八十八話 ゲート開通
本日より三章開幕です。
しばらくの間は3日毎の更新を予定しております。
引き続き、お楽しみいただけると幸いです。
サヤが不死者ノ王として君臨してから一週間が過ぎたとある日の昼下がり、サヤはドラキュリアから引き継いだ城、その執務室の中でシグレとともに大量の羊皮紙を読み込んでいた。
羊皮紙にはこの城の歴史や先代不死者ノ王のこと、そしてこの城が有する戦力などが記されている。
先の件でサヤは新たに大量の配下を一気に加えることになった。それらを有効活用するためにシグレとともに勉強中というわけである。
そんなタイミングであった――
「サヤ様、失礼いたします」
ノックの音とともにドラキュリアが執務室に入ってきた。
羊皮紙から顔を上げ、ドラキュリアに用件を聞くサヤ。
するとこんな答えが返ってきた。
「サヤ様、エルフの里と城を繋ぐゲートの開通に成功しました」
……と。
「よくやった、ドラキュリア。さっそくエルフたちを連れていくことにしよう」
ドラキュリアに頷きつつ、サヤが立ち上がる。
城の戦力を再編成するための勉強を進める間、サヤはドラキュリアにこの城とエルフの里、ポーラを直接繋ぐゲートを作ることができないかと相談していた。
いくら里のモンスターやエルフたちが強くなり、グランペイルの結界があるとはいえまだ少し不安が残る。
しかしこの城とゲートを繋ぐことができれば、いざという時にエルフの里に戦力を送ることが可能となる。逆にエルフたちをこの城に逃すこともだ。
ドラキュリアに連れられ、城のエントランスへとやってきたサヤとシグレ。ドラキュリアがパチンっ! と指を鳴らすと、その場にゲートが開く。
「今はまだワタクシが操作する必要がありますが、いずれはサヤ様の配下の者であれば自由に行き来できるように改良するつもりですわ」
「そうか、頼んだぞ」
ドラキュリアの言葉に答えつつ、ゲートの中に足を踏み入れるサヤ。
歪曲した空間に取り込まれたような感覚に陥るもそれは一瞬であった。
次の瞬間にはエルフの里、その広場にたどり着いていたのだから。
「ブモ!? サヤ様、いつの間にお帰りになられたんですか!」
驚いた様子でサヤに声をかけてくるミノ。
ミノたちは先にサヤのスキルで里に帰していたのだ。
里の配下を移動させる分にはサヤのスキルで十分なのだが、それでは里側の配下やエルフたちの意志で移動することはできないし、何よりもサヤ自身が移動できない。だからこそ、ドラキュリアにゲートの開通を命令したわけである。
「ミノ、皆を集めろ。城とのゲート開通に成功した」
「ブモ! そりゃ素晴らしい! 今集めて来ますぜ!」
そう言って、ミノは走っていった。
それから少し――
広場にこの里に住まうエルフとモンスターたちが集まってきた。
久しぶりのサヤの帰還が嬉しいのか、皆笑顔を浮かべている。
「皆、よく集まってくれた。ミノたちから何となく話は聞いていると思うが、我は不死者ノ王となった」
皆を見渡しながら話を始めるサヤ。その言葉を聞き、エルフとモンスターたちが「さすサヤ様!」「迷宮を支配しただけでなく王になってしまうなんて!」と興奮した声を上げる。
「皆落ち着け、サヤが話している最中じゃ」
呆れたかのような……それでいて微笑を浮かべながら、注意を促すシグレ。
皆が落ち着いたところで、サヤが再び口を開く。
「それでだ、このいるヴァンパイア……先代の不死者ノ王、ドラキュリアがこの里と我が城を繋ぐゲートを開いてくれた。おかげでいざという時に、我や城の戦力がこの地に駆けつけられるようになったのだ」
その言葉を聞き、またもやエルフやモンスターたちが興奮、そして安堵の声を漏らす。やはり皆、サヤが不在の間はどことなく不安を感じていたようだ。
サヤの言葉は続く。
「そこでだ。皆、城がどんな場所か興味はないか? 興味のある者たちは城に案内するとしよう。居心地が悪ければすぐに帰ってこられるから安心するがいい」
「私、行きたいです!」
「私も〜!」
サヤが話し終えると、エルフたちが次々と手を上げる。
どうやら皆城がどのようなものか気になっていたようで、里にいるほとんどの者たちがついてくることになった。
「良いか? ドラキュリア」
「もちろんですわ、サヤ様」
サヤの言葉に嬉しそうな表情を浮かべながら、再びパチンっ! と指を鳴らすドラキュリア。すると広場の真ん中に、先ほどと同じ形のゲートが開く。
「よし、それではついてくるがいい」
そう言ってゲートの中へと進むサヤ。そのあとをエルフと前回の戦いでは留守番組だったモンスターたちがワクワクした様子でついてくる。
そして――
「うわ〜!」
「なんて大きいの!」
「素敵な空間……」
エントランスの中に転移するや否や、配下たちが感動のあまり声を漏らす。
まぁ、無理もない。これほどまでに広大な空間を有する建物、そしてこれでもかと煌びやかな内装を見る機会など、里や迷宮で暮らしていたらなかったのだから。
「ふほほほ! それでは、ここからはこの私めが案内いたしましょう!」
そんな陽気な声とともに、カボチャ頭をした執事服の男が現れた。
彼の名はジャック、この城の中でも高位のアンデッドであり、以前はドラキュリアの補佐をしていた存在だ。
「ジャック、皆を頼んだぞ」
「サヤ様の庇護下にあるエルフ嬢たち、そして配下の皆様、必ずや喜ばせてみせましょうぞ!」
ふほほほ! と笑いながら、ジャックはエルフたちを連れて歩きだす。
エルフたちも「なんだか面白い方ね」「すごく陽気でアンデッドとは思えないわ」などと楽しそうに彼の後についていく。