八十一話 さらなる召喚
『あら? お仲間を置いてきたのですか、少し困りましたわね……』
サヤとフランが迷宮の次なる階層へと足を踏み入れてところで、エンシェントヴァンパイアが振り返る。
『エンシェントヴァンパイア、お前の目的を言いなさい』
そう言いながら、フランが右手に聖剣 《アロンダイト》を呼び出す。
それと同時に、サヤもシグレを抜く。
『あら……あなた聖剣使いだったのね、そっちのスケルトンは――まさか妖刀使い?』
フランとサヤの得物を見て、エンシェントヴァンパイアは少々警戒した様子で金の瞳を細める。
そのまま、『あまり戦力を消費したくなかったのですが……いいでしょう』と呟きながら、右手を前に突き出す。
すると先ほどと同じように真紅の魔法陣が展開され、その中からまたもや一体の異形が現れた。
「まさか! 〝サイクロプス〟……!?」
驚愕に目を見開くフラン。
目の前に現れたのは体の一部が朽ちた、四メートルほどの一つ目の巨人だった。
サイクロプス――オルトロスと同じく、召喚獣と呼ばれる存在の一つだ。
体の一部が朽ち、骨が覗いているのを見るに、こちらもアンデッド化しているようだ。
『アンデッド・サイクロプス、あの者たちを血祭りにあげなさい!』
エンシェントヴァンパイアが叫ぶ。
それに応えるように、アンデッド・サイクロプスは地の底から響くような雄叫びを上げると、拳を振り上げ駆けてくる。
「く……っ、また逃げる気ですか!」
アンデッド・サイクロプスとは反対に、迷宮の中へと歩き出したエンシェントヴァンパイアを見て、フランが声を上げる。
フランとサヤを一瞥すると、エンシェントヴァンパイアは姿を眩ませる。
ドパンッッ!
凄まじい音が鳴り響く。
アンデッド・サイクロプスの拳を、フランが《アロンダイト》でガードした音だ。
『グォォォォォ!』
拳が防がれるや否や、アンデッド・サイクロプスは叫ぶ声を上げ、もう片方の拳を振り上げる。
「させるか、《フレイムバレット》――ッ」
アンデッド・サイクロプスの腕に向かって火の魔弾を飛ばすサヤ。
そのまま《エンチャントウィンド》を発動し、気流を操作し爆発を起こす。
『グォォォォォ――ンッッ!?』
腕に爆発を喰らい、アンデッド・サイクロプスがバランスを崩す。
そこへすかさずサヤがシグレで斬り込んでいく。
「フラン、ここは我に任せろ」
アンデッド・サイクロプスに斬撃を見舞いながら、サヤが言う。
「サヤ……ありがとうございます」
一瞬迷うような仕草を見せるも、フランはサヤの実力を信じ、迷宮の奥へと進んでいく。
何をしようとしているのかは知らないが、エンシェントヴァンパイアの企みを阻止するために。
◆
『意外でしたね、まさかあなた一人で来るとは。さすが聖剣使い、肝が据わってますわね』
迷宮のさらに奥にて――
フランに追いつかれたところで、エンシェントヴァンパイアが言葉を紡ぐ。
優雅な仕草とは裏腹に、その雰囲気は少々不愉快さを醸し出している。
「お前がこの迷宮で何をしているか、それを聞いても無駄でしょう。……ならば、問答は無用です!」
本当であれば敵の目的を知りたかった。
しかし、先ほどの問答は意味を為さなかった。
ならば討滅あるのみだ。
フランは《アロンダイト》を片手に、エンシェントヴァンパイアに向かって飛び出した。
『ふんっ、《ブラッディランス》――』
突撃してくるフランを一笑しながら、スキルを発動するエンシェントヴァンパイア。
その手の中に巨大な血色の魔槍を出現させる。
聖剣と魔槍が激しくぶつかり、凄まじいほどの衝撃波を放つ――。