と怒っていて、
「いくらなんでもひどいじゃないですか」と言ってしまった。
「待たせる方が悪いんだろ」
「ビールを持ってきただけじゃないですか」
「はあー? ビールぐらいはあらかじめ用意しておくべきだろ。俺がわざわざ足を運んでやっているんだ。俺を誰だと思っているんだよ」と怒鳴った。うーん。
「申し訳ありません。こちらの手違いで、ご気分を害されてしまって」と、東条さんが謝っている。
「東条さん」と言ったけれど、近づいてきて、頭に手を置かれて、無理やり頭を下げさせられてしまい、
「申し訳ありません」と東条さんが言ったけれど、
「たかが占い師が」と怒鳴った。我慢できなくて、
「たかがなんて、いくらなんでもひどい」と言ったら、東条さんに、
「ローズ」と止められた。でも、我慢できなかった。
「違うわ。東条さんは、たかが占い師じゃない」
「適当に占っているだけだろ。毎回同じことを言ってるんじゃないの?」
「ちゃんと相手の立場になって占っています。相手の職業や性格も見ながら占っている。たかがじゃない。占い師としてちゃんと勉強しています」
「占い師なんて、信じられないんだよ。本来なら俺とは一緒に仕事すらできない立場なのを分かっているのか」と怒鳴られてしまい、
「どんな職業だって、ちゃんと取り組んでいる人もいます」相手が一瞬ひるんだ。
「占い師なんて、適当に言葉を並べていればいいだけだろ。俺の仕事は日本中の女たちが注目するんだぞ」
「でも、人を演ずるのだから、人間観察が基本なんじゃないですか? そこは占い師と同じでしょう?」と言ったら、さすがに黙ってしまった。
「事務所の人にも、監督さんとか、スタッフさんにも言われているんじゃないんですか? 人間観察のこと」と言いかけたら、
「すみません」東条さんが私の前に立ち遮って相手に謝っていた。
「あとで、よく叱っておきますから、すみませんでした」と相手に頭を下げていて、相手が見下したように、
「これだから世間知らずのお嬢ちゃんは。この俺に楯突くなんて、たかが占い師の分際で」捨て台詞を残して、私に少しだけ触れて、
「生意気なんだよ」と怒鳴ってから行ってしまった。マネージャーが、
「問題にするよ」と言ったけれど、
「あの?」とマネージャーを見た。
「もうしわけありません」と東条さんが言ったけれど、
「あなたは、彼の敵ですか?」と聞いた。
「え?」東条さんとマネージャーがギョッとしていた。マネージャーが、
「な、なにを、え、わけの、わからないことを」とかなり慌てた様子だ。
「彼には敵が多いので守らないといけないぐらい、たくさんあるのに、でも、あなたは彼のことを、周りの人に悪く」と言いかけたら、かなり慌てた様子で、
「た、た、ただじゃ、済まさないからな。いいか、黙っておくんだぞ。きょっ、きょっ、今日のことは、今日のことは、えっと、じゃあな」と逃げるように行ってしまった。
「どういう意味だ?」と東条さんに聞かれた。




