2章 特別な福引券
ショウは気が付くと、大きな玉座に座っていた。
その玉座には、紅いクッション、黄金の背もたれが輝く豪華なものだった。
まるで、一国の王が愛用しているかのような貫禄がある。
大きな玉座も相まって部屋は、玉座の間の様だった。
「ここが異世界か?」
ショウは一瞬で視界に映る景色が変わった事に驚きながら辺りを見渡す。
ショウは、『そういえば今日は気付いたら知らない所に飛ばされてばかりだな』と苦笑する。
「とりあえず、白羊さんから貰ったマニュアルでも見てみるか」
ショウは手に持った本に視線を落とす。
本をめくり、目次に目を通す。
ショウは、この世界について書かれているページを開く。
『この世界について。この世界は地球とは違い科学と対の存在”魔法”が発展した世界。』
ショウはこの世界について書かれたページを読み終わった。
「簡潔にまとめ過ぎだぁ!」
ショウは、あまりに簡潔な文書
──否、いい加減な文書に思わず大声でツッコミを入れた。
「だがその前に、今いる場所についても調べないとな」
そう言うと、ショウは再び本に視線を向ける
〔十五分後〕
「はぁ……飽きた」
ショウは大きなあくびと共に、そんなことをつぶやき本を読む手を止めた。
「いや、まぁ……俺にしては頑張ったほうだよ……」
ショウは自分に、『俺は偉いだって十五分も読書したんだから!』と自分に言い聞かせていた。
ショウは基本的に、これといった長所がない。全てが平均だから。しかし逆に言えばこれといった短所も基本的にないのだ。
俗に言う『可もなく不可もなく』を具現化させた存在、だがショウにはどうしても出来ない事がいくつかある。
そのうちの一つが読書である。
ショウは生まれてこの方読書をした事が全く無い。
読んだ事のある本は漫画ぐらい。
「ヤバい詰んだ……マジでどうしよう」
異世界転生一日目でマニュアルが読めないと言う理由で第二の人生終了のお知らせ。
ショウは、『俺はもうこのまま死を待つしかないのか』と諦めかけたその時、ある言葉を思い出した。
『これは、特別な福引券です〜。あっちに着いたら使ってくださ〜い』
ショウは、白羊の言葉を思い出した。
「そうだ! あの福引券を使えばなんとかなるかもしれない!」
ショウは、ズボンのポケットから一枚の紙を取り出した。その紙には、『得別な福引券』と書かれている。
「白羊さん……字間違ってる……」
(え? これは、ワザと間違えたのか? それとも素で間違えたのか?)
ショウは頭の中で正直どうでもいい事を考えていたが。
「白羊さんなら後者だな」
と、どうでもいい結論を出した。
そう、今のショウにはどうでもいい事なのだ。 この福引券は白羊ではなく、黒山羊が作ったものと言うことも今のショウには、どうでもいい事なのだ。
気を取り直して、ショウは、玉座の横にあるガラガラへと向かう。
「よし! 記念すべき一回目の福引だ」
ショウはガラガラに手をかける……しかしある事に気づく。
「これ、どうやって使うんだろう?」
ショウはマニュアルが読めない、そのためガラガラを使おうとした。しかしマニュアルが読めないためガラガラの使い方がわからないのである。
「アレ? また詰んだ……」
しかし、ガラガラの使い方はとても簡単。
福引券をガラガラにかざすとガラガラを回せるようになる。
ショウは福引券をガラガラにかざす事ができるのか。
結果ショウは詰んでから約三十秒ほどで正解を導き出した。
ショウが福引券をかざすと福引券は光の塵になりガラガラへと吸い込まれた。
「よし! ガラガラが回せるようになったぞ!」
ショウは勢い良くガラガラを回す。
◇◆◇謎の空間
「あ! 翔くんが〜無事福引券を使えましたよ〜」
無機質な空間で白髪の女性がつぶやいた。
「いや、まさかそんな事でつまずくとは思わなかったぞ」
白髪の女性のつぶやきに少し呆れたように、黒髪の女性がつぶやいた。
「でも〜、黒ちゃんが福引券の字を間違えたのは少し面白かったよ〜」
白髪の女性、白羊が黒髪の女性、黒山羊の事をクスクスと笑う。
「いや、それは、最近仕事が忙しくて」
黒山羊が少し慌てたように白羊に言い訳をする。
「黒ちゃんって〜、しかりしてるようで天然な所があるからね〜」
またも、白羊が黒山羊の事をクスクスと笑う。
「そ、それよりも、翔がガラガラからなにを出すか見てみよう!」
黒山羊が露骨に話題を変える。
白羊はクスクスと笑い「そうですね〜」と黒山羊に相槌を打つ。
「そういえば、翔に渡した福引券からは何が出てくるんだ?」
黒山羊が白羊にちょっとした疑問を投げかける。
「あれは〜、”神降臨”の効果があるんですよ〜」
白羊があっけらかんと黒山羊の疑問に答える。
「へー、神降臨か」
黒山羊は、あまり驚きもせずに白羊に相槌を打つ。
が、次の瞬間
「は⁉ 白お前今なんて言った⁉」
黒山羊は慌てて白羊に問いかける。
「だから〜、神降臨ですよ〜。 神を降臨させる効果があるんですよ〜」
白羊は平然と黒山羊に再度説明をする。
「お前なんてものをあいつに渡してるんだよ!」
黒山羊は、怒り半分驚き半分で白羊に問いただす。
しかし、白羊は
「天界(神々の世界)の法律には引っかかりませんよ〜」
白羊は法律に引っかかってないからセーフだと言っている。
「た、確かに法には引っかかってないけど……」
黒山羊はこうなった白羊は誰にも止められないと知っているため反論をやめた。
ちなみに、福引券を作成した黒山羊が福引券の効果を知らない理由は福引券の作り方が理由である。
福引券の作り方
①黒山羊が福引券(紙切れ)を作る。
②白羊が福引券(紙切れ)に効果を付与する(神降臨など)。
③完成。
その為、黒山羊はショウに渡した福引券の効果を知らなかったのだった。
◇◆◇天界 某所
「はぁ……」
一人の少女が大きなため息を吐いた。
その理由はただ一つ。
「飽きたのじゃ」
少女は見た目、十四から十五歳程の外見には不相応な喋り方をする。
日本では、”のじゃロリ”などと呼ばれる。
「全く、死者の相手を数千年ずっとしていては、流石に飽きるのじゃ」
少女、──否、神は死後の人間を担当している神であった。
「もうこの仕事をやめて下界(人間などが住む世界)へ行きたいのじゃ」
神はこの仕事に嫌気が差していた。
そんなとき神の目の前に突如半透明の薄い板が現れた。
その板には、神宛の文章が書いてあった。
『下界で神降臨の儀式が行われた。天界上層部の会議により、貴女が適任だと判断したため、貴女に下界へと赴いていただきたい。 天界十二柱』
文書を読み終わった神は満面の笑みを浮かべていた。
「やったぞ! これで仕事をやめて下界へと向かう事ができるのじゃ!」
神は大きなガッツポーズを決め嬉しそうにはしゃいでいた。
「そうと決まればすぐに下界へ降臨する為の準備をはじめるのじゃ! 善は急げじゃ!」
〔十分後〕
「よし! 準備完了じゃ!」
神は大きな魔法陣を書き終わると腰に手を当て額の汗を拭う仕草をする。
「あとはこの魔法陣に飛び込むだけじゃ」
神は五メートル程助走して魔法陣へとダイブした。
◇◆◇異世界 玉座の間
ショウが勢い良くガラガラを回すと、ガラガラから金色の玉が出てきた。
「これは……大当たりなのか?」
ショウは出てきた玉が当たりかどうかがわからず小首を傾げる。
すると、金色の玉は光の塵になり空中に舞い上がった。
「うわぁ! 眩しい」
光の塵が空中に集まった次の瞬間強い光が輝いた。
あまりの眩しさに、ショウは腕で目を隠す。
光が輝きを失うと同時に光が輝いていた場所から一人の少女の声が聞こえた。
「ふむ、お主が妾を呼んだ者か?」
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次回の更新は12/16日21時予定です。
12月/16日一部内容を修正しました。