炎上タレント1
東条さんと一緒にテレビ局に行き、スタッフさんたちが浮足立っていた。
「確実だよな」
「それはそうだよ。あの女」
「おい、シ―」なんて言い合っている。
「なんだろう?」と思わず声が出た。東条さんは無言だった。
楽屋代わりの会議室で待たされていた。
「遅いね」と言ったけれど、もう一人、3,40代の女性が一緒に待っていて、化粧を念入りに行っている。東条さんは無言で何かを調べていて、やがて、一緒の部屋にいた人が行ってしまってから、
「今日は、発言しないように」と注意を受けた。
「なんで?」
「本当は、もっと後に出てもらう予定だったゲストが、急にこの時期に出ることになったから」
「え?」
「コーナーとして盛り上がりに欠けるからと、話題性のあるゲストを呼んで、視聴率を上げようって言う、取り組みだから」
「はあ、なるほど。え、盛り上がってないの?」
「今はその話はできない。あとで」と言われて、
「ごめん」と謝った。
「『すみません』と言えと言っているだろう。ここは仕事場だ」強めの口調で言われて、
「すみませんでした」と言いなおした。仕事で一緒に来ているので、言葉遣いは重要らしい。やがて、さっきの人が戻ってきて、
「ねえ、あの女が一緒に出るみたいよ。知ってる?」と嬉しそうに話しかけてきた。
「あの女?」誰のことかわからなくて、聞き返したけれど、東条さんは淡々と、
「そのようですね」とだけ答えていた。
「すごいわよねえ」と何か言いたそうで、東条さんは調べ物を続けていた。構わず、相手の女性が話を続けていた。
「お騒がせタレント」「子供をだしに使って」とかそう言う言葉が何度も出てきた。
「それで、あれでしょう? 落ち目になったから、慌てて、この番組でイメージ回復しようとしてるんじゃないかって。私の周りの、あの人の事、嫌いな人が多いのよねえ」とベラベラと話していて、東条さんは相槌すら打っていなかった。それでも話したくてしょうがないらしくて、
「あの女」「どうしようもない」「あれで母親なんだから」とばかり言っている。わたしは、誰の事か知らないので、東条さんを見たけれど、東条さんは気づいてもいない感じだった。




