新たな仕事
東条さんと一緒にテレビ局に行った。打ち合わせで呼ばれたらしく、
「私まで連れて行かなくても」と言ったけれど、
「そばについていた方がいいと思う。何事も勉強」
「そう?」テレビの番組には懲りている。軽い思い付きで、私に出てほしかった、そう言うのを目の当たりにした後なので、スタッフに対して、いい印象を持っていない。
「こういうのもいい勉強になるさ」
「そうかなあ」
「前のことを警戒しているのか?」
「当たり前でしょ」
「あれが普通だ」どこが普通なんだか。
「持ちつ持たれつ」意味不明なことを言われてしまった。
打ち合わせは軽い感じで行われた。雑談している感じでありながら、
「ここはこうしたほうが良くないですか?」
「まあ、事情があるからねえ、そこはよろしく」と簡単に言っている。あの時のスタッフと大差はないように思えた。打ち合わせを終えた後、東条さんが紙を見せてくれた。
「深夜番組なんだ?」
「そう」
「私で大丈夫かな?」
「撮りは深夜じゃないよ」と東条さんが笑った。
「とり?」
「そう、録画だからね。収録はもっと早い時間だ」
「ふーん」
「俺はワンコーナーを担当する予定」
「どんなコーナー?」
「ゲストを占うだけ」
「ゲストって?」
「そこは来てからのお楽しみってやつらしい」
「それで対応できるの?」
「何とかなるだろう」
「ふーん。有名人は出るの?」
「紙に書いてあるだろ」と言われてみたけれど、深夜番組で、聞いたことのない名前の人がずらっと並んでいる。知っているのは司会者とコメンテーターの一人だけだった。
「友達に自慢になりそうもないかも」
「口に出すな。そういうことはここを出てからだ。絶対に口に出してはいけない」
「え?」
「そう言うことが耳に入ったら、困る立場になるのは俺たちなんだよ」
「え?」
「機嫌を損ねるとややこしい出演者もいるんだよ。だから、対応は丁寧に。言葉遣いも丁寧にしろ」
「はあ、なるほど」
「小難しい人もいるからね。ただ、そう言う人のほうが露骨なんだけどな」と笑った。




