横柄な俳優4
「あ、いえ、私が知らなすぎるんだと思います」
「ふーん、どういう意味?」
「テレビなどをあまり見ないので」
「やだねえ、そう言う逃げ方。いまどき、テレビを観ない子なんているわけないだろうに」え、そうでもないと思うけどなあ。テレビより携帯をいじる時間が多い子もいるからだ。
「あ、いえ、そう言うわけじゃなくて、私は、時間がなかったので」
「ああ、ひょっとして、彼氏?」と聞かれて、
「いません」と答えた。あまりに即答だったので、
「は、やいね。あ、そう言えって言われているんだ? さっきの男に」
「東条さんのことですか?」
「そう、あいつ、彼氏なんだろう?」
「いえ、違います」
「ふーん。君、反応、薄いね」どういう意味だろう?
「君、地味だなあ。あの男とつり合いは取れないか」そう言う言葉は言われ慣れている。プロキオンでもテレビ局でも、何度、誤解されただろう。「本当に彼氏?」と聞いてくる人が多くて、
「違います。ただのアシスタントです」
「ふーん、言い訳、下手だね。遊ばれているんだろう?」
「え?」
「あいつ、見るからに、女好きそうな顔をしているからな」
「違います。東条さんは、そんな人では……あり」と言いかけて、あり……えるなあ。
「続きを言えよ」
「いえ、否定できない部分もあるようなないような、とにかく、返答はやはりできません」そうしたら、思いっきり笑ってくれて、
「やっぱ、女好きだ」
「あなたも同じなんじゃないですか?」と言った。
「はん?」
「君、変なことは言わないでくれよ。こっちは疲れているんだからさあ」マネージャーが止めてきた。小娘が何を言うかという尊大な態度。マネージャーもそこまで良い人ではなさそうだ。
「すみません。ただ、人気商売だから、女性相手にすることも多いので、女性に好かれないといけないのではないかと思っただけですから」二人が黙った。東条さんの受け売りだけれど、黙ってはいられなかった。
「ふーん、お嬢ちゃんに、そんなことを言われるとはねえ」と言ってから、じろじろ見ていた。
「遅いな、あいつ」自分でビールを頼んでおきながら、わがままな人だなあとあきれながらも、顔に出さないように我慢をした。
「帰ろうか?」と言い出して、
「え、でも、まだ」と言ったら、
「別に打ち合わせなんて、どうだっていいだろ。いんちきなんだからさ」
「ひどい」とさすがに言ってしまった。
「あんただって、分かってるだろ。どうせ、あの男、顔か金であんたのことも言いなりにさせているのかもしれないけどさあ。俺、ああいうタイプ、ダメなんだよ。背が高いだけで、なんだよ、あのヒョロッとした感じ。本当、女性のあしらいが上手だからって、本当につまんねえやつ」
「え?」
「あの手のタイプは、本当に」
「あの手って、東条さんの事を、前から知っているんですか?」
「別にあいつのことなんて。ただ、俺はああいういけ好かない顔の男が好きになれないだけ。チャラチャラ女と話しているのを見ているとイライラするんだよ」
「おい、章」とマネージャーが止めた。




