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八十四話 形勢逆転

 不死者ノ王――それはこの世にいくつか存在する、アンデッドの頂点に立つ者の称号であり地位である。

 そのほとんどがアンデッドの中でも特に強大な力を有しており、配下のアンデッドを自在に操ることができるとされている。


『クフフフ……さぁ、あなたを血祭りに上げて差し上げますわ、聖剣使い』


 そう言ってエンシェントヴァンパイア――ドラキュリアは指をパチンッ! と鳴らす。

 すると奥の方から次々にアンデッドが溢れてくるではないか。


「ぐ……っ、このアンデッドたち、ま……さか……!」


 次々に姿を現すアンデッドの姿を見て、フランはとあることに気づく。

 現れたのはワーウルフ、オーガ、ワイバーンなど、この迷宮に生息するモンスターの種類に偏っていることに。


『クフフ……よく気付きましたわね。そう、この子たちは全てこの迷宮でワタクシが眷属化させてもらったのですわ。――さぁ、我が配下たちよ、その聖剣使いを始末しなさい!』


 ドラキュリアが高らかに叫ぶ。

 その声を聞いて、アンデッド化したモンスターたちが咆哮を上げ、フランに襲いかかってくる。


「ぐ……ッッ!?」


 アンデッドどもの攻撃の嵐に曝され、呻き声を漏らすフラン。

 辛うじて回避・防御することには成功しているが、ドラキュリアの秘術によって蝕まれた体に激痛が走る。


『あらあら、このフィールドの中でよく頑張りますわね』


 防戦一方のフランの姿に、嗜虐的な笑みを浮かべるドラキュリア。

 そのままトドメとばかりに、頭上に手を掲げ魔法陣を展開、再び血色の魔弾を降らせようとマナを練り上げる。


 それに気づいたのか、アンデッドたちは一斉にバックステップし、フランから大きく距離をとる。


『さぁ、死になさい……ッ!』


 ドラキュリアの叫びとともに、魔弾が血の雨のようにフランに向かって降り注ぐ。


 弱体化したフランに、それを防ぐ術はない。

 諦めたかのように表情で降り注ぐ血の雨を見上げる……そんな時だった――


「《閻魔ノ黒魔槍》……ッッ!!」


 ――裂帛の声が響き渡る。


 刹那、フランの後ろから一条の漆黒色の閃光が迸った。

 閃光は血の雨を飲み込み、消し去った。


「サ、ヤ……?」


 後ろを振り返るフラン。

 そこには闇を纏い、妖刀を手にした一体のスケルトンが立っていた。


「遅くなった、あとは我に任せろ」


 そう言って、スケルトン――サヤはゆっくりとした足取りで進み、フランの前に立つ。


『クフ……クハハハハハハ! 「我に任せろ」ですって? スケルトン一体でどうやってこの数を相手にしようと言うのかしら?』


 サヤの言葉を聞き、ドラキュリアが高笑いする。


 確かに目の前のスケルトンは、アンデッド・サイクロプスを単体で倒してしまうほどに強いのかもしれない。


 しかし、不死者ノ王である自身とこの迷宮で配下にしたアンデッドの軍勢を前に単体で戦おうというのだから笑ってしまうというものだ。


『まぁいいわ、先ずはお前から消し去ってあげますわ』


 残虐な笑みを浮かべ、その手の中に魔槍を出現させるドラキュリア。


 しかし――


「それはどうかな?」


 ――落ち着いた……否、面白そうな声でサヤが言葉を紡ぐ。


『はぁ……?』


 サヤの言葉を聞き、呆れたような様子で声を漏らすドラキュリア。

 いったい、目の前のスケルトンは何を言っているのか……と。


「《サモンゲート》、発動……!」


 サヤが叫ぶ。

 すると彼の後方に巨大な魔法陣が出現する。

 その中から、次々とモンスターたちが現れる。


『ば、馬鹿な! 進化種のモンスターですって!?』


 狼狽した声を漏らすドラキュリア。


 そう、現れたモンスターたちはミノタウロスナイトやサーペントブレイドドラゴン、エンシェントゴーレムにゴブリンウォーリアなど、進化を遂げたモンスターばかりなのだ。


『ブモっ! これは面白そうなことになってますね、サヤ様!』


 ミノタウロスナイト――ミノが好戦的な表情でサヤに語りかける。


『キシャ! あの者どもを倒せということでよろしいのですね!』


『グギャ! サヤ様に歯向かう者など全て血祭りに上げてくれる!』


 ミノに続き、ペドラにゴブイチたちも目を血走らせて声を上げる。


 その後ろで、ゴーレムからエンシェントゴーレムへと進化したゴーレも、『久しぶり、の、戦い……ゴーレ、楽し、み』と、両手の拳をぶつけ合い、今にも飛び出す勢いだ。


「いくぞ、我が配下たちよ」


『『『ウォォォォォォォォォォ――ッッ!!』』』


 サヤの言葉に、モンスターたちは一斉に雄叫びを上げて駆け出した。

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