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八十二話 それぞれの戦い

「んにゃ〜! 喰らうにゃん!」


 ハンマーを振り上げ、ヴァルカンが跳躍する。


『グロロロロロッッ!』


 アンデッド・オルトロスは唸り声を上げると、その場で大きくサイドステップ。

 ヴァルカンの攻撃を躱してしまう。


『グロロッ! 《ヘルブレイド》!』


 アンデッド・オルトロスがスキルを発動する。

 両肩から地獄の業火を思わせるような赤黒い刃が生えてきたではないか。

 刃は赤熱化しているのか、金属が焦げ付くような匂いが漂う。


『グロロロロロ――ッッ!』


 再び唸り声を上げ、ヴァルカンに襲いかかるアンデッド・オルトロス。


『させるか!』


 凄まじいスピードでダークが飛び出した。

 スキル《フレイムエッジ》で炎の剣と化した尻尾をさらに巨大化させ、アンデッド・オルトロスの《ヘルブレイド》を迎え撃つ。


 炎属性の刃同士が激突し、激しく火花を散らす。


「ダークちゃん、ナイスにゃん!」


 ダークの援護を受け、ヴァルカンがアンデッド・オルトロスのサイドに回り込み、ハンマーによる攻撃を繰り出す。

 ハンマーはアンデッド・オルトロスの横腹にクリーンヒットし、勢いよくめり込んだ。


『グロロロロロロァァァァァァァ――ッッ!?』


 ヴァルカンの渾身の一撃を受けたことにより、オルトロスが衝撃のあまり悲鳴を上げる。

 だが、アンデッド化して痛覚がないのか、すぐに体勢を立て直して爪による攻撃を繰り出してきた。


 ダークとヴァルカンはともに大きくバックステップすることでそれを躱す。


 一瞬、この隙をついてグランペイルは《デモンズフレイム》をアンデッド・オルトロスに放とうかと思った。

 しかし、先ほどのアンデッドの群れで消耗したアリサ、それにバーンを始めとしたモンスターたちが標的にされる可能性を考慮し、今は見守ることを選択する。


「く……っ、まさかあんなに強力なアンデッドが出てくるなんて……」


『戦闘に参加できないのが歯痒い……』


 グランペイルの後ろで、彼とレッサーデーモンたちに守られながら、アリサやバーンが悔しげに言葉を漏らす。


 そうしている間にも、戦闘は激化する。


 ◆


『グォォォォォォォ――ッッ!』


 凄まじい咆哮を上げ、拳を奮ってくるアンデッド・サイクロプス。

 スケルトンであるサヤは打撃が弱点だ。

 一発でも喰らえば木っ端微塵になってしまうであろう。


 しかし、サヤに慌てた様子はない。

 スキル《エンチャントウィンド》で纏った気流を操り、敵の攻撃を余裕で躱していく。


「シグレ、アンデッドは炎が弱点であったな」


【ああ、その通りじゃ!】


「よし、《エンチャントフレイム》――!」


 シグレの答えを聞き、さらにスキルを発動するサヤ。

 次の瞬間、シグレの刀身に燃え盛る炎が付与される。


 タンッ!


 サヤは軽やかなステップで、アンデッド・サイクロプスの放ってきた拳を躱し、その隙を突いて懐に飛び込む。

 予想外の行動、そしてあまりの速さに、アンデッド・サイクロプスが一瞬だけ怯んだ様子を見せる。


「ここだ――ッ」


 炎を纏ったシグレによる斬撃を放つサヤ。

 目にも止まらぬ一撃で、アンデッド・サイクロプスの腕を大きく切り裂くことに成功する。


『グォォォォォォ――ンッッ!?』


 あまりに大きな一撃、そして自身の弱点となる炎を受けたことで、アンデッド・サイクロプスが思わず悲鳴を上げる。

 だが、さすがは召喚獣――見た目に似合わぬ軽やかなバックステップで大きく後退することで安全を確保する。


 そのままもう片方の腕を頭上に掲げ――


『グォォォォ! 《ヘルランス》ッッ!』


 ――唸り声とともに、スキルを発動する。


 発動とともに、アンデッド・サイクロプスの頭上に巨大な禍々しい紫色の槍が現れる。

 その切っ先をサヤに向けると、凄まじい速度で射出される。


【サヤ!】


「ああ、――《閻魔ノ黒魔槍》、発射ッ!」


 シグレの掛け声に、サヤは闇霞を操作する。

 高圧縮した闇霞をシグレに纏わせ一気に振り抜いた。


 轟――ッッッッ!!


 という凄まじい音とともに漆黒の魔槍が飛び出し、敵の放った紫の魔槍とぶつかるとそのまま破砕してみせる。


 サヤの放った魔槍の勢いは止まらない。

 凄まじい勢いで直進し、そのままアンデッド・サイクロプスの肩を――ドパンッッ! 撃ち抜いた。


『グアァァァァァァァァァァ――ッッ!?』


 激しく悲鳴を上げるアンデッド・サイクロプス。

 アンデッドだというのに、その大きな一つ目には恐怖の色が浮かんでいる。


「さぁ、もっと楽しませてくれ」


 闇を纏ったスケルトンが、絶望の言葉を紡ぐ――。

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