八十五話 激突
『ブモッ！ 喰らえ！』
先頭を駆けるミノが敵のアンデッド・オーガに向かって、盾によるチャージアタックを仕掛ける。
一体目を吹き飛ばすとそのまま次の敵に戦斧で斬りかかる。
『キシャッ！ 薙ぎ払ってくれる！』
ペドラがテールアタックを繰り出し、次々にアンデッド・ワーウルフどもを吹き飛ばしていく。
その際に体から生えた刃による裂傷も同時に与える。
『グギャ！ 俺に続け！』
『『『応ッッ！』』』
ゴブイチを先頭に、ゴブリンウォーリアたちがアンデッド・ビッグファングどもに剣を振るう。
さらに後方からは弓や杖を手にした他のゴブリンウォーリアたちが、矢と魔法で援護射撃を行う。
『グォォォォォォ！ ゴーレ、暴れ……る……ッ！』
ドシンッ！ ドシンッッ！ と地面を揺らし駆けるゴーレ。
アンデッド・ワイバーンが翼爪による攻撃を放ってくるも、それを巧みに防御し、渾身のハンマーパンチを叩き込む。
『ば、馬鹿な……！ いくら進化種とはいえ、ランクが上のアンデッドたちを相手に圧倒するなんて……！？』
狼狽した声を漏らすドラキュリア。
確かに彼女の言うとおり、サヤの配下たちのランクは、ドラキュリアの放ったアンデッドたちよりもランクは低いかもしれない。
しかし、彼らは進化種だ。さらにサヤ含めた仲間同士で常に己を高めるための鍛錬を常に行ってきた。
そして自身の実力だけでなく、種族の壁を越えた連携力もある。この迷宮でアンデッド化されたばかりのドラキュリアの眷属とは、戦闘力の質が違うのだ。
「さぁ」
【ワシたちも始めるとしよう】
サヤと、彼の手にしたシグレが呟く。
『くッ、スケルトン風情がぁぁぁぁぁぁ――ッッ！』
モンスターとアンデッドの戦い中、悠然と進んでくるサヤに向かってドラキュリアが叫ぶ。
それとともに魔法陣を展開し、《ブラッディレイン》を放つ。
「無駄だ――」
闇霞を操り、片手でシグレを振るうサヤ。
刀身に纏わりついた闇霞が高圧縮された魔槍へと姿を変え射出される。
先ほど同じように、漆黒の魔槍は血の雨を消しとばす――。
（な、なんですの、このスケルトンは……！？）
不死者ノ王である自分の攻撃が、最下級アンデッドであるスケルトンに無効化されたことで、ドラキュリアはさらに狼狽した様子を見せる。
しかし――
『ならば接近戦ですわ……ッ！』
――血色の魔槍を構え、そのままサヤに向かって飛び出した。
「ふんっ、速いが……フランほどではないな」
サヤは少々つまらなそうな声を漏らしながら、ドラキュリアの放つ連続突きを全て捌いていく。
『な……！？ こ、こんなことが……ッッ！』
突きを繰り出しながら、瞳を見開くドラキュリア。
サヤの放った《閻魔ノ黒魔槍》を見て、ドラキュリアは目の前のスケルトンが遠距離戦闘を得意とする個体なのだと判断し、近接戦へと切り替えた。
しかし今、自分の放つ攻撃の尽くが、たった一本の刀で捌かれている……その事実を受け止め切れないのだ。
「今度はこちらからいこう」
小さく言葉を紡ぐサヤ。
彼の姿がドラキュリアの目の前から消え去った、その刹那――――
斬……ッッ！！
そんな音ともに、血飛沫が舞い散る。
見ればドラキュリアの脇腹が大きく切り裂かれているではないか。
『ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――ッッ！？』
悲鳴を上げ、脇腹を押さえるドラキュリア。
彼女は瞬時に理解する。
自分はスケルトンの持つ刀によって斬られたのだと。
このままでは次の攻撃が来る……ッッ！
そう判断し、ドラキュリアは激痛に耐えながら大きくバックステップする。
今まさにドラキュリアのいた場所を、漆黒の刃が通り過ぎる。
「ほう、躱したか」
スキル《エンチャントウィンド》で生み出した気流を纏ったサヤが、感心した様子で声を漏らす。
そんなサヤの動きに警戒しつつ、ドラキュリアは周囲の戦況を窺う。
配下であるアンデッドたちは次々に倒され、モンスターたちが圧倒的に優勢だ。
『くッ……、こうなれば――ッッ！』
ドラキュリアが両腕を頭上に掲げる。
すると彼女の目の前に今までとは比にならないほどに巨大な魔法陣が出現した。
「サヤ……、気をつけてください……！ 大規模攻撃が、きます……ッッ！」
聖剣で体を支えながら、フランが苦しげな声で言う。
彼女の言うとおり、ドラキュリアが展開した魔法陣からは凄まじい量のエネルギーを感じ取ることができる。
恐らくこのまま攻撃が放たれれば、サヤだけでなく周りのモンスターやフランさえも飲み込まれてしまうだろう。
【サヤ！】
「ああ、〝アレ〟をやるぞ、シグレッ！」
そう言って、サヤはシグレを片手で上段に構える。
彼の体に纏わりついていた闇霞、その全てがシグレの刀身に集まり……ギン――ッッッッ！！ と音を立てて巨大な闇色の〝エネルギーブレイド〟を形成する。
『ぐっ！？ 《ブラッディストリーム》ゥゥゥゥゥゥ――ッッ！』
目の前のスケルトンに攻撃を放たれる前に！
ドラキュリアは大魔術を発動した。
凄まじい量のマナが鮮血色の奔流となり、サヤに襲い来る。
だが――
【慟黒剣！ 唐竹割りッッ！！】
「でぇあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――ッッッッ！！」
――シグレとサヤが裂帛の声で叫ぶ。
巨大なエネルギーブレイドを振り下ろし、ドラキュリアの大魔術を迎え撃つ――。
鮮血色の奔流と闇色のエネルギーブレイドが激突し、爆音と凄まじい衝撃波が生まれる。
エネルギーブレイドは敵の攻撃を真っ二つに切り裂き……消し飛ばした。
『――ワタクシの敗北です……。こんなの、勝てるわけがありませんわ……』
全ての力を使い果たしたドラキュリアが、その場で膝を折る。
彼女が戦意を完全に失ったのを確認すると、サヤは静かに、シグレを納刀するのであった――。
