七十八話 エルダーリッチ
【しかし、まさかお前以上のモンスターがまだ潜んでいるとはのう……】
迷宮の中を進みながら、バーンに話しかけるシグレ。
バーンの治療を終えて少し――
サヤたちが迷宮の異常事態の調査に来たことを伝えたところ、バーンから、自分も強力なモンスターに住処を追われたという答えが返ってきたのだ。
つまり……この迷宮の奥には、さらに強力なモンスターが潜んでいるということになる。
バーンの話によると、その存在は突如迷宮に現れ、強大な戦力でバーンを圧倒したという話だ。
「Aランクモンスターを圧倒するなんて……」
「いったい何が潜んでいるにゃん……?」
バーンの言葉に、アリサは少々怯えた様子を見せ、ヴァルカンは首を傾げる。
「この先にいるな」
【ああ、とてつもないプレッシャーを感じるのじゃ】
迷宮のさらに奥の階層へと通じる道を前に、サヤとシグレがそんなやり取りを交わす。
今までのモンスターとは別ものの、纏わりつくような……なんとも言えない威圧感がひしひしと伝わってくる。
「さぁ、いきましょう、サヤ」
「ああ」
フランの言葉に頷き、一緒に奥へと足を踏み入れるサヤ。
少し歩くと、広大な空間の中央に佇む一体の異形の姿が見えてきた。
『ほう……ここに私以外の者が現れるとは』
サヤたちの姿を見て、異形は言葉を紡いだ。
骸骨だ。
豪奢なローブを身に纏い、その手に大きな宝石のようなものが嵌め込まれた長杖を持った骸骨が、言葉を紡いだのだ。
「まさか、〝エルダーリッチ〟……?」
骸骨の姿を見て、眉を潜めながらフランが声を漏らす。
エルダーリッチ――それは数いるアンデッドの一種であり、魔法スキルを得意とするかなり高位の存在だ。
エルダーリッチの姿を見て、バーンが後ろの方で威嚇するように『グルル……ッ』と低い声で唸っている。
どうやら、バーンを下層へと追いやったのはこのエルダーリッチで間違いないだろう。
『それにしても……どういうことだ、なぜスケルトン如きが他のモンスターや人間を連れている?』
長杖の先端を、カツンッと地面に当てながら不思議そうに声を漏らすエルダーリッチ。
そのまま少し考える様子を見せ――
『まぁいい、どちらにせよ殺すのみだ。出でよ! 我が配下たちよ……!』
――そんな言葉とともに、長杖を頭上に掲げる。
地面の至る所に毒々しい緑色の魔法陣が無数に浮かび上がる。
すると魔法陣の中から、スケルトン、ビーストスケルトン、リッチ、レイスなどのアンデッドの群れが現れたではないか。
「なるほど。このアンデッドの数を前に、お前は住処を追われたわけか」
目の前のアンデッドの群れを見て、バーンに問いかけるサヤ。
バーンは口惜しげに、『その通りです、サヤ様……!』と答える。
『サヤ様、ここは俺にやらせてくれ』
そんな言葉とともに、グランペイルが前に出てくる。
「ふむ……まぁ、いいだろう」
未知の敵を前にワクワクしていたサヤだったが、たまには配下にいい顔をさせてやるのも大事だろうと思い、グランペイルに道を開けてやる。
『犬がしゃべった……? いや、その前に犬如きが私たちの相手だと?』
嘲るように小さく笑いながら、グランペイルを見下すエルダーリッチ。
『その余裕がいつまで続くかな? ……第一形態、解放――ッ!』
グランペイルが叫ぶ。
その体が紫色の光に包まれた。
そして光の中から、かつてサヤたちと対峙した時の……大悪魔の姿をしたグランペイルが現れたではないか。
『ば、馬鹿な! 悪魔だと……!?』
『驚くのはまだ早いぜ! 来い! 下僕どもよ――!』
驚愕するエルダーリッチを前に、さらに力を解放するグランペイル。
エルダーリッチと同じく無数の魔法陣を地面い展開し、自身の眷属であるレッサーデーモンたちを召喚する。
「わたしもやります!」
『グルルッ! 拙者も加勢するぞ!』
『我らの力をサヤ様にお見せするのだ!』
『『『ワオォォォォ――ン!』』』
アリサが刀を構える。
その後ろでバーン、オニイチ、ウルを始めとしたモンスターたちも雄叫びを上げる。
『いけ! 下僕どもよッッ!』
『『『キキ――ッッ!』』』
グランペイルの指示で、レッサードラゴンたちが一斉に飛び出した。
アリサたちはその勢いに負けず、後に続く。
『ぐ……ッ、我が配下たちよ、迎え撃て……ッ!』
想定しない展開に気圧された様子を見せつつも、エルダーリッチがアンデッドどもに指示を飛ばし、軍勢同士が激突する――。