八十三話 不死者ノ王
「ハァァァァァァァ――ッ!」
『ぐぅぅぅ……ッ!?』
凄まじい速度で聖剣と魔槍を撃ち合うフランとエンシェントヴァンパイア。
戦況はフランの方が優勢といった模様だ。
フランは聖剣 《アロンダイト》の他に聖大剣 《レーヴァテイン》も召喚し、二刀流による連撃でエンシェントヴァンパイアを圧倒しているのだ。
『ぐっ……、調子に乗るな!』
フランの大振りな攻撃を魔槍でガードすると、エンシェントヴァンパイアは大きくバックステップすることで攻撃の嵐から離脱する。
そのまま頭上に手を掲げ『《ブラッディレイン》――!』と叫ぶ。
すると天井付近に真紅の魔法陣が展開し、その中から血色の魔弾の雨が凄まじい速度で降り注いでくるではないか。
「《セイクリッドギフト》……ッ!」
降り注ぐ敵の攻撃を前にフランもスキルを発動する。
フランの体が眩い白銀のオーラを纏う。
その刹那、凄まじい速度でフランはステップを踏み敵の攻撃を回避してみせる。
神聖属性魔法スキル、《セイクリッドギフト》――
聖なる力により付与された者の身体能力を大幅に向上させ、スキルによる攻撃力の威力、防御力もアップさせる効果を持つ。
それ即ち、アンデッドであるエンシェントヴァンパイアに対し、これまで以上に有利に戦うことができるということだ。
二本の聖剣を手に、フランが敵を見据える。
この次で終わらせるつもりなのだ。
しかし、どういうことだろうか……
『クフフフ……ッ』
……圧倒的に不利な状況だというのに、敵――エンシェントヴァンパイアは笑みを浮かべているではないか。
「――何を笑っているのです」
『聖剣使い、確かにお前は強いですわ。なので、ワタクシは〝コレ〟を使うことにしましょう』
フランの問いに、エンシェントヴァンパイアは優雅な手つきで、胸の谷間から毒々しい赤色をした宝石のようなものを取り出した。
『……ッ!』
それが何であるかわからない。
しかしフランの戦士としての勘が、エンシェントヴァンパイアが取り出した代物を使わせてはマズいと警鐘を鳴らす。
ダン――ッ!
一気に踏み込みエンシェントヴァンパイアへと突撃するフラン。
右手の《アロンダイト》で渾身の刺突を放つ……その刹那であった――
『《不死者王ノ万魔殿》発動……ッッ!』
――エンシェントヴァンパイアが叫ぶ。
手にした宝石が赤黒く染まった膨大なマナを放つ。
マナに飲み込まれてはマズいと判断し、フランは咄嗟に大きくバックステップする。
しかし赤黒く染まったマナはいとも簡単に彼女を飲み込み、この階層全体をその色に染める。
「ぐ……っ、こ……れ、は……ッッ!?」
突如としてフランが苦しげな声を漏らす。
そのまま片膝をついて左手の聖剣を手放してしまったではないか。
『クフフフ……苦しいでしょう、聖剣使い?』
笑みを浮かべ、問いかけてくるエンシェントヴァンパイア。
「エ……エンシェントヴァンパイア……、いったい……何を……ッ」
ガクガクと膝を震わせながら、再び聖剣を握り締めて立ち上がるフラン。
よく見れば聖剣の輝きが先ほどよりも弱まり、フランの体に赤黒い霧のようなものが纏わりついている。
『あなたが厄介だったので、ワタクシも本気を出させてもらいましたわ。《不死者王ノ万魔殿》――神聖属性を持つ者の体を蝕み弱体化させる効果を持つ……〝不死者ノ王〟のみが発動できる秘術、と言えば伝わるかしら?』
「不死者ノ王……ッッ!?」
エンシェントヴァンパイアの言葉を聞き、思わず目を見開くフラン。
そんな彼女の反応に、面白そうにクツクツと笑いながらエンシェントヴァンパイアが言葉を紡ぐ。
『申し遅れましたわね、ワタクシの名は〝ドラキュリア〟――エンシェントヴァンパイアにして、不死者ノ王の一柱ですわ』