潜入作戦
まだ正午を過ぎたぐらいなのに、微妙に薄暗い屋敷の廊下。
窓枠には鉄格子が嵌められており、一歩間違えれば其処はまるで監獄のようでもある……まあ実際のところ、ほとんど牢屋と変わりはないのだが。
しかし、そんな場所を、似つかわしくないピンクブロンドの少女が歩いていた。
その正体は奴隷たちの食事係を任されたミトだ。
メイド服に身を包んだ彼女は、大量の黒パンと干し肉、そして豆のスープを乗せたキッチンワゴンを押している。
いま彼女が居る建物は、レイノルズ商会の奴隷収容棟。
特にこの区画は、比較的かよわい女性奴隷――いわゆる性奴隷たちを保管および展示するためのスペースであった。
メイドの少女ミトが廊下を進んでいくと、その突き当りにはまるで刑務所の入り口のような鉄格子の扉があった。
さらにその横には、扉を守る一人の看守が居た。
「やあ、ミトちゃん。ここのところ毎日だね。今日もまた、仕事を押し付けられたのかい?」
「お疲れ様です、ニックさん。まあ、いつものことですから」
「ハハ、じゃあ確認を……なんかいつもより、いろいろ大きくない?」
いつもよりサイズが一回り大きいワゴンを見て訝しむ看守。
しかしメイドの少女は特に慌てる様子もなく、ざっくりと事情を説明し始める。
「どうやらいつものカートは、他の方が使っていらっしゃるみたいですね。だから今使えるカートがこれしかなくて……あっ、パン多めに焼いたので、よろしければどうぞ」
そう言って、黒パンを一つ差し出すメイドの少女。これが御目こぼしを願う賄賂となるなら、可愛いものである。
「ああ、いつも済まないねえ」
愛想よい笑顔で黒パンを受け取りながら、看守としてキッチンワゴンを簡単にチェックし、異常がないか確認を始めた。
多少の違和感はあったものの……変なものが食べ物に紛れているなんてことは特にない。ワゴンが大きいせいで、無駄な空きスペースがあるだけだ。
「う~ん……まあ、問題はなさそうだね。通っていいよ」
「はい。では、失礼します」
「どうも、お疲れさん。差し入れ、ありがとうね」
メイドの少女はぺこりとお辞儀をすると、開けてもらった鉄柵扉を通過した。
……その後しばらくは、何もない真っ直ぐな通路が続く。
奴隷たちが収容されている区画はもう少し先だ。
しかし、曲がり角を曲がって看守の姿が見えなくなったところで、メイドの少女は口を開いた。
「……もう、出てきても大丈夫ですよ」
すると、キッチンワゴンの下段から、獣人のヴォルグが転がり出てきたではないか。
「ああ……キツかった」
無理に曲げていた身体を伸ばす彼の表情は、だいぶ憔悴しきったものだった。
「やっぱり、あの体勢はきつかったですか?」
なんのことは無い。彼は大きめのワゴンの中で、小さく体を丸めていたのだ。
そうしてまんまと、侵入に成功したわけである。
「いや、そっちは別に問題なかったんだけどよぉ……」
問題は、看守によるチェックの時だった。
その間だけは、ワゴンに潜むわけにもいかない。というわけで、彼はワゴンから抜け出し、ミトのロングスカートの中に隠れていたのである。
そこで、彼は目撃してしまったのだ。
「お前……男だったのか……?」
メイドの少女は、少女ではなく少年だった。
「……ハア?」
「いや、お前、オトコ……」
「え? 今さらですか? そもそも、知ってて声をかけて来たのでは……?」
メイドのミトからすれば意外だった。なぜなら、彼の鼻は自分がエルフの血を引いていることすら嗅ぎ分けたのだ。
それならば当然、自分の正体が男であることも勘付いているだろうと思っていた次第である。
しかし、究極の男の娘スキルの前には、獣人の鼻も意味がなかった。
「クッ、俺も修行不足だな……」
狩人としてその身を立てていた獣人のヴォルグは、自身の未熟さを実感した。
彼だって、年頃の男子だ。
リンスさんという恋人がいるとはいえ、ミトは一見すると顔の整った美少女である。そのスカートの中に隠れろと言われたときは……正直、すっごくドキドキした。
しかし、その結果がこれだ!
何が悲しくて、女物のショーツ(ちなみにリネン製のレース。ゴム素材はまだ貴重なので、紐を横で結ぶタイプ)に包まれた男性器を、超至近距離で見物しなければならないのだ!?
さらに、ミトはかなり小柄だ。そのスカートの中に、そこそこ立端のある男性が潜り込んだのなら……必然に起こるのは、危険な接触事故である。
そして体格の割に彼の一物がそこそこ立派だったせいで、事件の悲劇性がより一層増していた。
「だいたいなんで男が女物のパンツをはいているんだよ!? この変態!!」
「いや、男性用の下着を穿いていたら、洗濯の時バレるじゃないですか」
声を潜めて叫ぶヴォルグを、バカなの? と問いかけるような蔑んだ目でメイドのミトは見返した。
もちろん、住み込みで働いている従業員たちにとって、自分の下着は自分で洗うものだ。しかし……洗濯場をいつでも独占できるとは限らないのである。
皆が自分の下着を洗っている中、一人だけ男物の下着を洗っていようものなら――まあ、間違いなく目立つだろうし、バレないにしても無用なトラブルを招くだろう。
ヴォルグのほうも、その説明で一応納得したようだ。
「ううっ……そうか、お前も苦労してるんだな……」
彼は女装してまでレイノルズ商会で働く少年メイドのバックストーリーを想像し、勝手に同情する。
そうでもしなければ、微かに残る生温かい感触に、怒りともなんとも言えない感情が込み上げてしまうからである。
しかし、当のミトはそんな彼を放っておいて、つかつかとマイペースにキッチンワゴンを運んでた。
「さて、そろそろ着きますよ。もし恋人を見つけても、絶対に騒がないでくださいね?」
そう言うと、ミトはエプロンのポケットから鍵の束を取り出し、目の前に聳える厳重な二つ目の扉の鍵を開けた。
ブラ(パッド入り)も一応つけてます。
なんで作者は男のパンツを覗くお話を書いているんだろう? 出来れば女の子のお色気シーンを書きたかった……。




