先生の心配事3
母が台所にやってきた。
「お客さんは?」と聞いた。
「今日は暇だったのよ」
「今月、厳しくなりそうだね」
「そうねえ。秋ちゃんも忙しくって、来れなくなっちゃったしね」秋さんは、月一回の営業日になってしまっている。本業のほうが忙しくて大変らしい。
「お客さんを増やさないと」
「ああ、そう言えば、カロンさんのコーナーをチェックしておいたわ」母がはぐらかすように言った。
「へえ、どうだった?」
「面白くない」と言ったので、ため息をついた。
「そうか」
「あら、なに?」
「実は、怜奈ちゃんと神宮寺にも同じようなことを」
「そうでしょうね。面白味にかけるものだと、飽きられるわよ」
「そうかな?」
「相手に対して親身になってない」
「え?」
「だって、そうでしょ? 明快な答えを求めている相手に対して、当たり障りのないことを言っていて、どうするのよ」
「え、でも、それが東条さんの特徴だし」
「普段と同じやり方をしても、視聴者には飽きられると言っているの。相手は迷っているのよ。そして、視聴者は、その迷いにどうこたえるかを聞きたがっている。カロンさんのは可もなく不可もなく。あれでは印象には残らないわ」
「え?」
「見た後の印象よ。カロンさん、せっかく、テレビに出ているのだから、もう少し具体的に、大げさに言ってみるのもいいかもよ」
「大げさって、それは変でしょう?」
「あくまでテレビ向きよ」
「それはおかしい。普段と違って、テレビだけ大げさに占い内容を変えるなんて」
「誰が占い内容を変えると言ったのよ。勿体付ける言い方をしなさいってこと」
「え?」
「相手が先を聞きたくなるような、そう言う間をつけるのよ」
「間?」
「そう。そうやって、視聴者や、相談者が先を聞きたくなるような言い方に変えるだけでも違うわよ」
「はあ、なるほど」
「実際に占うときも同じよ。カロンさんのは、確かに一見優しそうで、親身になっているようで、一般論ばかり。それでは、相談者はうれしいとは思わないわ」
「え?」
「あなたのためだけに、あなたのことを思って、そう言う感じで言わないと伝わらない」
「どういう意味?」
「相談に来ている人に、相談に乗るのだから、受け止める気持ちが大事だってことよ」
「え?」
「カロンさんは、さらっとしすぎている。にこやかに穏やかに笑うのは良いと思うわ。でもね、心配事があるからこそ相談しているわけだから」
「あ、いや、あれは別に、本当に心配事を相談しているだけじゃないかもしれないし」
「そんなことはどうでもいいのよ。視聴者向けのコーナーでしょう? 見ている人がどう思うかを考えて、言い方を変えたほうがいいと言ってやったら。息子だからかしらねえ、親にそう言う部分が似ているわ」
「どういう意味?」
「本当に相手のことなんて心配なんてしてない。だから、どうも軽い印象ってこと」
「え?」
「少なくとも東条圭吾はそう言う男よ」と言い切ったので、驚いた。




