言える範囲1
収録が始まった。今日も2回収録だった。一回目の収録は、この間の合コン大好きなアイドル。球磨谷あやさんは、東条さんに愛想笑いをしていて、スタッフにも愛想を振りまいていた。収録の合間の休憩のときに、飲み物を飲んでいたら、近くでひそひそ話が聞こえた。
「あの子、また、不倫だってね」
「またなんだ? 人の男を取るのが趣味って、本当みたいね。例の格闘家のところ、離婚寸前だって。その前、テレビスタッフと遊んでたんだってさ。さすがに相手の男の奥さんとは、色々あったみたいよ」
「モデルの子と殴り合いのけんかしたって話も聞いたよ。その子の彼氏にちょっかい出したらしくて、言い返したんじゃないかって」うーん。
「あの笑顔で騙せると思い込んでいるところがすごいよね。もう、だませないよ。あの子、業界で評判、最悪だもの。この間なんかさ、シー」と言い合った後、行ってしまった。
「えー、あの女も出ていたの?」と言う声が聞こえて、そちらを見た。
「嫌よ。あんな女の後なんて」と球磨谷あやさんが怒っている。マネージャーさんが苦笑いをしていた。
「チグミと同じなんて、そんな扱いは嫌」と怒っている。そばにはスタッフがいないからか、明らかにごきげんが悪そうで、
「格下の女の後では嫌よ。もっと、ほら、いないの? 野球選手とか、サッカー、テニスでもいいわ。柔道は嫌よ。カッコいい人が少ないから」すごいことを言っている。
「お金がある人が良いわ。背が高くて、筋肉の付き具合がいい人が好みなのに」
「あとで確かめておくから」とマネージャーさんがなだめている。でも、口調はどうでも良さそうで、
「なんでチグミと同列に扱われなくてはいけないのよ。ねえ、もっと後に順番を変えて」
「いや、もう、収録した後だしね」
「彼女の後にして」
「彼女って?」
「さっきいたじゃない。あの女も、今日、収録なんでしょ?」
「ん、そうみたいだね」
「あの子の後にしてよ」
「あの子って、向こうのほうが年上だよ。芸歴も長いし」
「そんなのどうでもいいじゃない。ね、そうして?」にっこり笑って、マネージャーに微笑みかけている。ただ、マネージャーは、
「まあ、言っては見るけどさあ。駄目だと思うよ」と言いながら、どこかに行ってしまった。




