八十九話 伝説のドラゴン
「サヤ様、少々よろしいでしょうか?」
エルフや配下のモンスターたちがジャックについて行ったところで、ドラキュリアが口を開く。
「どうした、ドラキュリア」
「実はサヤ様に少しご相談したいことがございまして、この城の戦力についてです」
「なるほど、我もそれについてはシグレと考えていたところだ。執務室に移動するとしよう」
そう言ってエントランスの階段を登って執務室へと移動を始めるサヤ、ドラキュリア、そしてシグレ。
執務室に着くと、ドラキュリアが早速本題へと入る。
「サヤ様、戦力を増やしましょう」
……と。
「そうだな。この城の戦力は素晴らしい、半数以上が上位アンデッドだ。しかし我が不死者ノ王となった以上、これだけでは戦力は足りぬ」
「その通りですわ、サヤ様。不死者ノ王ともなれば敵は多い、勇者はもちろん冒険者や他の不死者ノ王、それに聖王国など様々です。それらに対抗すべくワタクシは戦力を集めておりました。サヤ様のお力は素晴らしきものですが、それでもまだ……」
重々しい空気の中やり取りを交わすサヤとドラキュリア。
二人の意見に、シグレも同感であるといった様子だ。
「ドラキュリアよ、お主が先の迷宮で配下を増やすことに成功した場合、次はどのような一手を打つつもりでいたのじゃ?」
「シグレ様、それについては〝シャンダーレ王国〟の〝ムルトニア山脈〟に赴き、さらなる配下を増やすつもりでいました」
シグレの質問に机の上にある地図を指差しながら答えるドラキュリア。その指差す先には広大な大地を有する一つの国が描かれている。
「シャンダーレ王国……この国にはどのような配下を求めて赴くつもりだったのだ?」
「サヤ様、この国の山脈にはモンスターの中でも強力な種族――〝ドラゴン〟が数多く生息しています。そこにはとある伝説級のドラゴンが頂点に君臨しており、その周辺に生息するドラゴンの何体かを眷属に加えられればと愚考しておりました」
サヤの質問に答えながら、シャンダーレ王国の地図を広げるドラキュリア。その地図の中に、ムルトニア山脈は描かれていた。
「伝説級のドラゴンか、ちなみに其奴の名は?」
興味ありげな……というか、戦うのが楽しみだといった様子で質問をするサヤ。
その質問に対し、ドラキュリアは「そのドラゴンの種族名は〝バハムート〟といいます」と答える。
「ふむ、バハムートか」
地図に描かれたムルトニア山脈を指で撫でながら呟くサヤ。
そんな彼に、今度はドラキュリアが質問をする。
「サヤ様、まさかバハムートを配下に加えようなどとは……」
「その通りだ、ドラキュリアよ。我は強き者との戦いを求めている。それを配下にできるのであれば一石二鳥だ」
「お待ちください! バハムートは伝説級のドラゴン種です。一説によれば小国を単身で滅ぼしたという噂も……!」
バトルジャンキーなサヤに待ったをかけるドラキュリア。確かに戦力は欲しい。
しかしそれはバハムートの周辺に生息するドラゴン種を何体か眷属に加えられればという願望しか抱いていなかった。だというのに、まさかバハムート自体を配下に加えようなどと言い出そうとは……
「まぁ、ドラキュリアよ。ひとまずシャンダーレ王国に赴くとして、どのドラゴンを配下に加えるかはその時の様子を見て判断しても良いのではないか?」
「シグレ様……そうですね。いくらサヤ様とはいえ、バハムートに連なるドラゴンたちの力を目の当たりにすれば、お考えを変えざるを得ないと思いますし……」
そう言って、少しホッとした表情を浮かべるドラキュリア。しかし……
「決まりじゃな、サヤ?」
「決まりだな、シグレ」
そう言って、意味ありげな視線を交わしながら、クツクツと笑うスケルトンと妖刀美女。
二人の雰囲気から、ドラキュリアは確信した。
(あ、この二人、やる気ですわ……)
……と。
◆
数刻後――
サヤはナツイロ王国の王都、ルナへと戻ってきた。
シャンダーレ王国に旅立つ前に、フランたちに別れを告げるためである。
さっそくフランの屋敷へと赴き、そのことを伝えたの……だが――
「なるほど、そういうことであれば私も同行しましょう」
「うむ、サヤ殿には今回の件でさらに借りができてしまったからな」
「フランちゃんとダークちゃんがその気なら、私もついてくにゃん♪」
そんな言葉が、三者から返ってきた。
「良いのか? お前たちには他の仲間がいると聞く。その者たちと会いに行くべきでは?」
「サヤ、それなら心配は無用です」
「そうにゃ、仲間たちにはすでに手紙を出しておいたにゃ。心配いらないにゃん!」
サヤの質問にそんなふうに答えるフランとヴァルカン。
ダークも「そういうことだ、サヤ殿」と言いながら、サヤの膝の上に丸く収まってしまう。
「ふむ、ではその言葉に甘えるとしよう」
「そうじゃな、サヤ」
そう言って互いに頷き合うサヤとシグレ。
「(バハムート)……」
「(まさかここでヤツの名が出るとは思わなかったにゃん……)」
「(これも運命というやつだろうか……)」
フランにヴァルカン、そしてダークは、心の中でそんなことを思うのであった。